つぶやきコミューン

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出口治明『ビジネスに効く最強の「読書」』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本
 
(…)人間が社会で生きていくために最も必要とされる自分の頭で考える能力、すなわち思考力を高めるためには、優れた古典を丁寧に読み込んで、著者の思考のプロセスを追体験することが一番の早道だと思っています。(p151)


 
ライフネット生命CEO兼会長である出口治明氏は、無類の読書家としても知られ、書評サイトHONZの客員レビュワーとして、単なる情報レベルの読解ではなく、ビジネスへの洞察や人生の機微に通じた書評には定評がある。『ビジネスに効く最強の「読書」本当の教養が身につく108冊(日経BP社)は、出口氏の愛読書の中から十のテーマに沿って、選りすぐりの推薦書108冊の紹介をまとめたものである。

こうした書評集、本についての本には二つの楽しみがある。一つは読書の方法、スタイルのちがいであり、もう一つは読書の対象のちがいの楽しみである。十代二十代であれば、素晴らしいと思った人の読書のスタイルや愛読書をまるごと真似るというやり方もあるかもしれないが、何千冊かの本を読み、ある程度自分のスタイルや対象が固まってくると今さら大きくそれらが変化することはないだろう。それでも、100冊もリストアップされると、これは当然読むべきであったのに読んでいない本であると気づくものが何十冊か浮かび上がり、そしてそのうちの何冊かは読むことになる。ちょっとした知識や教養の地滑りが生じ、自分の興味や関心の世界が、一段広がる。その刺激が何よりも楽しい。読書のスタイルも同様だ。数十年かけて出来上がった読書のやり方が急に変わることはないとしても、読書家であれば必ず共通した部分と異なる部分がある。共通した部分ではやはりそうなのか、わが意を得たりと思い、異なる部分はそんなやり方もあるのかと、これまた刺激や参考とし、その一部は自分でも試みてみることがあるかもしれない。そして、これはこの本の読者の多くに共通した読み方であるはずだ。

一人の人間の目、ものの見方には、それぞれ独自のバイアス、偏りがある。そこに、信頼できるもう一人の人間の目を持ち込んでみる。すると、同じ読書、本の世界であっても、複眼的な視野の下で、別の世界が立ち上がるのだ。その時、二酸化マンガンを投じられた過酸化水素水のように、マンネリ化し、ルーティン化した読書に新しい息吹が宿り、未開拓の土地があちこちに開けてくる。『ビジネスに効く最強の「読書」』はまさにそのような読書の触媒となる一冊である。

出口氏が厳選した108冊の本は、企業経営のTOPの多くと同様、古典が多い。中でも、自ら歴史オタクを任じるだけあって、歴史書が圧倒的に多い。歴史書も二千年も前に書かれた本物の古典から、最新の学者の研究、わかりやすく小説化した作品など幅が広い。そして次には、世界数十カ国千以上の都市を旅した旅行好きであるので、旅行記・紀行文の類が多い。それゆえ、私を含め多くの読者にとっては、ほとんどから開きのボディに次々に歴史書や紀行文の連打を叩き込まれることになる。

読書のスタイルに関して面白いのは、際限ない本の増殖を自宅とは別の倉庫を構えることで捨てたり売ったりすることなく処理しているHONZ代表の成毛眞氏とは異なり、出口氏は図書館派であるということだ。もちろん初めからそうであったわけではない。蔵書が住空間の許容限度を超えたところで意を決し、この選択を行ったのである。
 
 勝手に飛び込んできた本は、もちろん少しは立ち読みをしますが、大体は購入していました。その結果、狭いわが家(社宅でした)は本であふれ、廊下にも天井まで山積みする羽目に。本が崩れてきて危ない思いをしたことは数度ではききません。
 しばし熟考して、頭を保有から貸借に切り替えました。ちょうどロンドンへの赴任が決まった時期(1992年)でした。思い切って、蔵書はすべて古本屋さんに引き取ってもらいました。
 2回に分けて来てもらい、それぞれ30万円前後頂いた記憶があります。岩波の全集や初版本がたくさんあったので、恐らくそれなりの値段がついたのでしょう。それからは近くの図書館で借り、図書館にない本に限って購入する、というパターンに変わって現在に至っています。

(COLUMN:出口流、本の選び方、pp83-84)

