つぶやきコミューン

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蔵本由紀『同期する世界』
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同じ部屋の二つの振り子時計やメトロノームは、いつしか同じリズムで、振動するようになる。この現象を同期((シンクロ)という。ロウソクの炎、コオロギの鳴き声、ホタルの発光、心拍、コンサートの拍手、同期は、物、生物、人、あらゆるものの中に現れる。
 
 どんなものにでもリズムが現れるように、同期現象も対象を選びません。リズムのあるところに同期がある、とさえ言えます。体内時計が昼夜のサイクルに同期するように、起源がまったく異なるリズムの間にも、同期は成立します。p9

「全体が部分の総和としては理解できない」非線形現象である同期を扱うのに、「全体が部分の総和として理解できる」という線形数学の手法は役に立たない。非線形数学の発達とコンピューターの進化が、近年になって同期の研究を可能にした。蔵本由紀非線形科学 同期する世界』(集英社新書)はそのわかりやすいベストの入門書と言えるだろう。

同じ部屋に置かれた二つのメトロノームは同じ方向にリズムを刻むようになるが、振り子時計は正反対の方向へと揺れ続ける。前者を同相同期といい、後者を逆相同期と言う。同期は、自然界のあらゆる現象で見られるが、一定の条件を必要とする。たとえば二本のロウソクは、30ミリの距離に近づけると同相同期をするが、30ミリから48ミリの間では、逆相同期をし、それ以上離れると同期しなくなる。

一定のリズムを刻む事物を振動子というが、相互作用で結びついている一群の振動子は結合振動子という。結合振動子は、人々の営みの中にも見出される。コンサート会場の拍手はやがてリズムが揃うようになるが、そのうち速い拍手が遅い拍手に変り、次第に揃わなくなる。ロンドンのテムズ川にかかるミレニアム・ブリッジでは、大勢の人が一斉に橋を渡りだしたために、大きくぐらぐらと揺れ出してしまった。

心臓の拍動に合わせてなぜ全身は同じリズムを刻み続けるのか、あれほど多くの肢を持つムカデはなぜ肢がもつれることなく歩くことができるのか。アジアボタルは、山全体巨大な光の塊になって発光させ、次の瞬間には真っ暗になるリズムを繰り返す。こうした一連の現象の一つ一つに著者は、詳細な分析を加え、そのメカニズムを解き明かそうとする。そして、浮かび上がってくるのは、あたかもベートーヴェンが交響曲第六番『田園』で歌い上げたような万物の間の音と光と動きのハーモニーの世界である。

自然界に見られるこの同期のメカニズムを、科学技術や社会のネットワークにも応用しようとする動きもある。全体を統御する二つの方法が存在する。一つは集中管理的・中央集権的な方法であり、もう一つは部分の自律的な動きやそれらの間に自発的に生まれる協調性を活かそうとする自律分散型制御法である。ロボットや信号機のネットワークへと活用することで、より負荷が低く、効率的な制御方法が可能となる。前者による、近代的なやり方が、限界に達し、その非効率性とコストの高さが問題視されつつある現在、それが行政の分野に至るまで応用されるなら、夢のような革新も不可能ではないだろう。

『同期する世界』は、伝統的な科学のもとではバラバラに処理されていた事物を、同期と言うひとつの横断的統合概念で、相互に結び付け、世界の見え方そのものを変え、新しい社会の可能性さえ垣間見せてくれる名著である。
 
 「同期」に限らず、普遍性をもったある概念を導入することで、複雑世界を構成する諸物の位置関係ががらりと変わって、世界の新しい見えかたが立ち現れるということがあります。伝統的な縦割りの学問体系の下でそれぞれの分野を個別に深めていくことももちろん大切ですが、それだけではこの複雑な現象世界の全体は見えにくいでしょう。意表をついた形で異分野を大規模に結び付け、惰性化された世界像を絶えず更新していく科学には、みずみずしさがあります。そうした科学を時代は求めているように思います。p237

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