つぶやきコミューン

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坂口恭平『ズームイン、服!』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略


 
建てない建築家、新政府内閣総理大臣、作家、絵描き、歌い手…自称、他称を含め、様々な肩書を持つ坂口恭平の最新作『ズームイン、服!』(マガジンハウス)。

坂口恭平自身を皮切りに、学生時代からの建築の師匠である山野潤一、坂口自らカリスマ店員をつとめるポアンカレ書店店主、牛島漁に至るまで、30人の人物の服飾の、イラストによるクローズアップから、本人のキャリア形成、そして思考そのものへと分析と考察は進んでゆく。

坂口恭平がこだわるのは、表層である。モノの表面である。オーソドックスなブランドではなく、ときには0円で入手できる、ありきたりの素材を組み合わせたブリコラージュの世界の中には、その作り手の思考と人生が結晶化されている。

他者を通して「創造とは何か?」を考える観察の冒険。手掛かりになるのは一番薄っぺらい表面、つまり服である。それはどこまでいっても「うわべ」にすぎない。しかし、このうわべこそが重要なのだ。うわべこそがしっかりと観察できる唯一の情報源なのである。p005-006

取り上げられるのは、ありきたりのファッションに満足することなく、自らありきたりの服や布から、自らの服を作り上げる人たちのように見える。しかし、着るも のとしての服は、いつしか身に着けるものとしての靴、鞄、メガネや、部屋を飾るものとしての花、乗るものとしての二輪車、さらには人工衛星まで進み、さらにそれを創作する人の思考の深みへと潜行してゆく。

取り上げられた人物のプロフィールは多種多様であるが、坂口恭平が語るとすべて坂口ワールドの登場人物となってしまう。彼らは、社会に対する違和感、その中で小さなこだわりを見つけ、ときに世界中を旅し、ときに師匠を見つけ弟子入りしながら、世界を深化させ、よりよい仕事への転職を重ねる中、流転の人生を続けてゆく。いつしか本当に本人のプロフィールなのか、坂口恭平が語る小説の主人公なのかわからなくなってしまう。共感できるゾーンに沿ってディテールを拾い上げ語られた他人の人生は、坂口恭平の分身となってしまう。その功罪を自覚しながら、坂口恭平は『ズームイン、服!』を書いているのである。

これは他者の観察でありながら、同時に自分が内包している創造性へ歩み寄ろうとしている行動でもある。僕はこの本に登場してくれた人びとの人間性を描くことを目的にはしなかった。そもそも取材した人の人間性などを他者が書くことなんて不可能に近い。どんなに詳細に書けたとしても、それはやはり僕の思考の動きの記録にすぎない。p06

坂口恭平の思考が深く投影された観察の対象である本書の登場人物に共通しているのは、規範から外れたものに対する鋭敏なビジョンである。彼らこそは、社会の中で当たり前とされているものの余白に自分の棲家を、愛好と生業の対象を見つけては、創意工夫を重ねる中で、独自の形へと進化させてゆく見者のアルティザンなのである。

ただひたすら行き当たりばったりに自分の興味に沿って生きる。人がゴミと思っても自分には宝と思えたら大事にする。それだけやり続けたら当然ながらその人独自の勘が冴えてくる。それは誰も教えてくれない、かつ一生どんなことがあっても失うことのない能力になる。ひたすら生きる。それがその人独自の「経済」を作り上げるのだ。p193

この見者たちの系譜を辿る中で、社会の中心、常識の視点からは決して見えなかった無数の選択肢が浮かび上がってくる。それは、この難しい時代の中で、自分の居場所を見つけることができずにいる人々に、大きな希望を与えることだろう。

『ズームイン、服!』は新しい世代のための教科書になることだろう。その教えは、どれか他人の人生の真似をすることではなく、世界に対する自分の感覚、違和感に対しとことん忠実になることによって、誰も歩いたことのない道を進むことを教える。一見困難そうに見える道の脇には、無数の抜け道があり、思いもかけない場所へと通じていることを教える。そこに未だ発見されざる宝が、自らの経済をつくりあげるための、唯一の源泉があることを教えるのである。

関連ページ:
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