つぶやきコミューン

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岩合光昭『ネコを撮る』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本

 ずっと丸まって寝ていたのに、ストレッチひとつで動き出せる。それは、ネコが完璧なからだをしているからではないだろうか。それゆえ、その動きそのものがなんともいえず美しい。(…)「ネコがじっとしてくれない」そう感じたら、迷わず動いているネコを撮ることにチャレンジしてほしい。思わぬ収穫があるはずだから。(『ネコを撮る』p116)

 「待て」と言って、止まるネコは少ない。むしろ、余計に動き出すのがネコ。そこがいいのだ。(『ネコを撮る』p121)


           Kindle版

写真は見方によって評価が異なるから、誰が一番という言葉は余り意味がないのであるけれど、こと知名度や人気に関して言えば、岩合光昭氏は日本において最も知名度が高く、人気のある動物写真家であり、猫写真家でもある。岩合氏を特集した番組がテレビで放送されれば、全国の愛猫家は釘付けになるし、岩合氏の写真展が開かれれば大勢の人が押し寄せる。以前紹介した『ネコと歩けば』をはじめとして、多くの岩合氏の本を読んできたが、『ネコを撮る』(朝日新書)は、その中で、最も実用的に役立つ本である。 猫写真や動物写真の撮る秘訣だけでなく、猫との付き合い方、そして写真についての本質的な事柄が、200pほどの新書の中に凝縮されているのである。

けれどもこの本が活字中心の本というわけではない。巻頭には20枚の猫のカラー写真、そして本文中には内容とシンクロした猫やライオンなどの100枚のモノクロ写真が所狭しと収められ、本文を読みきった後でも写真集として何度も楽しむことができる。

岩合氏によるよい猫写真を撮る秘訣を、おおまかにまとめると、コミュニケーションの重要性ということになる。何とのコミュニケーションなのか。四つのものとのコミュニケーションが大事である。

第一は、光と影とのコミュニケーションである。猫がもっとも頻繁に姿を見せるのは朝方だが、それは最も光が瑞々しい輝きを放つ時間でもある。昼間になれば、光も影ものっぺりとしてしまう。

  写真というのは光と影が基本だ。光自体も朝の光の方がいいことはご存知だろう。当然、夕方のほうが空気中に塵などの遮蔽物が多くなるから、シャープネスという意味でも朝は絶好のシャッターチャンスだ。
  真っ昼間というのは、写真でもフラットになりがちでネコも動かない。
p19
猫を撮るなら、「早起きは三文の徳」と岩合氏は繰り返すのである。

第二は、人とのコミュニケーションである。撮る場所周辺に住む人に挨拶するのは、単に不審者として怪しまれず撮影をスムーズにするためだけではない。話を通しておけば、地方ではあっという間にその情報が伝わり、いろいろな人から手ごろな猫スポットの情報が寄せられるのである。

 そこが小島などの小さな集落であればあるほど、伝達は早い。最初に出会ったヒトに挨拶をしてから、数十分のうちに、島中の人々に、僕が誰で「何のためにこの土地を訪れたのか」ということが知れ渡っている。これは、早くて便利といわれているインターネットの比ではないだろう。p35

第三には、もちろん、猫とのコミュニケーションである。猫は、じっとしていないし、気ままな動物である。だから、よい被写体になってもらうためには、自分の都合ではなく、猫の都合や性格を知り尽くさなくてはいけない。そして、十猫十色、猫は性格も様々なので、それぞれの個性を理解しなくてはいけない。

第四には、場所とのコミュニケーションである。地域で、猫にとって心地よい場所は、また背景としても優れた色気のある場所が多い。路地や塀など、猫にとって心地よい場所は、色気のあるよい場所ということになる。そうした場所を見つけるのに一番なのは、まずあたりで一番高い場所に上ってみることである。そうすると猫の好きそうな車の通らない細道がどこにあるかも一目瞭然である。

この中で、最も多くのページが割かれているのは、もちろん猫とのコミュニケーションである。猫とのコミュニケーションは、一期一会である。最初の印象を覆すのは、不可能に近い。だから、猫の嫌うような激しい動きを避けて、好奇心を巧みに利用しながら、焦らずじっくり距離を縮めるべきなのである。猫の性格は、それまで人間とどのように付き合ってきたかによって異なるし、地方や国によっても異なる。最終的には、一つ一つの猫の性格を見極めることに尽きる。

おおざっぱに言えば、オス猫とメス猫では、オス猫の方が格段に撮影がしやすい。許容範囲の距離が格段に広いのである。他方、子猫を撮影するときには、母猫の存在が頼りになる。子猫が逃げても、そこに司令塔である母猫がいれば必ず戻ってくるので、焦って追いかけてはいけない。

猫はプライドが高い動物なので、失敗しても笑ってはいけない。厳しい表情で接すれば、その緊張感が猫にも伝わるのでリラックスして撮影に臨むべきである。遠くから様子を伺っているときには、チャンスがある。焦らず望遠で撮影しながら、距離をじわじわと詰めるべきなのだ。猫はカメラを意識し、撮られている時には乗っていろいろな芸を披露してくれることも多い。だから、人間と同じように挨拶し、誉め、おだてることが重要である。餌を与えることは無意味ではないが、先に与えてしまうと、餌のことしか考えない顔になる。だから、撮影前は匂いをかがせる程度にとどめた方がよいだろう。

こうしてみると、猫の撮影とは、気難しい俳優の撮影や付き合い方と何ら違いがないことがわかる。あの手この手を使って、ご機嫌を撮り、なだめすかしながら、撮影の中に巻き込んでゆく。もちろん、飼い猫の場合なら、飼い主とのよい関係も重要である。

なかなかよい猫の写真が撮れない、猫を見かけて仲良くなろうとしてもすぐに逃げられてしまうという人には、本質的な情報が満載の、必読の一冊と言えるだろう。

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