荒川弘×田中芳樹『アルスラーン戦記 1』
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『銀河英雄伝説』の田中芳樹原作、『鋼の錬金術師』の荒川弘漫画の『アルスラーン戦記』は、業界を震撼させる夢のタッグによる歴史ファンタジー。第一巻から、スケールの大きな舞台をところ狭しと個性豊かな登場人物が駆けめぐり、不吉な陰謀が渦を巻く、波瀾万丈の展開です。
[前半のあらすじ]数の上で勝り、地理に通じたパルスの圧倒的優位は揺るがないと思われたが、不審な兆を感じ取ったダリューンは、王に退却の提案を行い、万騎長の職を解かれてしまう。
不敗の王、アンドラゴラス三世が国王として君臨するパルスは、敵対するルシタニアを破り王都エクバターナは凱旋で賑わっていた。11歳の王太子のアルスラーンは、大将軍ヴァフリーズに剣の手ほどきを受けるものの、足元にも及ばない。混乱に乗じ、ルシタニアの捕虜の少年兵がアルスラーンを人質に取り、逃亡を図ろうとする。アルスラーンの身柄は何とか取り戻したものの、捕虜の少年はまんまと逃亡に成功する。アルスラーンが、自分と同じ11歳の少年を、万騎長のダリューンが弓で射抜くことに待ったをかけたからである。
それから、三年後のパルス歴320年、14歳になったアルスラーンは初陣を飾ることになるが、それが大きな運命の分かれ目となることをまだ知る由もなかった。
友邦マルヤム王国を滅ぼしたルシタニア軍は、パルスへと侵攻する。これをアンドラゴラス率いるパルス軍が迎え討ったのが、アトロパテネの原の戦いであった。
背後に渦巻く陰謀のため、想定外の苦戦を強いられるパルス軍。そして、命を狙われるアルスラーンの運命やいかに?
そんな風にして、運命の歯車に翻弄される王子アルスラーンの戦いと成長を描いてゆくのが『アルスラーン戦記』です。巻末の田中芳樹と荒川弘の対談の中で明らかにされているように、冒頭の11歳のアルスラーンの話は実は原作にない荒川弘オリジナルのエピソードです。
荒川:戦争が始まってしまうと、そのまま話が転がっていってしまうので、まずは国の成り立ちとか、アルスラーンとその両親―王様と王妃の関係なんかも描いておきたいと思ったんです。あとは、王都エクバターナやパルスという国の豊かな文化とか。まずはそういう土台をつくっておこうと。
この対談の中で、田中芳樹は『アルスラーン戦記』の発想の原点となった部分をポロリと漏らしているのですが、それは第一巻では次の対話で暗示されているようです。
ヴァフリーズ:ところで ダリューン アルスラーン殿下のお顔だちをどう思う?
ダリューン:は? 何を唐突に
ヴァフリーズ:国王と王妃とどちらに似ておいでだろうか?
ダリューン:しい…て、言えば王妃様の方でしょうか?
ヴァフリーズ:うむ そうか なるほど 国王陛下には似ておられぬか
第1巻のアルスラーンは、『鋼の錬金術師』の主人公エド(エドワード・エルリック)の線を細く、女性的にしたようなビジュアルで描かれています。正直で善良ではあるけれど、主人公としては肉体的にも精神的にもあまりに頼りなく見える王太子アルスラーン、アトロパテネの戦い以降の過酷な運命に翻弄される中、彼はどのように成長してゆくのでしょうか?
今から続刊が待ち遠しい『アルスラーン戦記』です。
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