つぶやきコミューン

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鎌倉幸子『走れ!移動図書館』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本



 
東日本大震災はとりわけ東北地方に大きな被害を与えた。大きな被害の一つは福島第一原発事故に関わるものであるが、もう一つは地震そのものというよりも津波の被害により、多くの人命とともに多くの工場、商店、公共施設が失われたことである。

東北の復興支援を考えると言っても、この津波の被害は余りに大きなものであるので、一体何をすればいいのか、今どこまで復興が進んでいるのか、正確にその全体像を把握することは困難である。「復興」という言葉は、あまりに大きすぎて、細かな現実の一つ一つとは遊離されたところで、抽象的な議論がなされ、最も有効な使い途とは言えないものに予算が組まれ、その多くが浪費されているのが現状である。

問題を正しく把握し、正しい認識、正しい行動に結びつけるには、一つのみならず、複数の現場の声を拾い上げる必要がある。鎌倉幸子氏の『走れ!移動図書館 本でよりそう復興支援(ちくまプリマー新書)は、津波の被災によって、図書館のみならず書店もまた多くの被害を受けた東北の諸地区の復興を、本を通して考える視点を与えてくれる良書である。

2011年7月以来二年以上にわたり、鎌倉氏の所属するNGOシャンティは、移動図書館プロジェクトを立ち上げ、東北の四つの市町を中心に活動してきた。それに先立って、まず各市町の図書館と書店の被害状況を調査した。

各地区の図書館の被害状況についての記述には、心が張り裂けそうになるものがある。

陸前高田市の場合

 「特に……」担当の方が言葉を詰まらせます。一瞬の沈黙の後、続いた言葉は「陸前高田市は図書館員が全員死亡もしくは行方不明。図書館を管轄する市の教育委員会生涯学習課の職員の多くが命を失いました」という厳しい現状を伝えるものでした。p46

  「目的地周辺です」というアナウンスを聞き車を停めました。目の前にあるのは窓ガラスがすべてなくなり、廃墟のような建物でした。その周りに散乱している 泥だらけのおびただしい量の本だけがここが「図書館」だったことを示していました。壁に開いた大きな穴から備品が飛び出ていました。どれだけの力の波がぶつかってきたのでしょうか。
 陸前高田市立図書館は、職員七人全員が死亡もしくは行方不明。館内はすべて水没。図書のほとんどは流出していました。
p55

大船渡市の場合

 五月四日、大船渡市三陸公民館図書館を訪れました。大船渡市に合併される前の三陸町にあった図書館で、公民館の中に併設されていました。建物は骨組みと壁を残し壊滅状態。部屋の中も空っぽで、図書館や併設されていた書店は見る影もありません。図書館員など関係者とも連絡を取りようもなく、まわりの住宅などもなくなってしまったため人っ子一人いませんでした。p52

大槌町の場合

 五月五日、大槌町立図書館を訪れました。図書館は、町の中心地にありました。建物は壊滅状態。本も流出していました。建物の中に入ると、大きな金庫の開いた隙間から本が見えます。その金庫の大きな扉を津波が押し破ったのでしょう。p56

山田町の場合

 山田町立図書館は役場と同じ敷地にある山田町中央コミュニティセンターの一階の一角を図書室として利用していました。町内にある山田病院が新しく建設されることになったため、旧山田病院跡に図書館を建設する予定だったそうです。震災前の蔵書は七万冊。来るべき移転のためにと、山田町船越地区の倉庫に預けていたところ、津波に襲われ、そこに保存してあった三万冊が流出してしまいました。p59

津波の被害を受けたのは、図書館だけではなく、町の書店も同じである。

著者は、タウンページでこれらの地域の書店に電話をかける。その結果、通じたのは陸前高田市2店中0店、大船渡市8店中3店、大槌町3店中0店、山田町2店中0店という結果だった。翌日、その場所を訪れて、状況を確認する。

陸前高田市:

