つぶやきコミューン

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柳広司『ジョーカー・ゲーム』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



おおよそ読んでいない作家には、読んでみてやはりこれは自分には合わないなと思える作家と、これを読まずにいたのは大きな人生の損失であったと思い、たちまちのうちに、その魅力にとりつかれ、他の作品をしらみつぶしに読みたくなる作家がいる。何年も前に買ったままに積み上げられた本の山の中にあった、柳広司『ジョーカー・ゲーム』(角川書店)は、とにかくエンタメとして面白いので、片端から著者の作品を読破したい気にさせる本であった。

『ジョーカー・ゲーム』
が描くのは、第二次世界大戦前の陸軍内に設立されたスパイ養成学校”D機関”の世界である。その価値観は、陸軍の精神主義的・国粋主義的傾向とは全く異なる現実主義的なものであった。スパイであることを見破られないためには、軍の規範や秩序に従わないこともよしとする。暗殺や自殺もタブーである。なぜなら、それは活動の痕跡を世に広く知らしめる結果となるからだ。通常の軍の規範をことごとく無視し、独自の現実主義的なルールで自由に動く人々の世界、しかしそれは同時に死して屍拾う者なしの過酷な世界でもあった。

”D機関”の中心となるのは、”魔王”と称される結城中佐。その存在を快く思わない陸軍の反対勢力を、優れた情報力と明晰な頭脳によって出し抜き、予算の獲得に成功する。5つのエピソードからなる『ジョーカー・ゲーム』は、結城中佐を影の中心的存在として置きながらも、一人の視点的人物によって語り尽くされることはない。エピソードごとに、D機関のメンバーが、別の場所に登場する。その度に、異なる名前や容貌、性格を備えていることは言うまでもない。

「ジョーカー・ゲーム」
親日家として知られるアメリカ人技師ジョン・ゴードンのスパイ容疑で家宅捜査の命令を受けたD機関一期生の佐久間、だがゴードンの余裕に不審なものを感じていた。さらに、どこを探しても証拠は見つからない。果たして、彼は犯人なのか。もしそうだとすれば証拠はどこに隠されているのか。

「幽霊 ゴースト」横浜の英国総領事公邸に、総領事アーネスト・グラハムのスパイ容疑の捜査のために、潜入した蒲生次郎は、連日チェスの相手を務めながら、彼が白か黒の判断を見極めようとしていた。それによれば、グラハムがスパイである可能性は5パーセント以下。だが、それでは駄目なのだ。可能性がゼロでない限り、グラハムの容疑は晴れない。どうすれば…

「ロビンソン」
ロンドンで活動を行うD機関の伊沢和男は、複数の人間に尾行され、ついにはとらえられてしまう。彼を待っていたのは、イギリスの諜報機関のようだった。自白剤や拷問の可能性の前に、伊沢は自分が秘密を漏らすのではないかと戦慄する。ロンドンへ来る前に、結城中佐に渡された『ロビンソン・クルーソー』の意味するものは?

「魔都」上海に派遣されて三ヶ月の本間憲兵軍曹は、及川憲兵大尉より、内通者の調査の依頼を受ける。だが、そんな調査の矢先に、及川邸爆破事件が起きた。事件の真相は?そして、彼の前に現れたD機関の人間の意図するものは?

「XX」ドイツ人海外特派員記者のカール・シュナイダーが、遺書を残し、死んだ。彼には、ドイツとロシアの二重スパイの容疑がかけられていた。一種D機関の卒業試験として、シュナイダーの身辺調査を任せられた飛崎弘行。その矢先の出来事だった。それは本当に自殺なのか?そうでないとしたら、彼を殺したのは一体誰なのか?

旧日本軍内部を舞台に、クールでニヒルなハードボイルド・ミステリーが可能であることの驚き。簡潔な文章の中に織り込まれた時代や場所の臨場感ある描写。緻密に練り上げられたプロットと解決への伏線。発見できなかった最後のミッシングリングが結末で与えられることの爽快感。『ジョーカー・ゲーム』(2008)に始まるD機関シリーズは、『ダブル・ジョーカー』(2009)『パラダイス・ロスト』(2012)と続いてゆくが、いったんその世界に触れると続編を読まずにはいられない不思議な魅力を持った作品群である。


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