つぶやきコミューン

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荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略  Ver.1.02


『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)は、『ジョジョの奇妙な冒険』で大人気の漫画家荒木飛呂彦が、自らの漫画創作のエッセンスを惜しげもなく公開した話題作。いわば「秘伝のタレ」の大公開である。いわば企業秘密にあたるものをあえて公開した理由を荒木は次のように説明する。

 これまで独占してきたアイディアや方法論といった企業秘密を公にするのですから、僕にとっては、正直、不利益な本なのですが、それでも書くのは、それを補って余りあるほどの伝えたい思いがあるからです。
 この本は、いわば僕にとって漫画界への恩返しのようなもので、今まで学んできた「漫画の王道」を次の世代に伝えることによって、これまでの漫画を超えるような作品が生まれてきてほしいと願っています。

p9

一般には異作と見なされがちな『ジョジョ』を自ら王道の作品と位置づけながら、なぜ『ジョジョ』が王道漫画なのか、そして漫画家をめざす人に対しても、大成したいなら王道をめざすべきという考えを忌憚なく述べているのである。

 漫画を描きたいのならば、漫画の王道を知り、その「黄金の道」を歩むという意識をもってほしいと思います。そして、漫画の王道は、時代を超えて愛され、受け継がれていく名作に行き着くはずです。単に一過性でヒットすればいい、という人は、たとえいくつかのヒット作を出せたとしても、本当の意味での漫画の王道を知ることはないでしょう。p5

中でも、漫画の四大基本構造である世界観、キャラクター、ストーリー、テーマに関する考察には、様々な試行錯誤を経て上り詰めた大家の考え方だけに深く、余人の追随を許さないものがある。

荒木が特に―ストーリー以上に―重視するのは、キャラクターである。キャラクターさえしっかりできていれば、後は状況の中に放り込むことで、自然に動き出し、漫画は先へと進んでゆくとさえ断言する。そのために、登場する各キャラクターについて綿密な身上調査書をつくることも必要だ。こうした設定が曖昧なまま、描きだしてもうまくゆかないものなのだ。

同時に、この本の中では、作劇に対する著者の持論も披露されていて、そのシビアな見方には、思わずはっとさせられる。漫画でも、小説や映画でも、作劇術の基本は起承転結であるが、さらに少年漫画は、最初はマイナスでもよいが、その後はあくまでプラスプラスプラスの展開で進むべきであると荒木は考える。

だから、スーパーヒーローものでは、作者は主人公に普通の生活に戻りたいなどと考えさせてはいけない、あるいは本物と偽物を対決させるのはつまらない展開になるのでやめた方がよいなど、いくつものコミックだけでなく、映画までもが容赦ない批判にさらされる。

 この作品(=『ヒット・ガール』の続編、『キック・アス・ジャスティス・フォーエバー』)に限らず、スーパーヒーローなのに「やめたい」というパターンのストーリーが一番嫌いです。せっかくスーパーヒーローという素敵な立場にあるのに、「やめたい」というのは、それだけで致命的なマイナスだと思います。p124

 ヒーローの偽物を登場させるのも続編にありがちな展開ですが、一〇〇パーセント、終わってみればたいしたことがなかったというもので、これもマイナスプラスゼロに終わるダメ・パターンです。どんな偽物が出てきても、最後は本物が勝つに決まっているのですから、観ている方からすれば全然面白くありません。p124

その他、漫画を作る上で、やってはいけないことも数多く挙げていて、そんなタブーをつい苦し紛れにおかしがちな漫画界に対する激しい檄にもなっている。

また、著者のデビュー当時の家計なども明かされ、自分のやりたいことと掲載雑誌のニーズに応えてゆくことの間に生じる軋轢や葛藤といったものに関しても、明らかにされている。

 当時の原稿料は一枚三五〇〇円ぐらい、そこから税金を引くと三〇〇〇円ちょっとです。デビュー作の『武装ポーカー』は三一ページですから、一〇万円ぐらいにしかなりません。一方、短いページ数であっても、描くにはそれなりの時間がかかります。『武装ポーカー』のときは一ヶ月ほど費やしましたが、一ヶ月に一〇万円しか収入がないとなると、もう「これは、やっていけない」ことが明らかです。
 アルバイトをしながらでも漫画を描いていく、という方法もありましたが、漫画家を名乗る以上、やはり自分の作品だけで生きていけるようになりたかったのです。pp96-97

どんなに世界観やキャラクターの設定を綿密に行っても、それを支えられるだけの絵の力がなければ話にはならない。谷口ジローの『孤独のグルメ』のような作品が可能なのも、超リアルに描きこまれた食べ物の絵があればこそなのだ。

しかし、絵が下手でも、上手な絵よりも心に残るものがあれば売れることも可能である。その決め手は何かといえば、その作者が誰かわかるという作画の個性の強さであるだろう。その上で、いかに人物や銃、火、水、光、岩など様々なカテゴリーにわたる絵の上達のための方法も公開する。

さらに、独自の世界観を築くためには、綿密なリサーチがなくてはならない。リサーチなしでは簡単にその分野のプロには見抜かれてしまうし、同じリサーチを行うにしろ、ネットや本などの資料では限界がある。リアルな場所には、その場に出かけてみなければわからない何かがあるのだ。

本書の中には、漫画を目指す人が当然踏まえるべき王道、その鉄則がほぼ網羅されていると言ってよいだろう。それでも、そのすべてを真似たところで、長期の成功が保証されるわけではないと著者は言う。あくまで作品のオリジナルな魅力をそれぞれが確立することにこそ、成功へのパスポートがある。

まず道に迷わないための「地図」となる教科書を提示し、次にその教科書を超えることを、後進の漫画家に伝えるところに、著者の漫画への熱い情熱がうかがわれる。

『荒木飛呂彦の漫画術』は、漫画家を目指す人に対する「教科書」、地図となる本であるだけでなく、荒木飛呂彦のみならず漫画を読み解く上でのルールを、作者サイドから伝える書物である。さらにそれ以外に、クリエイティブな世界を築くことを目指すすべての人をも啓発することをめざして書かれた本、いわば開かれた書物なのである。

関連ページ:
荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

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