この言葉は、出口氏のような筋金入りの「本の虫」には、お金がないからなれないと思っている人には朗報ではないだろうか。図書館中心の読書でも、十分この国でトップクラスの読書人にはなれるのである。

出口氏の読書スタイルは一日に何冊も読むような多読型ではないし、「速読」を愚かしいものとして否定している。
 
 大嫌いな言葉は「速読」です。本に書いてある内容をすぐに知りたければ、ウィキペディアを引けばいいのです。その方がはるかに早い。第一、人と話をしていて、速読されて喜ぶ人がいるでしょうか。速読は、世界遺産の前で記念写真を撮っては15分で次に向かう弾丸ツアーのようなものです。行ったことがあるという記憶は写真を見れば蘇るでしょうが、そこで何を観たかは少しも頭に残ってはいないでしょう。速読ほど有害無益なものはない、と考えています。(COLUMN:出口流、本の読み方、pp150-151)

さて、肝心な読書の対象の方であるが、108冊のリスト自体が一つの楽しみであると思うので、各章一部を駆け足で紹介しよう。

PART1:リーダーシップを磨くうえで役に立つ本ではカエサルという人物が一つの中心となり、マティアス・ゲルツァーの『ローマ政治家伝』やカエサル自身の『ガリア戦記』、マキャべりの『君主論』が紹介されているが、興味深いのはトールキンの『指輪物語』が含まれていることだ。

PART2:人間力を高めたいと思うあなたに相応しい本では、『韓非子』やトーマス・マンの『ブッデンブローク家の人びと』など。この中では塩野七生の『チェザーレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』を五十年後にも残る一番の傑作として激賞していることが印象的だ。

PART3:仕事上の意思決定に悩んだ時に背中を押してくれる本では、池谷裕二『脳には奇妙なクセがある』やクラウゼヴィッツの『戦争論』など。PART4:自分の頭で未来を予測する時にヒントになる本では2050年を予測する楽観論と悲観論の双方を紹介から始め、ジョージ・オーウェル『一九八四年』やハックスリー『すばらしい新世界』に至るユートピア小説の系譜をたどる。PART5:複雑な現在をひもとくために不可欠な本では永川玲二『アンダルシーア風土記』から始め、古今東西の多様な視点からの歴史書がずらりと並び、PART6:国家と政治を理解するために押さえるべき本では、早野透『田中角栄 戦後日本の悲しき自画像』のような日本社会の特異性を掘り下げた書物と、マックス・ウェーバー、ハンナ・アーレント、カール・シュミットらの古典的名著を併せて紹介する。PART7:グローバリゼーションに対する理解を深めてくれる本では幕末のペリーに焦点を当てた複数の本からグローバリゼーションの問題を読み解き、同じ問題意識はベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体』まで、広範な書物をカバーする。PART8:老いを実感したあなたが勇気づけられる本ではボーヴォワールの『老い』と上野千鶴子『おひとりさまの老後』の対比が中心、そしてPART9:生きることに迷った時に傍らに置く本では、吉野源三郎やアラン、ラッセルなど多くの人が学生時代に読んだであろう人生論が中心だが、新しい息吹としてヤマザキ・マリの『男性論 ECCE HOMO』を加えることを忘れない。そして最後のPART10:新たな人生に旅立つあなたに捧げる本では小田実『何でも見てやろう』や沢木耕太郎『深夜特急』といった懐かしい本とともに玄奘『大唐西域記』やゲーテの『イタリア紀行』といった超古典が紹介される。

同じ一つの問題意識であっても、これほど幅広いダイナミックレンジの中、これほど多種多様な本が並べられることへの素直な驚き。読者の中には、自己啓発書的なタイトルや章題の付け方が気になる人がいるかもしれないが、マーケット・セグメンテーションによる他の本との差別化のためにつけた一種の方便、必要悪である。真の読書家は全く気にとめることなく、めくるめくような書名のパレードと一段奥へと誘う著者の解説の切り口に魅了され続けることになるだろう。その出会いの中には、未知との遭遇だけでなく、青春時代に読もうとして、読むことなく通り過ぎた本との再会も少なからず含まれる。本書は、単に古典中心の教養書の紹介にとどまらず、いわば、タイムカプセル的な本の「大人買い」、「大人読み」への通路を見つけてくれるブックガイドでもあるのだ。

関連ページ:
出口治明『仕事に効く教養としての「世界史」』


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