慎一のアルバイト先のホテルを見学に来た四人だが、そこである芸能人をめぐるごたごたに巻き込まれてしまう。不運にも、スクープのためには手段を選ばぬあこぎな週刊誌記者火尻政嗣と遭遇する。彼は、複数の人間のプライバシーを記事によって暴き、自殺にまで追い込んだことのある札付きだった。おりしも、直前にはたらいた銀行強盗の際左手に怪我を負ったことがテレビで告知され、左手に包帯を巻いた久遠は火尻に怪しまれることになる。その日以来、成瀬は痴漢冤罪騒動に巻き込まれ、久遠は老人を怪我させたといいがかりをつけられ、雪子と慎一の車は当たり屋に遭遇するなど彼らの周辺で不穏な出来事が相次ぐ。
背後で火尻が策をめぐらせていることに気づきだし成瀬たちは、自分たちを使い金儲けをはたらこうとする火尻を許せず、彼の記事の被害者を集め、リベンジを果たそうと企てるのだった。
火尻が秘密を公にすると期限が迫る中で、ギャングたちは彼を反撃不可能なまでに追い込むことができるだろうか。
礼儀正しく、普段は一市民と何ら変わらぬ生活を営んでいる陽気なギャングたちだが、前作同様なぜか自分たちが被害者になってしまう。各人の持てるスキルを発揮して、ギャングたちが奇想天外な仕掛けでリベンジを果たすまでを、ウイットの利いた会話や、スラップスティック的な活劇たっぷりに描く『陽気なギャングは三つ数えろ』は、伊坂ファンにはたまらない快作だが、今回敵役がいささか小粒で、そこまで大掛かりに退治しなくてはいけない相手かと思ってしまうところが、やや辛い部分である。
本作には、例によって、次のような章題が堂々と付されている。
第一章 悪党たちは久々に銀行を襲い、小さい失敗をきっかけにトラブルに巻き込まれる。いつものこと。−おとなしくできないなら、せめて気をつけてやれ。
第二章 悪党たちは降りかかる火の粉を払うため、何が起きているのかを探るが、払えば払うほど火の粉がまとわりつく。−眠っている犬はできるだけ寝かせておけ。
第三章 悪党たちは事件の構図に気がつくが、相手の後手に回る。ー1インチ与えれば1ヤード取られる。
第四章 悪党たちは別の悪党から逃れるために必死に行動するが、予定通りに物事が進まない。−計画を立てるのは人だが、成敗するのは天だ。
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