つぶやきコミューン

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内藤正典『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本



この国におけるイスラム世界に対する情報も、理解もきわめて限定的であり、偏ったものだ。それらは、イスラム世界と敵対する、あるいは利害的な対立を抱える欧米諸国の情報をそのままうのみに垂れ流すものが多く含まれる。そして何年かの歳月が過ぎることで、イラクにおける大量破壊兵器の保有のように、全くのデマにすぎないプロパガンダだったことがわかることもある。さらに、記者たちの初歩的な無知がこの情報の垂れ流しに拍車をかける。たとえば、本来「アルカイダ」は、固有名詞ではなく「基地」を表す普通名詞にすぎない。そのような無知な状態では簡単に陰謀論に巻き込まれてしまうことは想像に難くない。

しかし、イスラムの国々に派兵し、戦闘行為を繰り返し、何千何万という人々を殺戮してきた欧米の国々に、戦後70年間こうした地域で紛争を抱えることがなく、一人の人も殺さなかった日本が、報道の用語に至るまで、右へ倣えすることは実に奇妙なことである。政府やメディアに潜在する一種名誉白人的自意識による報道は、こと中東やイスラム世界に関する限り、益する部分よりも有害な部分の方が多いのである。

同志社大学大学院グローバル・スタディーズの研究科教授であり、現代イスラム研究の碩学である内藤正典氏の『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』(集英社新書)は、欧米的なフィルターを通すことなく、あくまで日本という国の国情や戦後70年間の歴史をベースに、なるべく現地の人々の情報や感覚に沿いながら、イスラム世界を分析し、今後のたどるべき道を考える労作である。

本書の中で、著者はイスラム世界についての知識が乏しい一般人にもわかるように、可能な限り平易な言葉を選び、複雑な事情をかみ砕いて説明しようとする。

まず、なぜにイスラム国は生まれたのか?その因果の糸をたどり直すことが第一だ。

そして、戦争は宗教的対立から生まれたものなのかどうなのか、それをイスラムの教義や歴史から分析し、決してそうではないと断言する。「文明の衝突」そのものが、一種のプロパガンダであるというのである。

さらに、ヨーロッパを支配するイスラム・フォビア(イスラム嫌悪)と、そこから生み出されるムスリムに対する差別や虐待の実態を解説する。

こうした流れの中で、イスラム国の登場自体も一種の必然として生まれてきたのである。

世界の多くの国の中で、もしイスラム世界と非イスラムの世界の融和が可能であるとしたら、それが可能であるのは、日本でしかない。しかし、安倍政権の積極的平和主義の名のもとにおける支援は、ほとんど唯一の融和の道を閉ざすだけでなく、日本と日本国民をかつてない危険に晒すものであることに警鐘を鳴らす。

誤解されやすいことだが、著者が、何らかの政治的立場に沿って、ポジショントークを行っていると思われる部分はほとんどない。著者の唯一の立場ともいえるのは、中東に平和を、そして戦死者を一人でも減らすという人間主義的、平和主義的なものである。だが、結果として、武器の売買や石油などの利権をめぐり、火中に栗を拾いたいという国々や人々とは利害を一とすることができないのは、避けられないだろう。

多くの人々は、その人質処刑の手口から、全世界の人々に大きな恐怖を抱かせているイスラム国を最大の悪と考えがちだが、こと戦争の犠牲者から言えば、シリアのアサド政権の方が女子供を含む、はるかに多くの人々を殺しているし、イスラエルのガザの空爆も大規模な虐殺行為であり、「敵の敵は味方」が成立しない中東特有の事情が、単純明快な思考を不可能とする。さらにイスラム国は、これまでの領域国民国家のカテゴリーに収まらないアメーバ的な存在であり、従来の国家間の戦闘と同じやり方で、一掃することは不可能である違いが、十分に認識されていない点も不安につながっている。時代錯誤的な戦闘を徹底して行うことは、結果として第二第三の、場合によってはより恐ろしいイスラム国を生み出し、世界中に殺し合いの連鎖をまき散らすことにしかならないのである。

そうした中で、日本の参考になりうるのは、アメリカ政府の圧力をのらりくらりとかわしながら、したたかに独自の路線を貫き続けたトルコの選択であるだろう。

アフリカと中東各地の戦乱、さらに広がるイスラム国の脅威、これらに対して、善悪の二元論ではなく、ニュートラルで冷静な俯瞰的視点を持ちたい人々に勧めたい一冊と言えよう。

関連ページ:
内田樹・中田考『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』

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