つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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石田衣良『余命一年のスタリオン』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略



石田衣良の小説はいわゆるIWGP(池袋ウエストゲートパーク)シリーズ以外、『シューカツ!』とか『コンカツ?』などのタイトルを見てわかる通り、トレンドを追おうとするネタに苦しんでいる目立ち、外れも多く、このところあまり読まなくなったのだが、『余命一年のスタリオン』(文藝春秋)は500ページを超える力作で、泣けるシーンも多い、いい作品である。これまで読まなかったのは、タイトルから競馬の話かと思ったからである。

『余命一年のスタリオン』は馬の話ではなく、肺がんにより、余命一年の宣告を受けた俳優の話である。「種馬王子」というニックネームで売り出し、実際に三人の有名人女性との交際のある女たらしのバツイチ俳優小早川当馬(本名早川健彦)が、がんの宣告をきっかけに、最後の主演映画の製作に臨む中、同時に真実の愛に目覚めるーそれがそのまま映画の中身とシンクロするという話である。

石田衣良は、かつてコピーライターとして鳴らし、映画出演の経験もある業界人だけあって、芸能界の内情にも通じ、がん治療の経過もよく取材して詳しく書かれているが、この作品の魅力はむしろそうした部分ではない。

当馬のがん宣告の後も気丈にふるまう母親の早川佐織や、芸能人の華を全く持たないが、やがて当馬と惹かれ合うようになる、マネージャーの木内あかねといった普通の女性の姿の魅力と感情の機微が生き生きと描かれている部分にある。

最後の主演映画を撮る中、当馬は現場で何度も倒れては立ち上がり、その度泣かせるシーンで盛り上げながら、長々と引っ張った割には、最後に手心を加えてしまい、ハッピーなエンディングで幕を終わらせてしまう。それが傑作とまでは言えない理由である。「事実は小説より奇なり」というが、金子哲雄の『僕の死に方』のように、自分の死の後まで演出するという時代において、不治の病との闘病記とラブストーリーという鉄板ネタで勝負するなら、最後のエンディングでもう一ひねりしてほしかった。個人的にはベタな結末が惜しまれてならないが、逆に悲痛なエンディングのない、爽やかで安心して読める物語を求める読者にはお勧めの一冊である。

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