つぶやきコミューン

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斉藤孝『コメント力』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本
 


以前はあまり気にならなかった斉藤孝氏の『コメント力』(筑摩書房)だが、毎日のように書評を書くようになってから 急に気になりだし、買ってみた。本を読んで三日から一週間程度おけば、頭の中も自然に整理され本の全体像が見えてくるので、それなりに気の利いたコメントもできるようになるのだが、その日に読んだ本をその日のうちにまとめてしまうとなると、つい要約的なレビューに終始しがちである。

単なる親切なまとめでなく、どこか新鮮な切り口があり、読んだ人に新鮮な印象を与えることができるーそんな書評のあり方を模索していたら、俄然気になってきたのがこの本なのである。

斉藤氏がこの本の中でさかんに用いるのが、四分割された図である。まず右上にAの「意味があって面白い」、右下にBの「意味がなくて面白い」、Cの「意味はあるが面白くない」、Dの「意味もないし、面白くもない」が来る。
 
 「意味もないし面白くもない」最悪のDゾーンにいる人は、いきなり斜めにAゾーンをめざすのは難しいだろうから、ひとまず教養や知性をつけて、意味のあるコメントを言うCゾーンへ移行し、それからAゾーンに行くか、場の雰囲気を読みながら面白いことを言う勉強をしてBゾーンをめざし、そこからAゾーンに進めばいいだろう。p33 

テレビの中で、DゾーンからBゾーンへ、そしてBゾーンからAゾーンへとコメント力を磨きながら進んだ例として、著者は島田伸助の例を挙げている。

さらに、著者はこの発展した例として、右上Aゾーンに「面白くて当たっている」、右下Bゾーンに「天然・関西 はずしているが面白い」、左上Cゾーンに「当たり前すぎ」、左下Dゾーンに「はずしているし、つまらない」の四分割の表をあげる。この場合、Aゾーンが上がりとは限らない。AからBへと落とすことが最終地点とする考え方も、お笑いの世界などには存在する。

となると、やはり大事なのはCの「当たり前すぎてつまらない」ではなく、AかBの世界へ行くことが重要になるのだ。

そのためにはどうすればいいか、というのが本書の主な狙いであるが、日ごろからコメントする練習をすることを著者は挙げている。しかし、これは答えにならない答えである。そこで、いくつかヒントを出している、たとえば『美味しんぼ』のように、「おいしい」を使わずに料理を表現する練習をする。「おいしい」ではなく「おいしゅうございました」と変形してもいいし、石ちゃんのように、「まいう!」と言ってもよい。何か自分のトレードマークとなるような決めゼリフをつくることである。
 
 コメントを生み出していくというのはたいへん技術のいることだ。しかもタイミングよく当意即妙に応じなければならない。決めゼリフがあれば、とりあえずのレスポンスはそれでできるから、何も言わないよりはましである。そのあとに何かコメントをつけ足していけばいい。p42

相手の話であれ、見ている映画であれ、コメントは途中から準備しておかないと、質問されていきなり気の利いたコメントが飛び出すというのは、普通の人には無理である。
 
 だから女性が男性を選ぶ場合には、一緒に映画を観て「どうだった」と聞くといいと思う。「別に」とか「面白かった」「ふつう」としか言えない男性とはつき合わない方がいいのではないだろうか。
 感想を聞くというのは、どこに目をつけ、どういうところに興味をひかれ、ふつうの映画との差異をどこに見つけたのか、その差異の見つけ方をセンスとして問うているわけだ。それなのに「別に」「ふつう」ではあとが続かない。そういう人は何を見てもつまらないし、面白さを発見できない人ということになる。p43

コメントは本来全体をまとめるものであるので、基本になるのは要約力である。しかし、要約力からコメントへと進むのは間違いであると著者は言う。
 
  だが、要約力を勉強してから、「コメント力」を磨くという順番はとらないほうがいいと私は思う。むしろ逆である。いいコメントをすることを前提に要約力を鍛えていくほうが効果的だ。p44

コメント力で求められているのは、オリジナリティや角度である。それは結局、その人のスタンス、立ち位置の問題へと帰着する。
 
  スタンスが違うとコメントは変わってくる。自分はどの立場で言っているのか、誰に対して言っているのか、その立場性を頭に入れながらコメントすれば、より的確なコメントができるようになるに違いない。p45

