つぶやきコミューン

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板垣恵介『刃牙道 3』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略
 剣がなくては人は斬れんか

「剣」とはそんな不便なものか


  (板垣恵介『刃牙道 3』)


今、板垣恵介『刃牙道』が面白い。とてつもなく面白い。寝床に「少年チャンピオン」のページを切り離し持ち込み読み返さずにはいられないくらい面白い。その面白さはどこにあるのか?

外伝や特別篇を除いてカウントしても、『グラップラー刃牙』42巻、『バキ』31巻、『範馬刃牙』37巻。計110巻にわたり、板垣恵介が描いてきたのは、一種の格闘技版教養小説の世界であった。主人公である少年範馬刃牙が世界のあらゆる格闘技の猛者と出会い、それだけでは事足りず、脱獄した死刑囚や古代人のピクルまで登場させることによって、しだいに他を寄せつけない強さを獲得し、最後には「地上最強の生物」と称される父範馬勇次郎との頂上対決にまでこぎつける。一種の成長物語であり、同時にその中で、格闘者間の強弱のヒエラルキー、ピラミッドも形成されてきた。

『刃牙道』ではたった一人、四百年の時間を越えて、宮本武蔵を蘇らせるだけで、そのすべてをリセットし、シャッフルしてしまう。いわば、著者自身による壮大なちゃぶ台返しである。それまで読者の中で、様々な対決を通じ築きあげられてきた格闘者間の秩序も、個々のファイターのイメージもがらりと崩れてしまう。『刃牙道』が、刃牙シリーズの読者にとって快感なのは、この脳内のゲシュタルト崩壊なのである。

勝者が敗者になる。強者が弱者になる。みんな強そうに見えてたけど、実はたいしたことないじゃん、そう思わせてしまう。

『刃牙道』連載開始時に、二つの疑問を呈しておいた。一つはクローン技術によって武蔵の亡骸から蘇らせたところで、その意識は全く戦歴を経ないものにすぎず、本物の武蔵とは言えない点。これを、作者はご老公こと徳川光成の姉、徳川寒子の降霊術、口寄せという奇策によってクリアしてしてしまう。

そうして、もう一つの疑問は、剣の達人である武蔵は、素手がメインの格闘家たちの中に入っても、手が合わないのではないかというものであった。そして、それこそがこの第3巻においてテーマとなるものである。

【以下は半分だけネタバレ(=ストーリーは明かすが結果は隠す)のあらすじ】

『刃牙道』の宮本武蔵は魅力的だ。武蔵自らが描いた晩年の肖像画をヒントにして目が大きく、まるで犬のようにどこを向いているかわからないが、それ以外は普通のオッサン顔である。しかし、風格がある。味がある。ユーモアがある。どこか相手の力を見切った上での感心の台詞の「ほう」、とか刃牙に対する「少年(ボン)」という独自の言い回しもいい。

さて、『刃牙道』3巻の冒頭を飾るのは、ケンカ師花山薫と 範馬勇次郎の対決であるが、刃牙少年編での初対決より時間が経ったとしても、両者の力が逆転することは100パーセントありえない。花山薫の退屈解消に、 勇次郎が横綱相撲でつきあったというだけである。果たして、このシーンに読者サービス以上の深い意味があるのかどうかは謎である。

そのころ武蔵は、現代の東京の見物をおこなったのちに、東京ドーム下の地下闘技場で剣の達人、佐部京一郎(さぶきょういちろう)と会いまみえる。達人と言っても、あくまで現代の基準である。その結果は・・・

そして、何かの変化を察し、徳川邸を訪れた範馬刃牙。隣室のただならぬ気配を察し、徳川光成を問い詰める。

そして、いよいよ、出現!

この人に何を感じ、何を思う………?
という光成に対し、刃牙は
めちゃくちゃヘンなこと言うぜ…じっちゃん
お、応!言うてみ
「●●●●さん………?

楽しい展開である。わかってるじゃないか、刃牙くん。この時の武蔵のポーカーフェイス、ドヤ顔が最高である。かくして、「硬式ルール」の絶対王者と「近代ルール」の少年王者との間に、開戦の火ぶたが切って落とされるのであった。
 

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