つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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星野智幸『呪文』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略

 
商店街の未来は、日本全体を見渡す限り、決して明るいものではない。昔ながらの商店街は、過疎による客数の減少、採算不良と後継者不足で、次々に店をたたみ、シャッター通りとなる。地方再生の名のもとに、鳴り物入りで公費をつぎ込んでも、多くの場合過疎を食い止めることはできず、焼石に水の状態である。県庁所在地クラスの大きな都市も例外ではない。郊外に巨大なショッピングモールができれば、地元の商店街は次第に閑古鳥が鳴き始める。大資本の圧倒的な売り場面積と品揃え、車で大量の買い物を持ち帰ることのできる利便性を前に、不本意な撤退戦を強いられる。

星野智幸『呪文』(河出書房新社)は、現代の首都圏にあると思われるそうした一商店街を舞台に、その再生プロジェクトをめぐる悪夢的な小説である。一方で暗い笑いを浮かべながら、他方で冷や汗をかきながら、あっという間に読み終えてしまう傑作である。

ここ松保商店街も、例にもれず、しだいに寂れつつあった。昔ながらの店が次々に閉店した後、幾分数を目減りさせながら、新しい店ができるものの長続きせず、半年か一年のうちには、再び別の店に変わる。そんなことの繰り返しで、未来は明るくなかった。

折しも、ネット上ではクレーマー男である「ディスラー総統」なる者が跋扈していた。それに商機を見た商店街のニューリーダー図領は、自分の経営するバー麦ばたけを訪れたこのクレーマー男に対して、断固戦うことでやんやの喝采を浴び、それが評判となって商店街は盛り返すようになる。

ここぞとばかりに「未来人制度」「無尽」など後継者探しや資金繰りの、新しいやり方を盛り込み、図領は商店街を改革しようとするのだが、それは商店主の側にも容赦ない淘汰を強いるものであった。さらには報われない若者をたきつけて廃業や店舗の譲渡を強いるそのやり口は、いつしかとんでもない方向へと暴走しようとしていた。メキシコでの料理修行で覚えたトルタに惚れこみ、それを日本で流行らせるのが夢の霧生は、何とか自分の店プミータを開いたものの、採算は苦しく自転車操業を強いられていたが、図領の話に聞くうちにいつしか彼もこの流れに巻き込まれる。はたして、狂気の暴走を食い止めることはできるのか。

切腹、洗脳、暴走する若者のやり口に、三島由紀夫の事件や、オウム真理教、イスラム国などを思い浮かべるかもしれないが、そうした表面的な類似を超えて、この商店街そのものが現代日本の縮図となっていることは論を待たないだろう。いったん繁栄の最盛期を過ぎた地域が、その流れに逆らい再び過去の栄光を取り戻そうとするとき、頼りがちなのが排外主義をかき立て、純化の方向に進もうとすることである。しかし、それが抱える大きなリスクに渦中にある人は気づかない。こうした動きは国の中枢のみならず、日本の津々浦々、あるいは海外でも、人が集まる場所ならどこでも起こりうることである。そういう意味で、本書は上質のエンタメ本であると同時に、大いなる警告の書とも言えるだろう。

PS『呪文』の一部は、こちらで立ち読みが可能です。

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