つぶやきコミューン

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又吉直樹『第二図書係補佐』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略  Ver.2.0



又吉直樹『第二図書係補佐』
(幻冬舎よしもと文庫)は、通常の書評ではなく、書物をめぐるエッセイ集である。巻末には、又吉がファンであるという小説家中村文則との対談を収める。

  僕の役割は本の解説や批評ではありません。僕にそんな能力はありません。心血注いで書かれた作家様や、その作品に対して命を懸け心中覚悟で批評する書評家の皆様にも失礼だと思います。
  だから、僕は自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。本を読んだから思い出せたこと。本を読んだから思い付いたこと。本を読んだから救われたこと。
p5

冒頭で書いているように、、著者はダイレクトに本の内容に踏み込むことはめったになく、何年か前の、あるいは幼少期や学生時代に身辺に起こったこまごまとした出来事を綴る中で、表題となった本との出会いに至る経緯や、その本の中身と共鳴するような過去の経験を綴るのである。

太宰治の『人間失格』やカフカの『変身』のように、はっきりと最初から書名や著者名が出てくる場合もあるが、それはむしろ例外に属していて、いつになったら本の紹介が始まるのだろうと不安になることもしばしばだ。話題が語られる予定の本からあまりに遠すぎると思われることもあるが、最後の三、四行で一気にその距離を詰めてしまう。あたかもかつてのワールドプロレスリングのテレビ中継において、アントニオ猪木が放送終了直前に、延髄斬りを決めて勝利を収めたように、このぎりぎり間際でのお約束の徹底が実に心地よいのである。

しかし、どこかしらその文章はつねにその本を意識している風でもある。気配が漂う。無意識的な、あるいは右脳的な部分で、文章は本の本質とシンクロしていて、最後の数行で、それまでに溜めた電荷が火花となってスパークする。だから、まとめの数行のあっけなさにもかかわらず、その本の世界にどっぷり浸ったような錯覚さえ覚えるのだ。

定番となっているのは、著者が高校時代強豪チームのレギュラーで鳴らしたサッカーの話、そして恋の話、何かの失敗談である。自意識過剰気味の十代から二十代前半にかけてのエピソードは、誰もが似たり寄ったりの経験をしたことがあるものだが、それを毎回一つのテーマのもと小話的に盛り上げ、オチをつけながらまとめきる手腕はただものではない。

中でも私が好きなのは、太宰治を意識しだしたころに、近くに太宰が住んでいたという噂を聞いて探したがどこにも見当たらず、やがて気がつくとその住所は自分が今住んでいる場所だったというエピソードである。

 高校卒業と同時に上京した僕は不動産屋にすすめられるまま、三鷹のアパートを借りた。三鷹といえば太宰が最後に住んだ土地である。ある本に太宰が住んでいた住所が「三鷹市下連雀1丁目〇〇番地」とあり驚いた。僕のアパートは「三鷹市下連雀2-14」だったのだ。すごく近い。その日、近所を探索したが太宰の住所跡らしき物は見つけることが出来なかった。
 それから一年が過ぎた頃、ふと太宰の正確な住居が一体何処にあったのか気になり、三鷹市の図書館で太宰に関する一冊の本を開くと「三鷹市下連雀1-00(現2-14)」と記載されていた・これを見て思わず言葉を失った。1-00とは昔の番地で、その場所は今の2丁目14番地。つまり僕のアパートの住所だったのだ。
pp66-67

あるいは、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』が読むのに8年もかかったその理由が、間違って下巻ばかり3冊も買ってしまったというエピソード。似たような経験は誰もあるものだが、それでも最後まで読み切るところまであきらめないのが、その中間の細々とした経緯をしっかり記憶・再構成できるのが、又吉クオリティである。書き出しからして、人をひきつけずにはおかない。

 皆さんは「読む」と決めた本を読みはじめるまでに八年もかかったことがあるだろうか?今回紹介する小説は僕にとってそのような本である。
 何故そんなことになったのか?それは僕が村上流作品を読みあさっていた八年前、古本屋で『コインロッカー・ベイビーズ』の下巻だけが安く売られていたのを購入したことに端を発する。上巻は他の古本屋で買えばいいと甘く考えた。だが上巻はなかなか見つからず一年程過ぎた頃に、ようやく古本屋で発見し「遂に読める」と張り切って購入したのが何と下巻だった。記憶が曖昧になっていたのだ。
p110

以下に示すように、海外の作品はカフカやカミュなど三作にすぎず、大体は芥川龍之介や太宰治らの古典的名作から村上春樹・村上龍を経て、中村文則ら最近の作家に至る日本の小説が中心である。

尾崎邦放哉『尾崎放哉全句集』
関口良雄『昔日の客』
織田作之助『夫婦善哉』
古井由吉『杳子(『杳子・妻隠』より)
西可奈子『炎上する君』
大江健三郎『万延元年のフットボール』
車屋長吉『赤目四十八瀧心中未遂』
近藤篤『サッカーという名の神様』
中村文則『何もかも憂鬱な夜に』
穂村弘『世界音痴』
野坂昭如『エロ事師たち』
太宰治『親友交歓(『ヴィヨンの妻』より)
北村薫『月の砂漠をさばさばと』
ねじめ正一『高円寺純情商店街』
京極夏彦『巷説百物語』
町田康『告白』
江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』
宮本輝『蛍川・泥の河』
玄侑宗久『中陰の花』
パトリック・ジェースキント『香水 ある人殺しの物語』
乾くるみ『イニシエーション・ラブ』
中島敦『山月記(『李陵・山月記』より)
村上龍『コインロッカーベイビーズ』
中村文則『銃』
中原昌也『あらゆる場所に花束が……』
吉田豪『人間コク宝』
古川日出男『アラビアの夜の種族』
村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
絲川秋子『逃亡くそたわけ』
青木淳吾『四十日と四十夜のメルヘン』
太宰治『人間失格』
島田荘司『異邦の騎士(改訂完全版)
大槻ケンジ『リンダリンダラバーソール いかす!バンドブーム天国
フランツ・カフカ『変身』
笙野頼子『笙野頼子三冠小説集』
高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』
森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』
絲川秋子『袋小路の男』
町田康『パンク侍、斬られて候』
カミュ『異邦人』
遠藤周作『深い河』
吉本ばなな『キッチン』
岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』
安部公房『友達(『友達・棒になった男』より)
花村萬月『渋谷ルシファー』
小林恭二『宇田川心中』

以上の47冊を紹介しながら、こんな話が実に47話も収められているのだから、又吉ファンは言わずもがな、愛書家、読書家の人にとっても興味津々の内容である。私小説的なエッセイとしても面白いし、書物への導線としてもストーリーを語りすぎていない部分がよい。
一粒で二度おいしいとはこのことだ。

『第2図書係補佐』は、『火花』以上に又吉直樹の特異な才能が発揮された、書物への愛情あふれる傑作、この世に唯一無二の書物なのである。

関連ページ:
又吉直樹『火花』
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