つぶやきコミューン

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吉田修一『森は知っている』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略



吉田修一『森は知っている』(幻冬舎)は、『太陽は動かない』に続く鷹野一彦シリーズ第二作である。

物語の冒頭において、主人公の鷹野一彦は17歳の高校生である。彼が住んでいるのは、石垣島よりさらに60キロ南西にある南蘭島(ならんとう)である。そこで、普通に高校に通い、授業を受け、友人のやその弟の寛太と遊び、東京から越してきたクラスメート菊池詩織と恋をする。物語は、南端の離島を舞台にした青春小説のように展開する。しかし、鷹野には奇妙なところがあった。彼は両親とは離れて暮らしているらしく、知子ばあさんのところに身を寄せている。そして、同年代ではない大人たちが彼の周辺に出入りしていた。ある日もそんな男の一人徳永が現れ、そして鷹野一彦は島からいなくなった。

クラスメートが授業を受けている間に、彼は、遠く離れたパリにいたのである。

そう、鷹野一彦は、工藤新一のような高校生探偵…というわけではない。高校生の産業スパイであり、『森は知っている』は、彼の最初のミッションから、高校を卒業し、島を離れるまでの経緯が描かれている。

鷹野一彦は二つの顔を使い分けているだけではない。彼には、第三の顔があった。幼少時代に両親に虐待され、保護されたが、それを預かり育てたのが、彼が属するAN通信であったのだ。そして、AN通信で働く、島の孤児は彼だけではなかったのだ。

『太陽は動かない』
では、いきなり鷹野のスパイ活動の世界に投げ込まれ、それまでの私小説的なリアリズムになじんだ吉田修一ファンを戸惑わせたかもしれないが、この作品ではそれはない。『怒り』同様、丹念に描かれた島の生活をベースにした、ジュブナイル小説の魅力も満載である。そして、二つの顔を使い分け、パリや香港など海外の社交界に出入りしながらリスキーな情報収集のミッションを果たしたかと思えば、任務を終えると高校の授業を居眠りしながら受けているという、ヒーローもののお約束の格好のよさが、若い世代の冒険心をくすぐる。

『森は知っている』は、青春小説の世界とスパイ小説の世界、さらに虐待児の成長という三つの世界が交錯したゾーンに、せめぎ合うようなリアリティを組み合わせて成立した稀有の傑作なのである。



関連ページ:
吉田修一『怒り』(上)(下)


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