つぶやきコミューン

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里中哲彦『英文法の楽園』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



日本で教えられている英語は、中学高校から予備校まで続く受験英語であれ、大学で教えられる教養・専門課程の英語であれ、6〜7割はアメリカ英語、4〜3割はイギリス英語、そして19、20世紀の文学作品から、現代の時事英語までが入り混じったアマルガムである。総じて、どこかの国のどこかの時代では正しい表現だが、それが今日どこで使われているかは定かでない代物の例文も数多く教えられ、そのままネイティブスピーカーの前で使うなら、首を傾げられたり、失笑を買うような表現も多々ある。

たとえば、受験英語として普通に高校や予備校で教えられる表現の一つ、speak ill of 〜(悪口を言う)は、今日ほとんど使われず、限られた文脈speak ill of the dead(死者の悪口を言う)でのみ用いられ、speak bad things about 〜talk badly about〜 といった表現の方が好まれる。イギリス英語ならbe rude about〜だ(094 speak ill of Aは使われない?)。

里中哲彦『英文法の楽園 日本人の知らない105の秘密』(中公新書)は、そんな正体不明の日本における英語を、アメリカ英語、イギリス英語の区別に注意しながら、現代的な英語へとアップデートするのにもってこいの一冊と言えるだろう。

単に、表現の現代性だけでなく、英語的な発想、たとえばなぜfurniture(家具)はなぜ集合名詞であり、a furniturefurnituresといった形で用いられないかも、あるイギリス人との会話を引きながら見事に説明されている。
 
「なんでもいいから家具をひとつ頭に思い浮かべてごらん」と彼は私にいいました。
「イス」と私は答えました。
「あなたはイスを思い浮かべたけど、ある人は机、別の人は本棚かもしれない。つまり、furniture という単語は一つの統一イメージをもっていないんだ。それが理由で、furniture は uncountable noun(数えられない名詞)なんだよ。」

(031 家具やお金が数えられない,p63)

have+過去分詞の形をとる現在完了形は、過去形とどこが違うのかも、have(持っている)という単語の基本的意味に関連づけ説明してあり、とても分かりやすい。
 
  まず、have ですが、これは「もっている」という意味ですね。「もっている」といっても、この場合は、目に見えるものではなく、目に見えないものを頭の中に「もっている」と考えてみましょう。次に、過去分詞 (done) ですが、ここではたんに「過去の行為や出来事」だと考えてみてください。
 以上のことをまとめると、現在完了は「過去に起きたこと (done) を持っている(have) 」と捉えることができます。つまり、過去の行為や出来事を、現在という視座から包み込んでいるのが現在完了なのです。現在完了は「過去に生じた行為や出来事が現在とつながりをもっている状態」であるとネイティブ・スピーカーは認識しているのです。

009 現在完了形の考え方,pp18-19)

高校や、予備校の授業では、文法の基本の枠組みをまず教えるのに時間がとられ、たとえ教える側にそれだけの知識があったとしても、こうした表現の基本的な発想にまで手が回らないことがしばしばである。

しかし、いったん形を覚えてしまった以上は、こうした基本的発想を身に着けた方がよほど近道なのである。『英文法の楽園』の中では、そうした表現や文法の重要点が105集められ、半分近くは気の利いた英語教師の授業でも繰り返された内容だが、残り半分はその一歩先を行き、あいまいであった部分をクリアに納得させる内容となっている。たとえば、convenient(便利な)という形容詞は、なぜ人を主語としないかに関して。
 
   上に掲げた英文を Please drop by if it is convenient for you.(×)とすることができない理由は、「あなたが都合のよい人なら」という意味になってしまうからです。
 では、なぜ it is convenient for you となるのでしょうか。この it はいったい何を指しているのでしょうか。
  if it is convenient for you to drop by としたら、わかってもらえるでしょうか。
  つまり、itは形式主語で、for you to drop by (あなたが立ち寄ること)が真主語であるということです。後ろの to drop by が省略されていたというわけです。

(038 convenient, p77)

本書は、単に文法力だけでなく、語彙力の増強にも役立つ。たとえば、名詞の前に接頭辞のaをつけて、形容詞化する語群に関しての記述である。
 
(3) とくに古英語の前置詞 on の弱まった形であるとされる a-で始まる形容詞は、名詞に添えてできた語である(それらは名詞の前に置くことはできません)。
 ▶asleep (眠って)
 ▶alive(生きて)
 ▶afloat(浮かんで)
 ▶akin(同類で)
 ▶awake(目が覚めて)

 (03 a- ではじまる語,p75)

形から動詞の前についたと思いやすいが、名詞についたものなら、これらの形容詞が名詞の前に置かれないのも納得だ。さらに、alone(ひとりで)は、a+loneではなく、all oneのつづまったものというのは全くの初耳でうれしくなってしまう。本書には、思わず「へぇ〜」とうなりたくなるような、英語のトリビアがいっぱい詰まっているのだ。

このように単語の歴史的な起源を知ることで、思わぬ発見もある。たとえば、不定冠詞のaanの違いである。aが母音の前でanに変わるのではなく、oneの意味を持つanの方が先で、nがとれてaができたというのが真相である。
 
  an は、12世紀の半ばあたりから、子音ではじまる語の前では n が消失しはじめ、a だけで用いられるようになりました。いまの英語に a と an の2つの不定冠詞が存在するのはこのためです。
  中学校では、不定冠詞の基本は a であり、母音ではじまる語の前では an になると教わりますが、歴史的に見ればまったく逆で、不定冠詞の基本は an であって、子音ではじまる語の前で n が脱落するようになったのです。

001 どっちが先なの? pp2-3)

本書は、中学高校で英語を学んでいる人も、大学で英語を必修科目として学ばざるを得ない人にも、社会に出て英語を必要に迫られやり直さざるをえなくなった人にも、同様に役立つ英語力ブラッシュアップのための一冊と言えるだろう。時には、教えている人が知らないような高度な知識も書かれている。英語への苦手意識を飛び越えて、心理的な優越感を得るためにも、格好の本であると言えよう。
 
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