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勝間和代『稼ぐ話力』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本


そもそも、万人受けする話し方、理想のプレゼンのし方ってあるのでしょうか。

スティーブ・ジョブズのようにプレゼンすればいいのか、バラク・オバマのようなスピーチを行えばいいのか?

残念ながら、そうした試みは、徒労でないとしても、多くの場合、失敗に終わることでしょう。

『稼ぐ話力 
相手を腹落ちさせるプレゼンテーション術
(毎日新聞社)の中で、勝間和代氏は、万人受けする話し方も、唯一無二のプレゼンテーションの正解も存在しない、と繰り返し述べています。

さらに、ものを言うのは場数であると、そしてその目安となるのは1万時間であるとさえ。

ここで、大体の読者はええっと引きそうになります。

でも、闇雲に努力をしても駄目なのです。ある一つのことを理解し、徹底するのでなければ。

そして、『稼ぐ話力』は、そのたった一つのことを徹底するために、あらゆる方向から問題点を取り上げ、検討した本なのです。

では、なぜ話す力やプレゼンの技術に、絶対的な正解がないのでしょうか?

ここで本書のタイトルが、『稼ぐ話力』となっていることに注意しましょう。論理的に話す技術ではないのです。

絶対的な正解がある世界とは、大学入試問題のように、評価の基準がはっきりしていて、評価する人間が均質である場合に限られます。大学入試の小論文で、高い評価を与えられるとしたら、与えられた主題に対して、首尾一貫して、もっともな根拠を提示しながら、主張を論理的に構築するだけでよいということになります。これは、総じて勉強や学問の世界にはあてはまることですが、稼げる話力や、プレゼンの技術はその延長上にはありません。論理的整合性が最優先ではありません。発想のコペルニクス的転換が必要なのです。

それは何でしょうか?

ビジネスの場合には、相手がTPOによってころころと変わります。たとえ同じ商品を売る場合でも、長年の顧客と新規開拓の場合では、同じやり方は通用しないでしょう。

同じように、固定ファンを前に話をする場合と、講演で話をする場合、テレビで不特定多数の聴衆を前に話をする場合では、話し方を変える必要が出てきます。

だから、勝間氏は、講演に行く場合でも、原稿を持つことなしに、会場の雰囲気を読んで話の内容や話し方を決めると言います。

たった一つの重要なこと、徹底すべきこととは、相手に合った内容を、相手が望むように話すことです。そうでなければ、ビジネスで商談をまとめたり、不特定多数の聴衆の注意を長時間ひきつけた上、会場をわかせ、感動させることは到底不可能なのです。

知的な訓練を受けた人間が、ともすれば陥りやすい最大の落とし穴とは、自分の主張を、余すことなく、論理的に主張しきるのが理想の話し方であり、プレゼンであると考えることです。

マッキンゼーに入ったころの勝間氏も、この落とし穴に囚われていました。

相手が自分と同等の専門知識を持っている前提で、滔々と話しても、クライアントには理解されないままに終わってしまいます。プレゼンは双方向のものであり、一方通行であってはいけないことを、マッキンゼーの低評価の中で、気づかされたのでした。

そう、何よりも重要なのは、相手に力点を置くことなのです。

多くのことを話しすぎるのも、陥りやすい欠点です。相手が理解できる以上の量を話し続けても、それはかえってマイナスの効果となってしまいます。話す内容を絞った上で、さらに相手がわかる言葉で説明する必要があります。一般に浸透していない専門用語も避ける必要があるのです。

専門用語をやたら使うとどうして話がわかりにくくなるかを、勝間氏はチャンクという言葉を用いて説明しています。

1チャンクとは、人間の脳のワーキングメモリの一塊のことです。個人差はあるものの、標準で7チャンクまで記憶できると言われますが、ある言葉が専門家にとっては1チャンクであっても、知らない人にはそれが3チャンクものワーキングメモリを占めてしまう場合があり、そうなると肝心の話の流れが頭に入らなくなるというのです。

同様に話題に関しても、何を話すかだけでなく、何を話さないか、引き算の発想で考える必要があります。

つまらないことや一般論、誰にでも言えることだけでなく、相手がわからないこと、相手にとって価値のないことも、話の内容から外す必要があります。

それが情報密度を上げるということなのです。

逆に話す必要のあるものとは、自分が本当に伝えたいと思った言葉、あまり知られていないが重要な情報、経験談や具体例ということになります。

さらに話す順番も、自分が話したい順番ではなく、相手が聞きたい順番にと、発想を自分中心の目線から、相手中心の目線へと書き換えてゆくことが、本書の全体を貫く大きなテーマとなっているのです。

『稼ぐ話力』は、話す場が日常的に与えられるのに思った効果を挙げることができないとか、自分の主張ばかり意識しすぎて相手を無視して話していたという人には、絶大な効果を挙げる本ではないかと思います。本書は、相手中心の話し方やプレゼンの技術に関して、正しい方向性や、具体的な技術を、微に入り、細に入り、示してくれる本です。しかし、それをどの程度まで徹底して身につけるかは、最終的には、本人の試行錯誤、実践あるのみなのです。

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