つぶやきコミューン

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有川浩『明日の子供たち』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略



児童養護施設の子供は気の毒な子たちなのだろうか、彼らにとって進学は就職よりもリスクが高いのだろうか、彼らの多くは親のいない孤児で、施設とは孤児院なのだろうか、そんな世の中の誤解や疑問を、ゆるやかにときほぐすハートウォーミングなストーリーが、有川浩『明日の子供たち』(幻冬舎)である。

天城市にある児童養護施設、「あしたの家」は90人の児童を擁する大規模な施設である。テレビのドキュメンタリー番組に影響され、ソフトウェア企業の営業から転じ、「あしたの家」に就職したばかりの三田村慎平は、子供たちの履物を勝手に整理しようとして、先輩職員の和泉和恵から注意を受ける。親のように、少しくらい甘やかしてもいいではないかという三田村に対し、90人の子供を毎日甘やかすことができるのかと、和泉はきつく反論する。「あしたの家」の中にも、様々な考え方の職員がいた。温和な性格で、おおらかに全体を包み込むように見守る施設長の福原政子、規則に厳しい現実主義者で副施設長の梨田克彦、理想主義者であり和泉が羅針盤として慕う猪俣吉行

幼い児童から、社会に出る直前の高校生まで幅広い世代の子供を抱える「あしたの家」だが、ストーリーは三田村の担当する高校二年生を中心に描かれる。聞き分けがよく「問題のない子」というイメージの谷村泰子だが、なぜか三田村には打ち解けようとしない。その理由は何なのかを三田村は悩み続ける。同じく優等生の平田久志は、そんな三田村の姿をクールに見守る。ききわけのない子の代表が、坂上杏里である。彼女は、泰子と同じ大学を志望するが、学力的にも、意欲的にも問題がある杏里の進学に対し、職員たちは冷淡であった。そんな中で、三田村はもっと進学に対する意欲を高めるよう、子供たちに情報提供してはどうかと提案するのだったが、猪俣でさえも杏里どころか泰子の進学に対しても消極的であった。進学は、意識の高い子だけが認められるべきという猪俣の持論に、三田村は釈然としないものを感じ、和泉の力を借りながら、改革に取り組もうとするのだった。

有川浩はラブコメの名手であり、社会問題に対して生真面目に正面から取り組む展開に、多くの読者は戸惑うかもしれない。しかし、この物語のキーワードの一つはツンデレであり、その中には、作者の読者に対するツンデレも含まれる。物語の序盤より、ラブコメへの伏線は、しっかり張られているのである。

物語の中ほどで、ホワイトナイト的な存在として、自衛隊が出て来る。いくら作者の十八番のフィールドだからと言って、施設の問題点の解消を自衛隊にもってゆくのはいくらなんでも強引過ぎるだろうと一瞬思わせるのだが、もちろんそういう展開にはならない。物語の後半は、児童養護施設の当事者活動を応援する交流施設、「サロン・ド・ひだまり」の存在をめぐって、さらなる広がりを見せる。そこで、現在の和泉につながる彼女の高校時代の恋物語も明らかにされるのである。

施設の出身者には、一般の家庭のように戻れる場所も、相談できる相手もない。そのことが思わぬ悲劇を生みかねない状況において、「サロン・ド・ひだまり」のような施設は貴重であるが、意義の認められにくい存在である。「あしたの家」の内部も、「サロン・ド・ひまわり」との交流の是非をめぐり、意見が真っ二つに割れる。果たして、その行方は?

施設で働く人の気持ちは、てんでばらばらなようでいて、実は心の底では同じ気持ちでつながっている。若い人の失敗に厳しくあたるのは、自分がかつて同じような失敗をしたからであり、多くの苦い経験から学んだ教訓が、かつての自分のような新人に対して厳しい態度をとらせることが多いのだ。『明日の子供たち』において、ツンデレがキーワードとなるのもそのためだ。その屈折した心のすれ違いが、様々な軋轢や葛藤を内部にもたらす。そのさなかで、距離が近づいたり離れたりしながら、生まれ育まれる恋のドラマもまた存在するのである。


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