つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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坂口恭平『坂口恭平のぼうけん 1』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略




『坂口恭平のぼうけん 1』(土曜社)は、建物を建てない建築家、アーティストの坂口恭平の7年にわたる日記の第一巻である(らしい)。この第一巻には2004年の日記がおさめられている。

大学の建築科は出たものの、ろくに就活もせず、まだ海のものとも山のものともわからない存在である当時25歳の暗中模索、試行錯誤の軌跡が生の言葉でおさめられている。

暗中模索と言ったが、『坂口恭平のぼうけん』の文章は驚くほど、明るく、風通しがいい。

躁状態で浮上した時にのみ、日記を書いたのか、軽やかなリズムで進行する心地よいBGMの感覚で読者は読み進めることができる。文章が屈折してなくて、シンプルでストレート。

その中に刻み込まれるのは、無数のアートや書物、音楽、建築、庭、そして人との出会いである。

南方熊楠、中沢新一、ブラック、ピカソ、ケン・ラッセル、フィリップ・ソレルス、ボブ・ディラン、ジャン・ケルアック、トマス・ピンチョン、アンドレイ・タルコフスキー、マイルス・デイビス、キース・ジャレット、今和次郎、佐伯祐三、藤森照信、宮駿…に至るまで、日替わりで、あるいは週替りでユリイカの編集をしているみたいに、めまぐるしく様々な書物を読み、音楽を聞き、映画を見続ける中で自らの活動、作品を生み出すヒントへと変えようとするのである。

とにかく、躁状態の坂口恭平は情報力、出会い力が凄い。人や書物その他の作品と次々に出会い、それによって少しずつ生成変化し、自らの思考へと変えてゆく。何かの出会いによって、触発され、そこから生まれる思考、言葉の数々が生のかたちで書きとめられているのである。ゴダール風に表現するなら

mots en train de se produire(生まれつつある言葉)

あるいは

idées en train de se produire(生まれつつある観念)

その過程こそが、この日記の真骨頂である。

ここには、東京だけでなく、パリやロンドン、フランクフルトやブリュッセルといった街が登場する。しかし、私たちの知っているそれらの街とは趣を異にする。裏の路地をさまよい歩き、得体の知れない階段を上がり、地下に秘密の通路を見出すかのように、すべては坂口恭平が形作るレイヤーの一部となって、それらの都市に裏地をつけ続けるのである。

すべてが組み合わせ、人と物との組み合わせである。その中から作品が生まれ、言葉が、思想が生み出される。

この本は、坂口恭平の他のどの本にも増して、開かれた書物である。どこから読みだしてもいいし、どこで開いてもいい。BGMのように何度繰り返して読んでも新たな発見がある。そのページは間違いなく読者にある出会いをもたらすことだろう。見るものの見方を変化させ、新たな人物やその作品世界との出会いを加速する。

何よりも魅せられるのは、運動し続けるその速度である。いくつもの袋小路に出会いながらも、書物、映画、音楽、建築、そして思考や言葉との一つ一つの出会いは、高速度で無限にうがたれ続ける点となり、それが坂口恭平の今日に至るまでの軌跡を形作っていることを、このぼうけんの中で私たちは目撃するのである。


関連ページ:
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