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古市憲寿『保育園義務教育化』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本    文中敬称略



社会学者古市憲寿『保育園義務教育化』(小学館)は、日本の最大の問題である少子高齢化に対して、正面から向きあいほぼ決定版と言ってよいソリューションを提示した快著である。この問題に対して、これほどクリアでシンプルで包括的な解決策を提示した本は他にない。本文中でも登場している駒崎弘樹のように、児童保育の現場で真剣に取り組んでいる人はいるが、誰にでもわかるように、社会全体を見通す視点から育児の問題を掘り下げ、解決策を提示するという点で、古市憲寿を超えている者は今のところ存在しない。

少子化による人口減はむしろよいことだとする考えもあるが、それは社会全体がバランスよく人口が減った場合である。古市憲寿は、日本の少子化の問題を、高齢化の問題、労働人口の減少、消費者人口の減少の三つのからきわめて深刻な問題としてとらえている。

 確かにただ全人口が減るだけならいいのだが、日本では高齢者の社会保障費を現役世代が負担する仕組みになっている。「若者」に頼りすぎの社会制度なのだ。
 だから、ただの「少子化」ならいいのだが、同時に「高齢化」が進んでいくやため、社会保険や年金制度がこのままでは立ち行かなくなる。
 そして経済にも悪影響が出る。これはおじさんたちも認識している通り、労働者人口が減っていくのだ。これは「稼いでくれる人が減る」ということだから、国の経済規模は小さくなっていく。
 同時に、少子化とは「お金を使ってくれる人が減る」ことをも意味する。特に結婚して、子どもができた家族はお金を使う。ミドル世代が、生活費、居住費、教育費にお金を使ってくれなくなったら消費は停滞してしまう。
pp108-109

日本が少子化する理由はどこにあるのか?古市憲久は母親に対する社会の、先行する世代の、そして同じ母親である女性たちの過大な要求水準の高さにその一因があるとする。道端アンジェリカらネット上で炎上した子育て記事のケースでも、アメリカやヨーロッパであれば議論にさえならないようなものであることより社会の閉塞性がうかがわれる。また、若者の草食化に少子化の原因を求めようとする声も、ここ数十年の性文化の変遷を数値的なデータとともにたどりながら、若者はかつてよりもセックスしているが、ただ社会条件の厳しい変化ゆえに、それが子供を持つことにつながっていないためであるとするのである。

 「草食男子が増えたから子どもが減ったという説明は、まるっきりの嘘だということがわかる。
 当たり前だが、セックスを何回もしたところで一生のうちに女性が産める子どもの数は限られているし、コンドームやピルなど様々な避妊法がある時代に性欲と子どもの数が直接的に関係しているわけではない。
p143

日本の少子化を食い止めるためには、何よりも母親に対する過大な要求を軽減しなければならない。また、経済的にも結婚したカップルの場合、夫一人の収入で生活できる、つまり専業主婦が可能な世帯はごく限られてしまう。かつてのように大家族が崩壊し、家族や地域による子育ての受け皿が消失する中で、母親は孤立する傾向にある。子供一人育てることがここ数十年で数段困難になっているのである。そうした社会の変化に対応し、育児負担を社会制度によって引き受け、妻の育児負担を軽減することで、女性はずっと長い期間就労することができるようになり、労働者不足も解消することだろう。

保育園の義務教育化は、最も効率的な社会的投資であると古市憲寿は言う。高等教育に対する投資よりも、のちの人生に対して与える影響がより大きく、人格の安定化、社会の安定化につながる投資なのである。それは、持続可能な豊かな社会を維持するための起死回生策であり、格差が広がりつつある社会の中で犯罪を抑制するための最良の策でもあるのだ。

「義務教育化」という言葉に抵抗感がある人もいるかもしれないが、その言葉の最大のメリットは家庭での育児を放棄し、保育園園に子供を預けているという後ろめたさからの解放であると言う。
 
 「義務教育」ということになれば、国も本気で保育園を整備するから待機児童問題もなくなるだろうし、保育園があることが約束されていれば「うっかり」子どもを産んでしまいやすくなる。
 「義務教育」だと、子どもを保育園に預けることに、後ろめたさを感じることもなくなる。「国が義務っていうから仕方なく保育園に行かせているんだよね」と国を理由に堂々と言い訳ができるようになるからだ。
p18

今の日本社会を睥睨するに、与党や野党を問わず多くの政治家も、官僚も、この問題に対して一応前向きな姿勢は見せながらも、根本的な改革を着手するだけの意欲はなく、小手先の弥縫策に終始しているように見える。あたかも中高年の現役世代が老後逃げ切るために、社会を最適化し、後の世代の負担は全く顧みないような政策議論が横行する中で、古市憲寿はまっすぐな一本線の道を社会に向かって示している。

古市憲寿のメディアでの発言の揚げ足取りを行う論客は、右にも左にも少なくないが、それらの人々の中で、少子高齢化の問題に対して、正面からソリューションを提示している者はほとんどいない。これまでは社会全般に対する概観を中心にしてきた古市の言論活動だが、本書を機により個別具体的な問題に対する鋭い分析や洞察力のあるビジョンを提示することで、よりその存在感を際立たせることになるだろう。本書の主張をどのように社会に根づかせてゆくのか、またいかなる他の具体的な問題に対し、新たにソリューションを提示しうるのか、二つの意味で古市憲寿は1980年代生まれの最も楽しみな論客である。

PS 紙の本の『保育園義務教育化』はソフトカバーながら税込1080円ときわめてリーズナブルな価格設定になっている上、二つの楽しいおまけがある。一つは、著者自身の文字とイラストによる愛読者はがきである。
読者はがき

そしてもう一つは、同じ猫のイラストによるページ左下に描かれたパラパラ漫画である。本屋の店頭で手に取った人は忘れずにチェックしてみよう。

参照リンク:
保育園義務教育化[著]古市憲寿(文)中森明夫

関連ページ:
國分功一郎×古市憲寿『社会の抜け道』(2)
國分功一郎×古市憲寿『社会の抜け道』(1)
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