つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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川村元気『億男』
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もしもあなたがタナボタ式に3億円を手に入れたなら?そしてそのお金が信頼していた友人とともに忽然と消えてしまったら?川村元気『億男』(マガジンハウス)は、お金と幸せの関係をめぐる三十日間の冒険物語である。

主人公の一男は、かつて妻万佐子と一人娘のまどかと幸せな家庭生活を送っていたが、失踪した弟の借金の肩代わりをしたため、離婚し、妻や娘と別れて暮らさなければならなかった。昼間は図書館で、夜はパン工場で二重に働きながら借金返済の毎日を送っていた。そんな時、久しぶりに会ったまどかと一緒に引き当てた福引きから、億男のもとに三億というお金が転がり込むことになる。いきなり億単位のお金を手に入れた人々の不幸の話を聞かされ続けた一男は、不安になり、十五年ぶりに、大学時代の親友、九十九に会いに行こうとする。落語を通じて、親交を深めた九十九は、今は百億もの資産を動かす企業のオーナーであった。以前、お金と幸せの関係について、答えを探していると言った九十九に一男は、お金の使い道に相談をする。しかし、一緒に飲み明かした後で、九十九は忽然と姿を消してしまう。三億のお金とともに。

なぜ、大金持ちの九十九が?途方に暮れた一男は、九十九の行方を知るために、かつて彼とともに働いていた十和子百瀬千住のもとを訪ねるのだった。果たして、一男は九十九と再会し、三億円を取り戻すことができるのか。そして、妻や娘と幸せな生活を取り戻すことができるのか?お金と幸せとの関係とは?

お金は、実体のあるようなないような不思議な存在である。それに囚われた生活も、それを完全に無視した生活もどちらも現代の社会においては不可能である。人生の浮き沈みを支配し、幸不幸をつかさどるツールとしての、一男のお金をめぐる冒険は、私たちにお金との関係を深く考えさせる。一見水野敬也『夢をかなえるゾウ』のような、自己啓発書的小説のように見えるが、『億男』は安易なノウハウの定式化を拒否しながら、ひたすら読者へと考える機会を与えるのみなのである。

川村元気の前作『世界から猫が消えたなら』は、ありえない寓話的なファンタジーの形をとっていたが、この物語はぞれよりもずっとリアルである。文章は簡潔にして明瞭、無印良品のようなファッショナブルさを兼ね備えていて、文学作品としての読みごたえもある。図書館での一男と万佐子との出会いの話も素敵だし、かつて一男が九十九と旅したモロッコの描写と、落語の「芝浜」や「死神」が登場するくだりは特に秀逸で、この作品のテーマをより深く浮き彫りにする効果をあげている。

『億男』は、お金と幸せの関係をめぐる物語であるが、同時に家族の弱いつながりがテーマの物語でもある。愛する妻子のために、身を粉にして働いているサラリーマンなら、この作品のラストを涙なしに読むことはできないだろう。

『億男』は、前作ではまだ懐疑的な声もあった川村元気の作家としての資質が本物であることを天下に知らしめた、『世界から猫が消えたなら』を凌ぐ泣ける傑作である。

PS 映画化、70万部突破のベストセラー『世界から猫が消えたなら』が、文庫になって再登場!(解説中森明夫)
 

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