つぶやきコミューン

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千葉雅也監修『哲子の部屋掘 輕榲の自分”って何?』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略 Ver.1.1



國分功一郎監修『哲子の部屋』の第一回では、フランスの哲学者ドゥルーズの哲学、そして考えることに関する考え方を紹介した。哲学とは新しい概念を作り出すことである。そして人はつねに考えている存在ではなく、むしろ「習慣」によって考えることを回避しようとする存在であること、さらに、人が考えるようになるのは何らかの”不法侵入”となる出来事との遭遇によるものであることを学んだ。

続く第二回では、ユクスキュルの「環世界」の概念を紹介し、人がそれぞれに経験する世界は、たとえ同じものを目の前にした場合でも、大きく異なること、さらに、ダニのような動物の場合には、人間とは全く異なる環世界を生きていることを学んだ。しかし、環世界は一定不変のものではない。盲導犬が、学習によって犬の環世界から人間の環世界へと移動することが可能なように、人間もまた自らの環世界を大きく変えることが可能な存在である。そうすることで異なる環世界を生きる他者を理解することも可能となる。そこにこそ、学ぶことの意義があるのだ。

國分よりもさらに若い、注目の哲学者千葉雅也監修による『哲子の部屋掘 彬榲の自分”って何?』は、第一回と同じドゥルーズの哲学の中心概念の一つ、”生成変化(devenir)”を取り扱う。

生成変化とは、それまでの自分とは違う何かへと変化すること、わかりやすく言えば「変身」であり、昆虫において幼虫がサナギになるような「変態」である。この概念は、ユクスキュルの「環世界」間の移動の能力と密接に関連している。生成変化には、必然的に「環世界」間の移動が伴うからである。A→A´(A≠A´)という生成変化と対立するのは、A=A、私が私であることというアイデンティティ(自己同一性)の概念である。それゆえにこそ、”本当の自分”って何?というサブタイトルがあるのだ。

ここで番組のMCである千葉雅也が教材として持ち出すのは、最高のクセ玉、『HK/変態仮面』である。

何といっても、『哲子の部屋』はNHK Eテレの番組である。そこに、パンティを被って、正義のヒーローに変身する変態仮面を持ち出すのは、クセ玉も、クセ玉、ビーンボールに近い。本来、自らの主演で映画化を希望していた小栗旬でさえも、スポンサーの意向で主演を断念し、後輩の鈴木亮平に譲らなければならなかったいわくつきの作品である。

変身のテーマを扱うなら、カフカの『変身』は言うまでもなく、ウルトラマンや仮面ライダーなど、素材はあふれているし、どれを選んでも「自己同一性」(アイデンティティー)のテーマを扱うことができる。よりによって、「変態仮面」を取り上げる理由などどこにもない。

いや、「変態仮面」を取り上げる十分な理由は存在した!

そう、ずっとこの番組に出演してきた清水富美加こそ、映画『HK / 変態仮面』のヒロインだったのだ!!

この選択は、果たして当初から狙ったプロデューサーの仕掛けなのか、それとも大学の准教授をつとめながらも、ギャル男ファッションを貫き続ける千葉雅也の洒落っ気なのか。

ヒントは巻末の主任プロデューサー、佐々木健一の言葉に隠されているように思われる。

 この番組の三人の出演者の中であえて主役を挙げるとすると、それは千葉雅也さんや國分功一郎さんといった哲学の先生ではなく、やはり清水富美加さんなのです。それは、哲学を学んだり、疑問を感じたりする視聴者と同じ立場に清水さんがいて、収録を通して起こる彼女の哲学的発見に重きを置いているからです。『哲子の部屋』の「哲子」とは、「哲学する子」、つまり清水富美加さん(=視聴者)のことを指しているのです。p93

かくして、『HK/変態仮面』をめぐる、哲学の世界の冒険が始まる。

そこで、千葉雅也が提示する衝撃のロゴスとは次のようなものである。

人はみな”変態”である

千葉:(…)さて、今日はいろんな意味で「変態」っていうのを考えていきたいと思っているんですけど、まあ、もちろん僕もたぶん「変態」であると。で、まあ、清水さんもマキタさんも間違いなく「変態」です。
マキタ:前提として、「みんな変態である」と?
千葉:ええ、みんなめちゃめちゃ「変態」です!
清水:違います。p29

人類みな変態説を唱える千葉雅也、それに真っ向から異議を唱える清水富美加。果たして千葉は清水を説得することができるのか?

『哲子の部屋掘 彬榲の自分”って何?』は、『HK/変態仮面』を考える素材に、さらに「自分が何者だかわからない」アイデンティティ・クライシスの問題、その帰結としての自己否定の問題の出口を探ることになるだろう。



新しい哲学者を加えるたびに、『哲子の部屋』では新しい何かが生まれる。次に、どんな哲学者がどんなロゴスを、どんな思考の冒険を与えてくれることだろう。國分功一郎、千葉雅也に続く、『哲子の部屋』第三の男には、『視覚文化「超」講義』の石岡良治が予定されている。

関連ページ:
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