つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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朝井リョウ『武道館』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略

「愛子、大学行かねえの?」
 大地は、愛子から受け取ったグラスにすぐ口をつけた。
「行かないらしいよ」
 愛子はまた、じゅうたんの上に座る。
「らしいってそんな他人事みたいに」
「だって」
 テレビの中で、ショートカットのアイドルがまた笑った。
「私は一回も、行かない、なんて言ってないんだよ。なのに、いつのまにか、私が大学に行かないってことは、決まっていた」

(朝井リョウ『武道館』)



朝井リョウ『武道館』(文藝春秋)は、芸能界、それもAKB48のようなグループアイドルの世界を描いた小説である。

主人公の愛子は、両親が離婚後、父親と同居する道を選ぶ。同じマンションには幼なじみの大地がいたからだ。

やがて芸能界に入り、真由(あおい)、波奈(はな)、るりか杏佳(きょうか)とともにアイドルグループNEXT YOUとしてデビューした愛子は、次第に人気を高めながらアイドルとしての道を歩んでいた。

そんなある日、突如切り出されたのは、杏佳がNEXT YOUを「卒業」するという話だった。さらに、メンバーのスキャンダルや、炎上騒動が加わる中、愛子たちの心も千々に乱れてゆく。

レッスン、コンサート、握手会、高校生活、そうした日常生活のディテールを積み重ねる中で、いつしか澱のようにたまってゆくアイドルを演じることへの違和感。それはいつしか、大きなエネルギーとなって爆発しかねない代物だった。

高校3年になり、クラスメートが進路を決定を余儀なくされるころ、愛子たちNEXT YOUは二期生を加えながら、次のステージへと歩み出そうとしていた。その目標こそ、武道館でのコンサートだった。そして、同じ学校の同じクラスに通う大地の目標も、剣道でインターハイに出場することであり、その舞台もまた武道館だった。

二つの武道館を目指す少女と少年の軌跡が交錯するとき、生じるのは一体何だろうか。

アイドルの世間からは隔絶した日々と、何ら変わることのない十代の少女の生活を交互にルポルタージュ的に積み重ねる中で、社会が求めるものと、自分が求めるものの齟齬を、朝井リョウはダイナミックに描き出すことに成功している。『武道館』は、芸能人サイドのモノローグ的な世界ではなく、丁寧な生活描写の積み重ねによって複数の少女たちの生き方を、臨場感豊かに描いた群像小説の傑作である。

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