つぶやきコミューン

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桜坂洋・小畑健「All You Need Is Kill 2』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



『All You Need Is Kill 1』より続く) 

[注意:以下のまとめは、一般的な映画の予告編同様、最後のエンディングや秘密の細部を除き、ストーリーの全体を見通すものです。]

桜坂洋原作、小畑健漫画の『All You Need Is Kill 』の第1巻はキリヤ・ケイジの視点から描かれていたが、第2巻ではリタ・ヴラタスキの視点で、世界を描くことから始まる。

後にリタとなる少女は、アメリカはイリノイ州のピッツフィールドという人口4千人ほどの小さな町で生まれ育った。学校の成績も将来の希望もごく普通の子供であった彼女の運命を大きく変えたのは、村を”ギタイ”が襲撃し、両親が殺されたことだった。

”ギタイ”への復讐に燃える彼女は、盗んだ難民女性のパスポートを使い年齢を詐称し(つまりリタ・ヴラダスキというのはこのパスポート所有者の名前である)、統合防疫軍へともぐりこみ精鋭部隊に配属されることになる。半年後に、異質なギタイを倒したことにより、初めてのループを経験する。出撃の前日、30時間前に戻っていたのである。ループを重ねるたびに、ギタイの数は増え、強大になっていく。やがて彼女は、ループの秘密がギタイが戦いを有利に運べるようにリセットすることによるものだと知る。そうしてループの仕組みを知り尽くした彼女は、211周の後、ついにループから抜け出すことに成功する。

戦女神(ヴァルキリ)の異名を得た彼女は、ギタイ掃滅のため世界を転戦する中、日本へとやってきたのだった。いったんループを抜けた後は、彼女は一度だけ同じ戦いをループすることにしていた。一度目で被害状況を確認し、二度目で有利な状況で戦えるようにするためだ。

ループを重ね続ける彼女の戦いは孤独だった。そこである思いが浮かぶ。
 
もし…
戦場に行く前の時間帯
まだ誰にもしていない話に
応える者がいたりすれば
明日の戦場を経験している
ということになる

自分ではなくその者
その戦場では
ループしていること
になるはずだ――と

しかしループを抜け出して3年の間、リタは世界中でギタイとの戦いを重ね続けたが、そのような者は現れなかった。そして、日本で彼女の前に現れたのが、キリヤ・ケイジであった。

『All You Need Is Kill』は、第2巻において、それまでのサバイバル・バトルの物語から、ボーイ・ミーツ・ガールという、ラブストーリーの要素を加える。

リタはケイジに、身のこなしにただならぬものを感じ、手の甲の数字(実はループの回数を自ら書いたもの)を見て声をかける。

それに対して、彼の答えは?

ケイジの答えを描いた81p、そしてそれに対するリタの反応を描いた83pは、『新世紀エヴァンゲリオン』の「笑えばいいと思うよ」に匹敵する、小畑健渾身の名シーンである。第1巻において、ギタイとの戦いを重ねる中、『デスノート』の矢神月(やがみらいと)のように、冷酷無比な表情になっていた彼が、本来の純朴な青年の素顔へと戻る。そして、リタ・ヴラタスキもまた…

奇蹟のようなたった二人、それぞれの孤独な運命をわかりあえる相手との出会い。

だが、二人で力を合わせてギタイを倒す中で得た結論は、どちらか一人が死なない限り、ループは抜けられないという残酷なものだった。

道は三つしかなかった。永遠にループし続けるか、リタが死ぬか。ケイジが死ぬか。

戦いの果てに、彼らが出した結論は?

あたかも一つのオンラインゲームの中で、出会った他のプレイヤーと意気投合したと思ったら、ゲームの終了が他のプレイヤーとの別れに直結する。そんなよくある話を、『トリスタンとイゾルデ』のような壮大な愛と死の悲劇的物語へ変容させるーここに桜坂洋の天才がある。

その枠組が、そのまま世界で受け入れられる。確かに、これは私たちの時代の物語なのだ。

PS 東浩紀『ゲーム的リアリズムの誕生〜動物化するポストモダン2〜』(講談社現代新書)では、後半の作品論の冒頭で三十数ページを費やし、桜坂洋の『All You Need Is Kill』の詳細な分析が展開されている。この作品の世界を深めたい、あるいは逆にドラマには感情的にコミットすることなしに、知的な話題としてストーリーを頭に入れておきたいという人にはおススメの一冊である。


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