つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< April 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略 Ver.1.01

 「田原さんがどう考えようと、どれだけ不満があろうと、今のこの社会を生きていくしかないよね。ルールを守って、正しく。気に入らないなら、国を出ればいい。ただ、どの国もこの社会の延長線上にある。日本より医療が発達していない国もある。薬もなければ、エアコンもない。マラリアに怯えてばかりの国だってある。この国より幸せだと言えるのかな。それとも、いっそのこと火星にでも住むつもり?」
 火星、という単語は幼稚に感じられ、そのことが田原彦一を暗い気持にした。
 この状況で生き抜くか、もしくは、火星にでも行け。希望のない、二択だ。

pp96-97



伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい』は、ジョージ・オーウェルの『1984年』や、オルダス・ハックスリーの『すばらしき新世界』同様の、近未来ディストピア小説である。

物語の舞台となるのはおなじみ宮城県仙台市、そこでは平和警察なるものが、世の中を支配している。そして平和警察に逮捕された者は、その罪状が真実であろうとなかろうと、漏れなくギロチンによる死刑に処せられるのであった。それも公衆の面前で堂々と。

 一ヶ月前、五月下旬に仙台駅の東口に作られた広場で、処刑が行われた。p31

人々は、自分の気に食わない人間や政府に批判的な人間を見つけては、罪状をでっちあげ密告し始める。些細なわだかまりやトラブルに尾ひれがつき、雪だるま式に罪状は膨らみ、これに本人への拷問のみならず周囲まで人質として巻き込んだ過酷な取り調べが加わり、次々に危険人物が作り出されてゆくのであった。

そんな中で、バットマンか、仮面ライダーか、黒いツナギの服に、黒のキャップ、ゴーグルとフェイスマスクを付けた一人の男が、正義の味方として立ち上がり、平和警察によって逮捕された人々を、電光石火のはたらきで、公権力の魔の手から救い出す。

もちろん、平和警察も手をこまねいているわけではない。その正体を暴くべく、現れた一人の男、真壁鴻一郎が探偵役として登場し、鋭い推理力によって犯人像に迫ってゆく。正義の味方が『デスノート』の夜神月とすれば、真壁はLの役所だ。

第一部では、暗い世相の蔓延と闇を照らすような正義の味方の登場を描き、第二部では真壁の活躍が描かれる。そして第三部では、正義の味方自らが語りだすと言うわけだ。その正体は?そして、行動の動機は?

語り手を変える中で、少しずつ真実が明らかにされ、やがて作者の魔法にかかったように、読者は物語の世界へとどんどん引きずり込まれてゆく。

第四部では、最後の対決がやってくる。しかし、一体誰と誰が対決するのか?そしてその後に来る世界とは?

『火星に住むつもりかい?』は、同じく仙台を舞台とした『ゴールデン・スランバー』の一歩先の世界を描いたアイロニカルな風刺小説であり、この作品には伊坂の今の社会に対する諦念と希望が同時に表現されているとみることができるだろう。正義の味方という、個人的な解決が、ディストピアに対する解答とは言えない。とすれば、何をもって答えとするのか。そのためには、この作品を最後まで読むしかないのである。

関連ページ:
阿部和重×伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』
伊坂幸太郎『死神の浮力』


コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://mkamiya.jugem.jp/trackback/464
 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.