つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< March 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
  • 万城目学『悟浄出立』
    石山智男 (02/14)
  • 伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
    藍色 (09/23)
  • 森山高至『非常識な建築業界 「どや」建築という病』
    森山 (03/05)
  • 伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
    藍色 (12/11)
  • 坂口恭平『現実脱出論』
    佐藤 (04/22)
  • 増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
    mkamiya (03/18)
  • 増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
    ω (03/18)
  • 板垣恵介・宮谷拳豪『バキ外伝 拳刃 1』
    mkamiya (01/18)
  • 板垣恵介・宮谷拳豪『バキ外伝 拳刃 1』
    ゆーり・ぼいか (01/17)
  • 堀江貴文『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』
    mkamiya (11/01)
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
海堂尊『スリジエセンター1991』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略



『スリジエセンター 1991』(講談社)は、今までのところ、海堂尊の後ろから3番目の長編小説である。後ろから2番目の『カレイドスコープの箱庭』、後ろから一番目の『アクアマリンの神殿』はすでに紹介したので(まだ刊行予定の作品があるので最後とは言えない)、個人的には単行本化されたすべての海堂尊の小説を読んだことになる。

『スリジエセンター1991』
は、『ブラックペアン1988』『ブレイズメス1990』とバブル三部作をなし、その主人公は一介の医局員にすぎない世良雅志となっている。病院長の佐伯清剛教授の後継者争いと、その改革の先鋒として登場する天城雪彦によるスリジエセンターの設立の野望が交錯する。『チームバチスタの栄光』が2006年の設定であるから、それより遡ること15年、この時点において、のちの東城大病院の院長となる高階権太も佐伯門下の一介の講師にすぎない。しかし、この年の出来事を契機として高階は、その地位を固めることとなるので、歴史の重要な1ページである。『ジェネラルルージュの凱旋』速水晃一も、新参の医局員にすぎず、早々に会合に遅刻して目玉を食らうわけだが、その大胆な不敵な行動は一貫している。そして、1991年は城東デパートの火災事件があった年である。そこで、速水は八面六臂の活躍を見せ、東城大病院の名声を高めることになる。すでにジグソーパズルのピースはすべて埋めつくされており、残る歴史のピースをはめ込むとき、立ち上がる風景がある。それがこの作品の醍醐味である。

モンテカルロのエトワールと称えられた天才心臓外科医天城雪彦が、モナコ公国帰国し、公開での手術を行うこととなった。佐伯病院長の改革の一つであるスリジエハートセンターを設立する目的で、大々的アドバルーンを掲げるためである。佐伯門下にありながら、病院長に全権を集中させ、他はフラットにしようとするその改革は医療の崩壊につながるとして、密かに反旗を掲げることを決めた高階権太。天城の天才的手腕の毒にあてられ心酔し、ジュノと呼ばれながら手足のように扱われる世良は、医局長に抜擢されたばかりで、高階との板挟みとなり、権力闘争に翻弄される。さらに、佐伯を追い落とそうとする江尻副院長、どこまでも佐伯に忠実であろうとする黒崎誠一郎助教授、三つどもえ、四つどもえのの政争の行きつく先は?折しも、第一の手術が迫っていた。しかし、陰謀がめぐらされ、十分な情報がないままに、天城は日本では例のない手術、ダイレクト・アナクトモーシス(直接吻合術)に臨むことになるのだった。権力闘争の行方はいかに?そしてスリジエセンターは果たして設立されるのか?

この作品の見どころは、高階と天城の二つの正義のぶつかり合いである。果たして、どちらが正しいのか、医療に関わりのない人間にはにわかに判断できない複雑な問題である。桜ノ宮サーガで、フィクサーとして田口公平を操りながら、ずっと正義の立場にあるようなイメージの高階だが、この作品では自ら権謀術数を巡らせるなど、目的のためには手段を選ばない黒歴史のページを垣間見せることになる。

この作品のラストを読むとき、読者はやるせない無常観に襲われることになるだろう。それは傑出した医の才能を受け入れることのできないこの国の医療の仕組みの分厚い壁であり、それこそが海棠尊が、全作品を挙げて戦わなければならなかったものの正体であるからだ。モンテカルロを尋ねる世良の前に広がる風景は心に長く残るシーンであり、涙なしでは読めないものであろう。

関連ページ:
海堂尊『アクアマリンの神殿』
海堂尊『カレイドスコープの箱庭』
海藤尊『ガンコロリン』
コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://mkamiya.jugem.jp/trackback/446
 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.