 陸前高田市のブックランドいとうは、ショッピングセンターのリブルの中に入っていました。リブルの建物は跡形もなく、駐車場と看板の棒がその跡地であったことを物語っています。菅勝(かんかつ)書店も、跡地には建物自体がなく本屋だったという形跡もありません。p65

大船渡市:

 大船渡市でも電話で連絡が取れなかった書店は、津波で壊滅状態でした。ブックボーイ大船渡店、ブックボーイイマイヤ店は建物は残っていましたが本などは津波でさらわれたのか、建物の中は空っぽの状態でした。ブックボーイネギシ地ノ森店、エビス東港堂(とうこうどう)、ブックソフトは外壁も残っていません。p66

大槌町:


 大槌町の金崎書店及び新栄書店は、建物が全壊していました。ブックボーイイマスト店は、ショッピングセンターのマストの建物自体は残っているものの、内部の備品などは流出して空の状態でした。p66-67

山田町


 山田町の鈴木書店は、建物もない壊滅状態。大手書店も、建物は全壊しましたが仮設商店街である「なかよし公園商店街」に店舗を構え、再開していました。p67

この2011年6月の書店巡りで、以上の四市町の書店めぐりで営業してたのはたった3店舗であったのである。

ここで、長々と図書館のみならず町中の書店の被害状況を引用したのは、具体的な書店名と被害状況の記述に、大きな衝撃を受けたからである。どこでもありそうな町中の書店、そしてチェーン店の書店のイメージがありありと浮かぶことで、メディアが伝えられなかっ被災状況のリアルと、町の書店の生活インフラとしての重要性がひしひしと実感されたのである。

これらの四つの市町を中心に活動する移動図書館を開設する―それなら全国から本を寄贈してもらえば簡単ではないかと考える人も少なくないだろう。しかし、鎌倉氏の属するシャンティの活動では、復興のため、地元の書店から調達することを基本路線としている。そして、本であれば何でもよいわけではない。無限の蔵書が可能でない以上、精選された良書を集める必要がある。本が寄せたい人があっても、それをそのまま蔵書とせずに、ブックオフ経由で換金し、新刊書調達の資金に変えるシステムをとっている。こうした配慮があるかどうかで、地域の復興の別の面を妨げてしまう思いつきレベルのボランティア活動と、真の復興をめざす地域に根ざしたボランティア活動が区別されるのである。

「現地にあるのであれば現地で調達する」が国際協力のプロジェクトの基本です。シャンティも「救援物資を第二の災害にしてはいけない」という阪神・淡路大震災からの教訓があり、本の寄贈は原則断ってきました。中には「日本全国に『本を集めます』と呼びかけたら、新聞にも載りやすいだろうし、シャンティの認知度が上がる」というご意見もありました。しかし、会の姿勢と正反対のことを行って支援者を増やすことはできません。そのような問い合わせをいただいた時には、「現地の書店を応援したいので募金としてお寄せいただけませんか」と説明しました。またブックオフオンラインと「本を売って被災地の移動図書館を応援しよう」というプログラムを組みました。読まなくなった本をパッキングして申し込むと無料で宅配便が集荷します。査定金額にブックオフが一〇パーセント上乗せしたものが募金となります。これを利用して本の購入に充てています。pp84-85

『走れ!移動図書館』
は、このような民間における復興支援の在り方だけでなく、様々な問題を同時に提起する。わたしたちの生活と本との関係とは何か。被災地で人々が求めている本とはどのようなものか、移動図書館では津波や震災関連の本は避けるべきなのかどうか。移動図書館は利用者をいかに増やすべきか、そしてどのようなサービス、空間を利用者に提供をすべきなのか…

四章の中で著者は、本は「つなぐもの」であるという考え方を提起している。

本は人と人、人と情報をつなぐものである。それゆえに本の力を恐れる人がいる。そして、その本を守ろうとする人がいる。

本の持つ力とは何か?

その根源的な問に対する答えは、一人一人の心の中にあると著者は言う。

『走れ!移動図書館』は、本の持つ根源的な力や本と私たちの関係まで、見えなかったものを見えるようにしてくれる本なのである。


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