つぶやきコミューン

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石田衣良『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパーク 将機
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略


石田衣良ファン待望のIWGPシリーズ最新作『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークⅪ』(文藝春秋)。前作の『プライド 池袋ウエストゲートパーク勝が2010年12月の出版だから、3年半ぶりである。その間、あれこれの石田衣良の作品を読んでもなんだか物足りない。彼の他の作品にはなくて、この作品にあるものとは何なのか。

池袋ウエストゲートパークの四つの魅力

第一に登場人物。シリーズを通じて何度も再登場する中で、キャラ立ちした人物が読者の中に住み着いている。果物屋の店番をしながらコラムも書いている池袋一のトラブルシューター真島誠。彼に厄介な依頼を持ちかけたり、協力したりするストリートギャングGボーイズのリーダー安藤崇。そして、誠が頭が上がらないのが、彼の実家の果物屋の店主の母親。このかあちゃん、ちっとやそっとのことでは動じないし、やくざ相手だろうが堂々の大立ち回りを演じる。肝が据わっている。その他、ハッカーやヤクザや刑事、それぞれに一癖も二癖もある多彩な人物がエピソードを彩る。

第二に実在の場所。いつもそこにありながら絶えず変化している池袋周辺の場所。このシリーズは、新宿を舞台にした北条司『シティハンター』がそうであるように、箱根を舞台とした『新世紀エヴァンゲリオン』がそうであるように、リアルな場所を舞台にした一種のファンタジーである。目の前にあり、あれこれの光景が目に浮かぶ、その中でキャラ立ちした人物が動き回り、物語が展開するというのは大きな魅力である。そして、池袋というのは、新宿の歌舞伎町周辺がそうであるように、光と闇が交錯する場所でもある。普通の人は、堂々と歩いたりできないような危険な場所がいくつもある、要するに、近くて遠い場所なのである。

第三に勧善懲悪のストーリーであるということ。善悪のあいまいな世界に身を置きながらも、法律すれすれのところで、あるいは脱法的な行為を行いながらも(バレなきゃOKという結果オーライの世界)最終的には善良な弱者の味方となって戦う。そして、何とか予定調和に近い結果を引き出す。これはもう鉄板のエンターテイメント路線である。社会が弱者の切り捨てに向かい、お上が頼りにならなくなればなるほど、このシリーズの人気もアップするわけだ。

そして第四に語り口である。池袋ウエストゲートパークシリーズは、終始一貫して読者に語りかける形での、主人公の真島誠のモノローグ(独白)という形をとっている。そのナレーションは、どこかしら鴨長明の『方丈記』にも似たところがあり、時代時代の流れを巧みに取り込み、その中に読者を引き入れる。時代はどんどん移り変わるけれど、その変化の記録が物語として残る。このクロニクル的性格ゆえに、かえって素材が古びてゆくことにも価値がある。真島誠の愛聴するクラシックのCDも、エピソードを飾るスパイスとなって、効果を高めている。

この四つが、池袋ウエストゲートパークシリーズが長く愛される理由である。

グローバル化の波が押し寄せ、荒れる池袋に平和を取り戻せ

さて、『憎悪のパレード』に含まれるのは、四つのストーリー。

「北口スモークタワー」は、池袋北口にある脱法ハーブのメッカとなっている建物のこと。ある少女魅音から、真島誠はこのタワーを潰してほしいと無茶な依頼を受ける。彼女の祖母が、中毒者のの車にはねられ、寝たきりとなり、他に身寄りのない彼女は施設に預けられる。思い余って、火をつけようとしたところを崇に保護されたというわけだ。しかし、脱法ハーブは常に新種が開発される法律の追いつかない世界で、警察も頼りにならない。ドラッグや覚せい剤はご法度のGボーイズの後ろ盾があるとは言え、そんな連中をどう潰そうというのか?BGMはグレン・グールドのバッハ。

「ギャンブラーズ・ゴールド」
はわかりやすく言えばゴト師退治の話。あるパチンコ店が、組織的なゴト師の被害に音を上げ、Gボーイズに泣きついてきた。だが、どうやら店のスタッフまでグルになっているようで、容易に尻尾をつかませない。そこで、誠はゴト師など簡単に見分けがつくと豪語する三橋というSEの手を借りる。ところが、この男、妻子を顧みずのギャンブル中毒で、どうやら依頼は一筋縄ではゆかなくなってきた。BGMはヴェルディの『リゴレット』「女心の歌」。

「西池袋ノマドマップ」
は流行りのカフェを拠点としたノマドの世界の話。池袋、目白で、次々にノマドワーカーの拠点、コワーキング・スペースが襲われる。どうやら敵は、ツインデビルと名乗る凶悪な兄弟らしい。その背景をたどってゆくと、『わたしが12時間で三億円稼いだ方法』の著者で、ネズミ講のようなアフィリエイトシステムであぶく銭を集めている堂上常樹という男の存在が浮かび上がってきた。縄張りを荒らされた崇ももはや黙ってはいられない。BGMはボロディンの交響詩『中央アジアの市場にて』。

「憎悪のパレード」はヘイトスピーチとデモの話。池袋周辺でも、ヘイトスピーチのデモとそれに対立した団体が衝突するようになった。チャイナタウンに対する執拗な嫌がらせもエスカレートし、街中を騒然とさせ、血こそつながっていないがクーという中国人の妹がいる誠も穏やかでない。そんなころ、誠が受けた依頼は、なんと「中排会」(中国人を祖国日本から徹底排除する市民の会)のボディガード、そして依頼主は彼らと対立する「へ民会」(ヘイトスピーチと民族差別を許さない市民の会)という市民団体であった。どうやら、分派した武闘派による抗争のエスカレーションを回避しようというものらしい。だが、逆に「へ民会」のメンバーの方が襲われてしまう。男女の愛憎に、中国の複数の系列のグループの思惑が混じって、混迷の中へと誠は引き込まれてゆく。BGMはアンドラーシュ・シフのベートーヴェンとバッハ。

ノマドに、ヘイトスピーチ、脱法ハーブ、グローバリゼーションの波が押し寄せて、新たな問題が次々に浮上する池袋の街に、誠は、崇は平和を取り戻すことができるのか。『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークⅪ』は、このところシリアスに考えすぎてスランプに陥り気味の石田衣良が、久々に放つ会心のエンターテイメントの傑作である。

関連ページ:石田衣良『IWGPコンプリートガイド』




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