つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< July 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略





伊坂幸太郎の最新短篇集『首折り男のための協奏曲』(新潮社)は、作品自体が複雑に入り組んだ迷宮となった不思議な連作集です。

この本は七つの短篇集からなっているのですが、それらは一つの連続的な世界をなし、同じ人物が複数の作品で、登場します。中心となるのは、四組の人物です。

まず、表題となっている首折り男。180〜185センチの大男で、連続殺人事件の犯人とされます。その犯行手口が、被害者の首をぽっきりと折ることからそう呼ばれています。

定年退職した若林絵美若林順一の夫婦。

探偵黒澤、時に空き巣をはたらくこともあります。。

仙台市内に在住する三十代の作家、窪田。自宅でクワガタの飼育を行っています。特徴は完全一致ではないものの、どこかで作者自身のイメージをダブらせる狙いを持った、特異な視点を持った人物です。

これらは、いわばオーケストラのパートのようなもので、それぞれに自分の世界を周辺に広げながら、他の主要な、あるいはそれほど重要でない人物とからみ、それがポリフォニックな音楽のように、複雑な世界を形作っていくという構成となっています。

第一話の「首折り男の周辺」は疑う夫婦、間違われた男、いじめられている少年の三者の周辺で並行してストーリーが展開してゆきます。若林純一と絵美の夫婦は隣の男を首折り男ではないかと疑います。「間違われた男」では大柄な男の小笠原稔が、同じような体格の大藪という男に間違えられ、その男の代役を果たす仕事の以来を受けることに。いじめられている少年では、中学二年生の中島翔が幽霊の存在をめぐり、同じ軟式テニス部の山崎久嗣と口論になり、孤立し、いじめられることに。カツアゲされようとすると、大きな男が現れ、金を渡さないほうがいいと忠告します。果たして、若林夫婦の隣人は首折り男なのか、大藪は首折り男なのか、中島少年の前に現れたのは首折り男なのか?

第二話「濡れ衣の話」では、息子を交通事故で死なせた男が、加害者の女に復習しようとする話。果たして、男は女を殺したのか、殺さなかったのか。首折り男がからんで、ストーリーがかえって錯綜し、わけがわからなくなります。

第三話「僕の舟」の表題になっているのは、「水兵リーベ僕の舟」という元素記号を覚える語呂合わせからきています。若林絵美の依頼を受け、探偵黒澤は五十年前の銀座であった彼女の恋物語の相手をつきとめようとします。

第四話「人間らしく」では、探偵の黒澤は仙台市内の釣り堀で釣りをしながら依頼者の話を聞いています。黒澤は作家窪田のもとを訪れ、クワガタの生態の説明を受けます。それと交互に学習塾でいじめにあう少年の話が語られるのですが、少年の名前はなぜか語られることがありません。クワガタの攻撃性の話がいじめと相互に語られることで、対位法的な効果をあげています。

第五話「月曜日から逃げろ」では探偵黒澤に対して、TV局の久木山が依頼をしてきます。しかし、どんな話題でも隠しカメラでネタ画像にすることを虎視眈々とねらっている久木山相手では、一筋縄ではいかない対応が必要になってくるのでした。

第六話「相談役の話」では、作家窪田が学生時代の知人と再会します。そこで出てきたのが、伊達政宗の忠臣で、息子伊達宗秀の側近となり、宇和島まで同行し非業の死を遂げた山家清兵衛の話です。実は、彼の周辺で、同じような出来事が起こったというのです。それに心霊写真まで絡んできて・・・

第七話「合コンの話」では、27歳の尾花が合コンに参加します。それを主催した男井上と、その女癖の悪さをとっちめようとする女性の思惑が錯綜する中、首折り男が再び暗躍することとなり、欠席した井上は殺されたのではとの話まで膨らむのです。

『首折り男のための協奏曲』は、いわば解決のない探偵小説のようなものです。いろいろと新しい展開はあり、情報は次々に様々な視点から与えられるけれども犯人特定の手がかりは、つかめず、むしろ見えてくるのは周辺の様々な人の悲喜劇ということになる、いわば反=推理小説(アンチミステリー)です。読めば読むほどに、謎は深まり、伊坂ファンは彼独自の世界に魅了されることとなるでしょう。

PS 第六話に出てくる山家清兵衛の話は実話で、作中に出てくるビルはフォーラスという仙台では有名なファッションビル、かつての山家清兵衛の家の敷地に建っているというのも本当です。

関連ページ:
伊坂幸太郎『死神の浮力』


書評 | 00:14 | comments(0) | - | - |
コメント
コメントする









 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.