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勝間和代『人生確率論のススメ』
 JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略 Ver.1.01



勝間和代『人生確率論のススメ 
運でなく、確率を支配しよう(扶桑社新書)は、著者のこれまでの本の集大成であり、おそらく最高傑作である。同時に、もろもろの自己啓発書、いわゆる成功本全般を相対化したメタ自己啓発書とも言える名著であると言えるだろう。

自己啓発書の大きな問題点は、大きく分けて二つある。

一つは、特定の個人や企業の成功を唯一の例としながら、そのポリシーや規則性を取り出すというやり方である。個人や企業が成功するかどうかは、その時代や地域の環境に依存する。にもかかわらず、そうした事例を抽象化したところで、必ずしも再現可能であるとは限らない。たまたまうまくいったのか、それとも本当に成功する普遍的な要因があったのかは、わからない。一回性の歴史的事例を教科書とすることは、個人や時代や地域の環境が異なった場合の再現性をいさかさも保証しないのである。

もう一つは、一点突破型の成功理論である。朝型にすれば成功する、メモを取れば成功する、速読をマスターすれば成功する、清掃すれば成功する、断捨離すれば成功する、英語力をつければ成功すると言った具合だ。生物学では、最小律というものが存在する。植物の生育に必要な栄養素のうち、最も足りない要素によって、その植物の生育は左右されるというわけだ。何か一つのスキルを磨くと、それによって急に運がよくなったり、成功したりするのは、それがその個人や集団にとって、必要とされながら最も欠けている場合に限られる。Aという要素が欠けているのにBやCという要素をいくら補ってもあまり効果は期待できない。一点突破型の成功理論は、この最小律があてはまる場合にのみ、劇的な効果を上げ、他の場合には大した変化をもたらさないのである。

本書の中で、著者がこだわっているのは、再現可能性と、包括性である。個人の置かれた環境の差、時代や国、地域のいかんともしがたい差にかかわらず成功するための要素は何か。人生を生き抜く上で、トータルな戦略として有効なものは何か、その答えが人生確率論、つまり運というバラつきの世界に依存することなく、確率の高い選択肢を取り続けることなのである。

運とは、いわば偏差、バラつきの、ランダムな世界である。しかし、それを実力と勘違いし、運をつかもうと追いかける人が多い。しかし、バラつきである以上、よいカードも、悪いカードも同じようにめぐってくる。運がよいと思う人と悪いと思う人の違いは、単にどちらのカードを覚えているかでしかないのだ。

運は確率の世界でしかない。とすれば、ゲーム内部での勝負に一喜一憂するよりも、ゲームそのものの勝率を吟味することから始め、勝率の高いゲームを選び続けることで、長期的に人生に成功する確率を高めるべきであるというのが、本書の基本的な趣旨である。

この人生確率論の内容は、シンプルで本書の第2章から第4章の見出しに、そのエッセンスが要約されていると言ってよいだろう。

具体的には、第2章「運をつかむ」確率を高めるでは
・人の輪が広がれば「チャンス」が増える
・「環境」を味方につければ、物事はうまくいく
・得意技を積み上げれば、競争から自由になれる

と、努力のしかたの方向性として、社交性、環境適応(そのためには情報が大事)、積み上げの三つを挙げている。

そして、第3章の「運を逃す」確率を減らすでは、
・運が悪いのは、狭いボックスに閉じこもっているから
・なんでもかんでも積み上げればいいわけじゃない
・不幸な出来事や失敗を、完全に避けることはできない

の三点を挙げている。

閉じこもるとなぜよくないかと言えば、視野が狭いために、自分の可能性を発揮できる場にまでたどりつかず、偶然出会った狭い世界で必死になって努力しているためである。
 
 自分の努力云々よりも、どの分野で努力しているのか、誰と一緒にいるのかという、自分以外の要素で決まると思っておいたほうがいいでしょう。p63

また、ゾウがレース編みを努力するような、やっても無駄なものの捨て方、引き算で考えることの重要性も強調している。

さらに第4章では、チャンスに成功できない人の思考パターン
・リスクを避けてばかりいませんか?
・完璧主義に陥っていませんか?
・他人からの評価恐怖症になっていませんか?

の三つにまとめている。

第5章は、一歩進んで、確率や数学リテラシーを磨くためのブックガイド的な内容で、ここで著者はなんでも数値に置き換えて考えることの重要性を説いている。
 
 数学で考えることで、より効率的に、ランダムな運になるべく左右されないように生きられるということです。p124

人生確率論の世界は、いわばゴルフのトーナメントや麻雀の勝負の世界と同じである。短期では、運によるバラつきがあったとしても、長期的に見れば、確実に実力があるものは上位に上がり、勝利する。コラム「麻雀で学ぶ人生の確率計算」で紹介されたエッセンスは人生の縮図を見るようで面白い。
 
 麻雀はひたすら確率計算を回し続けるゲームです。逆に、確率計算をまったくせずに、ひたすら数合わせだけやっていくプレーヤーのことを「ドンジャラ麻雀」と言ってカモにされます。p162
 
人生でよくない流れになっているときは、えてしてこうした対応になっていることは、多くの人が経験していることだろう。
 
  また、強い人と弱い人の大きな違いの一つに、「手段へのこだわり」もあります。一見、強い人のほうが手段にこだわりそうですが、実は逆でして、強い人ほど、手段にこだわらず、多少点数が低くてもいいので、さっさと上がりを目指します。
  それはなぜかというと、麻雀は一人で絵合わせしているわけではなく、「競争」だからです。
p163
完璧主義にこだわりすぎると、みすみす目の前のおいしいチャンスを逃し、とんびに油揚げをさらわれてしまうのである。

本書に書かれた内容は、決して新しいものではなく、ほとんどの成功者が、意識的であれ、無意識的であれ、実行しているものである。ただ、それを包括的に語る言葉が与えられなかっただけである。

本書の内容を無視し、逆張りで成功する人はいるだろうか。90パーセントから99パーセントの人はそれにあてはまらないと言えるだろう。あてはまる人がいるとしたら、相当の天才か、人生の「積み上げ」のある人である。そしてそれほどの人であれば、すでにこの瞬間に相当な成功を収めているはずである。だから、もしもあなたが今自分は十分に成功していると感じていないなら、あるいはかつて成功したにもかかわらず、今は成功していないと感じているなら(それは運というばらつきに依存した成功であり、まだ確率を支配しきれていないことを意味する)、この本はあなたに多くのものをもたらすはずである。

『人生確率論のススメ』は、数学的な地図の上に自分のこれまでの選択を置いた上でその是非を検討し直し、これからのサバイバル戦術を立て直す、格好の手助けとなることだろう。

関連ページ:
勝間和代『専門家はウソをつく』

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