つぶやきコミューン

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出口治明『人生を面白くする本物の教養』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本


                               Kindle版
今、教養は危機に瀕している。ほとんどの情報はネットで手に入るし、古今東西の名著をいかに読もうと、それは目の前の現実の課題を解決するにはまるで役に立たない代物である、それよりも実際に仕事で役に立つ知識さえ身に付ければ十分、文系の学部で身につけるような教養などまるで無駄であり、実務に役立つ即戦力の知識だけあればよいのだ、文系の知識はめったに金に変わることはないが、理系の知識は新しい商品を生み出すのに役立ちそうなので、大学は理系だけにすればよい、ネット世論から文部官僚までここ数年この国で流行しているのはこんな言説である。それらは単純に反知性主義と言えないまでも、反教養主義と言えるのではなかろうか。

しかし、そこで語られている教養とは、きわめてレベルの低いものである。大学受験の際に詰め込んだ断片的な知識を、教養であるかのように勘違いしている人がほとんどで、それを役に立たなかっただのと恨みがましく嘆いているのである。

 日本のリーダー層は、世界標準からすると、教養という点ではかなりレベルが低いと言わざるをえません。p15

あまりにレベルが低いので教養の価値がわからないし、むしろ自分にない教養を憎悪し、根絶したがるのが最近の日本の政治家とそれに追従する官僚が最近の傾向であるが、そのゆきつくところは全国民的な教養、教育レベルの低下であり、国力の低下に他ならない。

どの業界であろうと、世界の第一線で活躍するために必要な教養は、到底そのへんの大学を合格するだけで得られるものではない。たとえどれほど大量の知識を身につけようと、自分の頭で考えたものではなく、単なる記憶された情報でしかないのだから、役に立たないのも当然である。

「知っている」というだけでは十分ではないのです。知識に加えて、それを素材にして「自分の頭で考える」ことが教養なのだと思います。p24

グルーバル化する現代の世界において通用するレベルの教養とはどのようなものか、そしてどのようにして身につけるべきか、そして実際においてどのような思考を生み出し、役に立てるか、教養の持つ可能性について余すところなく語ったのが、ライフネット生命CEO出口治明氏の人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)である。

本書は、以下の10章から構成されている。

はじめに
第1章 教養とは何か?
第2章 日本のリーダー層は勉強が足りない
第3章 出口流・知的生産の方法
第4章 本を読む
第5章 人に会う
第6章 旅に出る
第7章 教養としての時事問題−国内編ー
第8章 教養としての時事問題ー世界のなかの日本編ー
第9章 英語はあなたの人生を変える
第10章 自分の頭で考える生き方
おわりに
ようこそ「出口塾」へ!

教養は単に人生を豊かに、面白くするものだけではない。それは教養を個人の趣味的なものとして過少評価することになり、教養の軽視はさらに悪い結果を招きよせることになるだろう。本物の教養を身につけることは、日本の経済力が後発のアジア諸国に次々に追い抜かれ、それまでの花形産業が斜陽となり、存亡の危機に立たされている現在において、日本人の生き残りのための戦略にもなりうるものである。その意味において、本書は大いなる希望の書と言えるだろう。

 学ぶことの面倒くささを遠ざけ、もはや世界に学ぶことなど何もないというのは、たんなる排外主義で、じつに偏狭なものの考え方です。世界のことを知ったうえでもなかなかうまくいかないのに、知らないでもうまくいくと思うのは傲慢というしかありません。p34

教養に否定的な考えの持ち主の発想は、基本的に視野が狭い。視野の狭さは、時間的な視野の狭さと、空間的な視野の狭さの二軸によって限定される。それを補うことができるのは教養による歴史的認識と地理的認識の拡張である。それを出口氏は、タテとヨコという言葉で表している。

 物事を考えるには、いくつかのコツがあります。その第一は「タテ」と「ヨコ」で考えるということです。「タテ」は時間軸、歴史軸、「ヨコ」は空間軸、世界軸です。「タテ」と「ヨコ」で考えることは、時間軸と空間軸という二つの視点を交えて、いわば二次元で考えるということです。p63

