つぶやきコミューン

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橋本幸士『超ひも理論をパパに習ってみた』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

私たちの世界は原子でできていて、原子は電子と陽子と中性子でできてる。その陽子と中性子が、こんなにわかってないということは、私たちはこの世のことを全然知らないということよね。p80

科学者は毎日、冒険に出かけてるんだ。誰も知らない真理を求めて、リュックを背負って。p94



超ひも理論とは何か?わかりやすく言えば、素粒子が小さなひもでできているという仮説であり、「この宇宙のすべての物質と力を統一的に説明するという野心的な物理理論」である。

橋本幸士『超ひも理論をパパに習ってみた 天才物理学者・浪花坂教授の70分講義(講談社)は、初心者にもわかる超ひも理論を中心とした、素粒子物理学の簡単な入門書である。17歳の女子高校生の美咲が、父親である天才物理学者の浪速阪教授から、素粒子のことを教わり、さらに彼女が抱いた疑問点に対し父親が答えるというかたちをとっている。

標準語で尋ねる娘、それに対して関西弁で答える父親。

「異次元で素粒子がわかるって、わけがわからない」
「そやろ、それが面白いんやで。クォークの振る舞いの謎を解く鍵が、異次元の考え方にあるかもしれんのやで。わからんのが面白いんや」
p26

こんな漫才みたいなペースでこの講義は進んでゆく。1日10分×7回、ほんの一時間ばかり本書を読むだけで、次元のこと、素粒子のこと、超ひも理論のことが、隅から隅まで、すっきりと謎が解ける…というわけではない。

なぜなら、次元にせよ、素粒子にせよ、超ひも理論にせよ、多くは仮説の段階にとどまっていて、専門の学者にもわからないことだらけなのだ。

じつは、クオークを表す方程式はわかっているのに、それを解いた人はおらんのや p25

水素の原子核が陽子、その陽子は三つのクォークという素粒子から成り立っていると考えられている。しかし、クオークには不思議な性質がある。単独では取り出すことができず、二つ三つと組み合わさってしか見つからない。その方程式を解くと1億円もらえると言われるほどに価値のある問題、「ミレニアム問題」の一つさえ存在する。

わかるのは、なぜそうした仮説が必要であるのか、何がわかっていて何がわかっていないのかであり、問題のありかとその必然性が、この本を通読することで、くっきりと浮かび上がってくるのである。

次元の問題は、素粒子の問題を解くために必要な仮説の中で登場する。数式的につじつまを合わせようとすると、三次元を超えた異次元を、超ひも理論では九次元まで導入することが必要となってくる。

しかし、なぜそこに異次元があるとわかるのか?

異次元は、この三次元での世界では、切り口としてしか見えず、モノが異次元にまで広がっているなら、消えてしまうように見えるはずである。

物理学には有名な、エネルギー保存の法則、っていうのがあるんやけど、もしモノが消えてしまったら、エネルギーが保存せんことになって、そりゃ大変なことになってしまう。そやから、異次元があるかないかは、エネルギーが保存しているかどうかをチェックすれば調べられるんや
p40

ダン・ブラウンの『悪魔と神』にも登場し、『知ろうとすること。』で紹介した早野龍五氏もしょっちゅう研究員として出かけているヨーロッパのCERNが、LHC(大ハドロン衝突器)という超巨大な粒子加速器を使って調べているのも、このエネルギーの消滅の有無なのである。

異次元はなぜ見えないのかについては二つの考え方がある。
一つは、われわれの感覚が三次元にとどまっていて、異次元方向へと進めないという可能性。
もう一つは、実験の限界以上に小さく巻かれているので、異次元は見えないという可能性である。

後者を余剰次元のコンパクト化という。こうした普通の人間の感覚からは遠く隔たった世界へと、本書は軽妙な語り口によってあれよあれよという間に導いてゆくのである。

陽子には、多くの兄弟が存在する。重さが違う以外、ほとんど同じ性質を持った素粒子、これを総称してハドロンという。1950年代に多くの素粒子が発見されて学者たちは大慌てしたが、それを解消したのもさらに小さい素粒子クオークの導入だったのである。

多くのハドロンはなぜ存在するのか?その謎も本書の後半で解説される。

ハドロンを形成するクオークの間に働く「強い力」は、「グル―オン」という素粒子のやりとりによって生じるが、その軌跡を描いた図が「ファインマン図」である。しかし、グル―オンはどんどん分裂して、その飛跡によってファインマン図は埋め尽くされるという奇妙な事態が生じる。そこでは万有引力の法則のような逆二乗法則(力は距離の二乗に反比例する)が成り立たなくなってしまう。そこで成り立つのは、逆ゼロ乗法則であると言う。

ここでもわかっていないことの壁が人類に立ちはだかる。

物理学者は、なんでクォークの間の力が逆二乗やなくて、逆ゼロ乗になるか、わかってへんのや。p102

しかし、本書の歩みはそこでとどまることはない。クォークがもし異次元方向に丸まっているとすると、そこでぐるぐると異次元方向にめまぐるしく動いているなら、エネルギーは三次元からは質量の変化として観測される。これが陽子と重さだけが異なるハドロンが生じる説明である。

そして、最後に進むのが超ひも理論の世界である。

超ひも理論で想定されるひもには、二種類ある。
のばした靴ひものような、開いたひも
そして、輪ゴムのような、閉じたひも
の二種類である。

超ひも理論を導入するとどんなよいことがあるのだろうか?

「素粒子が小さなひもだったら、何が変わるの?」
「そこがポイントやな。じつは、素粒子がひもやったとすると、自動的に光と重力が出てくるねん!スゴいやろ!」

p125

じつは重力こそが閉じたひもであり、光や電磁気は開いたひもである。そこから統一された理論のまばゆいばかりの世界が示される。

超ひも理論の世界は、数理的に厳密に基礎づけられていない謎だらけ、わからないことだらけの世界である。

この素晴らしいヴィジョンによって多くのことが上手く説明できる、何となくこれでイケそうな感じ、でもまだ数式が解けない、証明できないもどかしいまでの科学の現在をも本書は正直に示している。

本書は量子物理学の最先端の成果を広く伝える本であるが、同時に無知の知に関する本である。一般の人が思いたがるのとは逆に、この世界にはわからないことだらけ、宇宙にも解けないことだらけ、未知の領域が広がっている。だから科学は面白いのである。

本書を読めば、素粒子理論の現在に関して、その成果の理解ということに関しては、専門の学者と五十歩百歩の位置に立てる、少なくともそう錯覚できるかもしれない。

もちろん、この五十歩と百歩の間には、途方もない距離がある。巨大な加速器を使い実験を繰り返したり、数式を使ってさらに先まで理論を進めるということは、素人には到底かなわないことだ。

だが、この本を読んだ中学生や高校生が、素粒子理論や科学の面白さに目覚め、近い将来この分野の大家になり、数々の謎を解き明かし、この本の中で述べられた一億円を獲得するという可能性は大いにあると思う。『超ひも理論をパパに習ってみた』は、ポンとそんな世界にまで、わたしたちの理解と想像力をワープさせることができる類まれな一冊である。

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