つぶやきコミューン

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三部けい『僕だけがいない街 3』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略


            Kindle版

結局一週間の間に、三部けい『僕だけがいない街』は1〜3巻まで読んでしまいました。この作品は、巻ごとに作品の世界がどんどん変ってゆきます。第2巻が『名探偵コナン』的な世界であるとすれば、さしずめ第3巻は伊坂幸太郎『ゴールデン・スランバー』の世界、冤罪にはめられた男が自らの無罪を証明するために、逃走しながら、色々と策を講じるわけです。この世界には、映画の世界では伊坂幸太郎もかなり意識している、偉大な先駆アルフレッド・ヒッチコックという人がいます。『北北西に進路を取れ』は、その代表作と言えるでしょう。
 
[第2巻から第3巻への流れ]

第2巻の終わりで、Xデーと思われた3月1日を無事に乗り越え、3月2日の藤沼悟雛月加代の共通の誕生日を祝いほっとしたのもつかの間、翌日の朝迎えに行くと言って寝過ごした悟が小学校へ登校してみると加代は学校へ来ていなかった。真相は伏せられたが、彼女が失踪したことを悟は知る。そして、第二、第三の誘拐事件も。

加代の母親が処分した手編みの手袋を目にした悟は、パニック状態になり、気がつくと2006年へと戻っていた。そこは、悟が警察に、母親殺しの指名手配で追われる世界である。いつしか、事件は悟だけでなく、周囲の人、同じピザの宅配のアルバイトをする女子高校生、片桐愛梨や、店長をも巻き込んでゆく。彼らが、悟が警察に追われていると知ってとった態度は?そして、事件の真相の鍵を握る一人、かつて悟の母佐知子がテレビ局のアナウンサーであった時彼女が事件の相談をしていたテレビ石狩の社会部の澤田と悟は接触をはかるのだった。次第に浮かび上がる真犯人の正体とは?悟は逃げ切ることができるのか?

第3巻のテーマは、もちろん真犯人の正体探しですが、サブテーマは悟と周囲の人との人間関係です。事件をきっかけに、他人に対して距離感を抱いていた悟が、自分が信頼できる相手を発見するというもの。信じることとはどういうことなのか?それによって、人との関わり方が変ってゆき、第1巻の冒頭で編集者に言われた漫画家の弱点の克服にもつながってゆく、そこに暗い展開の多い第3巻の光の部分があります。

もう一つのモチーフは、[再上映(リバイバル)]によって、歴史は変えられるかという点です。確かに連続誘拐事件は行われたが、2006年に戻ってみると、かつての記憶とは違った部分があることを悟は発見するのです。つまり、戻った先は元の世界ではなく、一種のパラレルワールドということ、ここにこの物語の希望の部分があります。

続く第4巻は5月30日に発売予定ですが、それまでに第2巻から第3巻にかけて張られた伏線をあらかじめおさらいしておきましょう。この漫画のエッセンスは反復と差異、何を繰り返し、何を繰り返さないのか、なのですから。

1)悟がアジトに忘れたと言われるマクレガーの手袋があります。このアジトは、言葉だけで、一度も描かれていません。アジトには雪の日に行かないことになっていたからです。もし、そのその手袋を忘れなければ、加代は悟に手袋を編んで贈ろうとしなかったということになるのです。

2)クラスメートのケンヤに読むように勧められた文集の中に何が書かれているかを悟は忘れてしまっています。加代の作文は読んだものの(そのタイトルは『私だけがいない街』でした)、自分が何を書いたかを忘れてしまっているのです。しかし、科学センターに雛月加代と一緒に行った時、「漫画を描こうなんていう人はこーいう所に来たがるもんなの…?」「な…なんでマンガの事知ってるの?」「バカなの?」というやりとりを行います。

3)事件には直接関係しませんが、体育の時間の浜田との競走で、加代に「勝てるの?」と言われ、「精一杯走るよ」と約束したのに、最後で勝ちを譲ってしまったことを見透かされてしまいます。これは、悟が加代同様、まだ「ニセモノ」を演じているということになります。

悟の行動が小さな歴史のずれを繰り返すことで事件の回避をめざすものである以上、これらは重要な観察ポイントとなることでしょう

4)第3巻の冒頭7pには、加代の母親が男と会話を交わす衝撃のシーンがあります。

第3巻では、真犯人とおぼしき人物の名前や正体まで、読者にはわかるように描かれていて、これと4とを結びつけると事件のあらましは見えてきそうですが、作者によって仕組まれたミスリーディングということもあります。第4巻で、果たして再び[再上映]は生じるのか?そこで、一体いかなる変化が生じるのか?事件は阻止できるのか?今から続きが、待ち遠しい『僕だけがいない街』です。

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