そうした視点を持つことで、戦後の日本が70年にわたし平和で豊かな時代を享受できたことは反復可能な出来事ではなく、奇跡的な幸運であることもわかるのである。

もう一つ価値判断を下すうえで重要なのは、「国語ではなく算数」で考えるということである。国語はオールオアナッシングで考えがちだが、算数はその間に無数の段階を設けることができる。定性的にではなく、定量的に物事を評価するとき、左右の極論に至ることもめったにない。「外国人が増えると犯罪が増える」という命題も、数字を見る限り嘘であり、国語が生み出すもっともらしさに騙されることがなくなる。

「国語ではなく算数で」考えるということは、「数字・ファクト・ロジック」で考える、と言い換えることもできます。物事を考えるにあたっては、「数字・ファクト・ロジック」の三要素を踏まえないと、詰めが甘くなります。p66

「数字・ファクト・ロジック」によって処理することで、多くの問題は修飾語という枝葉を切り取りシンプルなロジックへと落とし込むことができる。それを巡って何時間も議論することはほとんど時間の無駄である。

こうしたシンプルな考え方ができるためには、歴史的なタテの軸と地理的なヨコの軸を自由に移動しながら、前例・類例を参照できる教養の力が必要不可欠なのである。

出口氏が言う「教養」を生み出す三つの源泉、それは本と人と旅である。

本についてはすでに前著の『ビジネスに効く最強の「読書」』『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』で多くが語られ、いくつかのエピソードは本書の中でも繰り返されているが、出口氏の場合、一つのカテゴリー全体を攻略する読書が中心になっている。同じテーマについて書かれた本を五冊、十冊と重ね合わせることで、その世界の全体像が見えてくるというスタイルである。そうすることで、次にはその世界について外国人や専門家とも議論できるだけの教養の引き出しが準備できるのである。

同じような徹底主義が、旅についても繰り返される。旅行の本来の目的は、ボッティチェルリの絵の中の女性の美しさに魅せられたことであった。それが世界の美術館巡りとなり、やがて巡礼の対象を教会まで広げながら70ヶ国1200都市を巡るに至る。そして日本でも一宮めぐりを行い、一つを残して全部回ってしまう。そういうと、いかにも豊かな旅を連想させるが、最初の北海道への旅は、ヒッチハイクを重ねる粗末なものであったし、今でもホテルを予約なしに海外旅行するのが常であると言う。

さらに、海外で人と会う場合には、周囲の助言に反して、帰国したら会えないので、外国人と優先的に会うなど、普通の日本人の発想とは逆張りの、想定外のエピソードが数多い。

このようにして身につけた、筋金入りの教養に基づく出口氏の思考は、日本社会の抱える多くの問題を一刀両断にしてしまう。それが第7、8章の教養としての時事問題だ。たとえば、国民年金が破綻する恐れがあるので、その代わりに自分で年金を積み立てるという商法の大嘘。日本国債が発行される限り、年金は大丈夫。逆に日本国債が紙クズになるような場合には、銀行自体が業務を継続できなくなるので、そちらで肩代わりしようとするのは土台無理な話と容赦がない。

 ということは、公的年金が破綻するのは、国債が発行できなくなるときです。国債が紙クズ同然になってしまったときです。そのときには、日本は国家的危機を迎えています。当然、その営業職が属している金融機関は大量の国債を抱えて、それ以前に破綻しています。つまり、「国の年金は危ないですから云々」という金融機関のセールストークは、論理的に成り立たないのです。p169

その出口氏が、少子高齢化社会を迎える日本に関して出した未来のビジョンとは?

すべてがライフネット生命の現在の仕事へとつながっていることも本書の後半で明かされる。会社のトップのスケジュールは部下が勝手に決めてよいし、会議の無駄をなくしたいなら会議室をなくしてしまえという奇想天外な方針も、理にかなわないことは一切しないという脱常識の教養力に裏打ちされているのである。

世の中にCEOと名のつく人は多いが、自分の得意分野だけでなく、それ以外の分野の問題に関してもこれほど歯切れのよい解答を与えることのできる日本人のCEOを私は知らない。本書の内容は、教養の基本編に相当する前半から、その応用編・実践編となる後半まで非常に多岐にわたり、一度読んだだけでは消化できないほど豊かなものである。二度三度と繰り返し読むことで、温厚な人柄と有名企業のCEOという立場からはかけ離れたラディカルな思考を読者は思う存分堪能し、本物の教養の破壊力を思い知ることだろう。

関連ページ:
出口治明『ビジネスに効く最強の「読書」』
出口治明『仕事に効く教養としての「世界史」』

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