以上が第一章 コメント力とは何か?のまとめである。

ここからコメントの極意を引き出してみよう。
 
1)コメントとは、当たるにせよ、意識的に外すにせよ、まず面白くなくてはいけない。
2)面白さを出すひとつの方法は、表現の差異であり、決まり台詞はその一例である。
3)面白さを出すもうひとつの方法は、対象の差異を見つけ出す観察力であり、それに表現の差異を加えることができるなら、さらによい。そのためには、質問されて考えたのでは間に合わず、それまでに準備しておかなくてはならない。
4)コメントは全体を要約するものであるが、コメントのオリジナリティ・面白さは要約力に優先されるべきである。
5)コメントの面白さは、視点のオリジナリティ、立ち位置の明確化に基づく。

こうした抽象論だけで、よいコメントができるわけではないので、第二章「コメント力」トレーニング集は多くの著名人の発言や、映画、漫画の台詞の中から、気の利いた台詞を集めて、空所補充問題の形で、コメントのセンスを磨くという形をとっている。これがめっぽう面白い。その面白さは、どこからくるかというと、斉藤氏がふだんから本を読んでも、映画を観ても、テレビを見るときでも、目を光らせ、面白そうなコメントをチェックしては、記録にとどめてきたからである。

映画『カサブランカ』の中の、ハンフリー・ボガードの有名な台詞もそのひとつだ。
 
「ゆうべどこにいたの?」「そんなに[      ]は覚えてないね」
「今夜会ってくれる?」「そんなに[      ]はわからない」

p102

と言った具合である。このような例が2ダースばかりあり、その面白さが何に基づいたものかをそれぞれについて分析しているのが第二章である。

第三章 優れたコメント力では、著名人のコメントの例を挙げながら、比較がコメントの基本であるとしている。全く違うものとの比較。似たものとの比較。その差異からコメントを導き出すことができる。しかし、比較対象との主客が転倒してはいけない。

コメントする上で、著者は、足りないものについては言及しないというルールを自分に課している。まず自分にできたかと問うことで、謙虚な視点が持てる。他と比較すると言っても、点数をつけるような比較ではなく、本質が見えるような比較が大事である。

第三章の優れた部分は、やはり四つに分割された表による説明である。今度は専門的と感覚的の二軸をとり、右上Aに「専門的だが感覚も生きている」、右下Bに「客観的だがつまらない」、左上Cに「わかりやすいが役に立たない」、左下Dに「通りいっぺん」を置き、井上雄彦の浦沢直樹の『二十世紀少年』に対するコメントをAの代表として挙げている。
 
盛り上がるシーンでは体の背中側が反応するような、腹の底に響く地鳴りのような衝動を用意しておきながらも、特定のキャラクターに過度に思い入れることなく常に沈着冷静なふかんの目線で展開していく、その作風
p147

第四章 独創的なコメント力では、「エースをねらえ!」「スヌーピー」「天才バカボン」「ムーミン」「枕草子」の5つの作品から、登場人物のコメントを取り上げる。そこでも今度は具体的ー抽象的、本質的ー瑣末の二つの軸をとり、右上のAに「具体的かつ本質をめざす」と右下のBに「終わってしまうコメント」右上のCに「具体的だが瑣末なこと」、右下Dに「抽象的で瑣末」を置いて、バカボンのパパの発言につきもの「なのだ」と言い切る力にAを代表させている。
 
 バカボンのパパは常に変わったコメントをするので、次に展開せざるをえない。パパが何か言うたびに次の事態に展開してしまうのは、やはり「なのだ力」の威力である。p185
 
 バカボンのパパは「なのだ」と言い切ったことで、断言するリスクを自分で引き受けようと頑張っている。このエネルギーが次につながる起爆剤となるのである。p187

学習には経験的学習と抽象的学習がある。本書の中の経験的学習の部分は読者の楽しみを奪うので最低限にとどめ、抽象的学習の部分のみを取り上げた。

その結果出てくるのは、コメント力とは違いを見つける技術であるということである。どのような違いか。
 
1)スタンス、立ち位置の明確化
2)対象に対する観察力と他の対象との比較


そしてこれにオリジナルな表現の違いを加える

3)決め台詞など独自表現のフォーマット
4)具体的、感覚的に訴える修辞力
5)さらに説得力を加える専門性

2)の他との比較がスムーズにできるためには日ごろの仕込が不可欠である。5)の専門性もすでに持っているものを除くと一朝一夕でできることではない。だが、残りの立ち位置や観察力、決め台詞、表現の具体性、感覚性に関しては、心がけ次第ですぐにも実行可能である。こうしたコメントの違いを作り出す感覚を磨く上で、多くの親しみやすい用例を取り上げた『コメント力』は、仕事やネット上での発言を行う上で、大きな力となりうる実践的な啓蒙書と言うことができるだろう。

PS 本書の引用は単行本版に基づいています。

関連ページ:
斉藤孝『偉人たちのブレイクスルー勉強術』
斉藤孝『15分あれば喫茶店に入りなさい。』


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