つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< October 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』 PART2
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
 


1.方法としての<観光>−欲望の外部へー


私たちは本当に自らが望んでいるものを望み、手に入れているのだろうか。

これこそが、東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』が提起するもっとも大きな問題である。

私たちの欲望は、実は私たちの環境によってつくられたものであり、私たちの過去のから現在に至る履歴によって限定された、いわば閉ざされたものではないだろうか。

一般には、職場や学校に代表されるリアルな世界に、ネットの自由な空間を対置するのが主流である。

しかし、Googleのアルゴリズムもまた、検索予想という形で、私たちの欲望を、過去の履歴の中へと閉じ込めようとする。

あなたは今まで欲望したものを欲望しなさい、というわけだ。

一見自由で無限な広がりを持ち、望んだ知識を手に入れることができると思われたWeb/蜘蛛の巣の世界は、欲望の環境規定性によって、蜘蛛を縛りつける検索可能性の閉域、牢獄へと変わる。

ジャック・デリダが、西欧哲学における形而上学的閉域の特徴づけるものとしてあげた「自ら語るのを聞きたい」という自閉的回路は、まさにそのままアルゴリズムによって規定されるインターネットの閉域を特徴づけることとなる。

それは、「自ら知っているものを知りたい」という世界である。なぜなら、検索ワードは知っているものしか打ち込みようがないからである。

インターネットの世界も、それを検索する私たちの欲望の環境規定性によって閉ざされた世界となっている。それは、リアルな職場同様に、誤配性のない<強いつながり>の世界である。

必要なのは、私たちがまだ検索ワードすら獲得していない、想像不可能な、外の欲望、欲望の外部にたどりつくことである。

そのためには、私たちが情報を得る環境そのものを変化させなくてはならない。

蜘蛛はいったん、自らの外へ出て、糸を伸ばす方向を、対象を、物色する必要がある。別の場所に巣をつくるのではない。それでは、再び強いつながりの中に呑み込まれてしまうことだろう。

強いつながりであるリアルな職場やネットの世界に対し、東浩紀が対置しようとするのは、「たまたまパーティで知り合ったひと」のような、誤配性を含んだ<弱いつながり>の世界であり、そのもっとも有効な手段の一つとして、旅、それも観光旅行をあげる。

これは本書の理解する上できわめて大事な点であるが、東浩紀が提示しようとしているのは、少数の知的選良−たとえば現役バリバリで世界を股にかけるライターや写真家ーのための方法論ではない。老若男女すべての人にとって可能な方法論である。

情報を世界に発信し続けようとする強い責任や、スラム街を隅々まで歩き尽くし、現地の人々と食住をともにするという旅の規範意識は、それらを限定された層、限定された世代のものへと変えてしまう。

しかし、つねに外の情報に触れ続け、組織にもネットのアルゴリズムに制限されない思考の自由を維持したいという欲望は、私たちが死ぬ直前までやむことはないであろう。ある種の<軽薄さ><無責任さ>をトレードオフとして引き受けるしかないのである。

対象に距離をとりながらも、自らの周囲の環境を変化させること。別の空間へと、別の時間へと身体を拘束するような経験の中に身を置くこと。それが方法としての<観光>なのである。
 
  言葉にできないものを言葉にすること。そのために大事なのは、まずは言葉にできないものを体験すること、つまり「現地に行く」ことです。p67

出会うべきなのは、目の前にある、モノ、人、そして知らない言葉の群れに身をさらすことである。それらすべては、物質的な現前性となって私たちの前に現れ、私たちの五感にはたらきかけ、思考することを促す。そこには、私たちの内なる言葉がまだ形成されていない、未分化な世界がある。蜘蛛の巣の外部があるのだ。これらの物質的存在との偶然の出会いのみが、新しい言葉、新しい概念を私たちのうちに形成することができる。自らの欲望の熱死状態から、私たちを救うことができるのである。

関連ページ:
東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』
書評 | 20:30 | comments(0) | - | - |
コメント
コメントする









 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.