つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< October 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
水樹奈々『深愛』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

「出会ったキャラクターの数だけ声が出せます」
いつもそう答えている。

(『深愛』p111)




『深愛』
(幻冬舎)は、人気アニメ声優であり、紅白出場経験も持つ歌手でもある水樹奈々の自伝的エッセイである。本名は近藤奈々。90年代に活躍したシンガー、近藤名奈とまぎらわしいため本名は使えなかったとしている。

元々の夢は、声優ではなく、演歌歌手であり、それは歯科技工士である父親の悲願でもあった。そのために両親は、カラオケ講師の資格までとり、自宅にカラオケ教室を開業するという熱の入れよう。自宅で猛レッスンを受けながら、五歳のころから地域のステージに上り、コンテストでも勝ち抜く。中学一年のころには、地元新居浜の観光用の歌のレコーディングも行う。コンクールで勝ち抜き、グランドチャンピオンに。それがきっかけでスカウトされ、事務所に所属し、ボイストレーナー宅に下宿することになった。

堀越学園芸能コースに通いながら、レッスンを積むものの、周囲の友達が仕事で欠席する中、皆勤の日が続く。成績では学年1位になったこともあるが、生活は貧しかった。衣服費はゼロ、昼食も学食で男子生徒の中に混じって食事もできず、パンやおにぎりを食べる毎日だった。

何とか奨学金を得ることができたものの、所属していた芸能事務所が破産する。芸能コースに在籍するためには、事務所に所属していなくてはならないが、それがなくなったのだ。結局、そのままボイストレーナーが開いた新しい事務所に所属することになるが、仕事の取り方やセクハラの問題もあり、徐々に軋轢が生じていった。

もう一つの夢である声優の最初の仕事が決まる。ゲームのキャラクターに抜擢されたのだ。しかし、早々に声優としての壁にぶつかる。習ったことがまるでできない。訛りの問題にも気がついた。他方、その抜群の歌唱力をスタッフから賞賛されたりもした。

デビューはしたものの相変わらずお金はなかった。交通費に加え、頭を悩ませたのが衣服代の問題だった。ファンから使い回しを指摘されるのは辛いことだ。仕方なく事務所の電話番、テープ起こしから、エステサロンの受付のバイトまでやった。

キングレコードの三嶋章夫との出会いがすべてを変えた。契約金にこだわる社長とプロモーションが先という自分との意見の対立、セクハラの問題もあって、結局事務所を離れることになる。上京して五年半後のことだった。

声優としての活躍が軌道に乗り始めたころ、父親が病で倒れた。脳梗塞だった。一年ほどたったある日、危篤の知らせが母から届く。ぎっしり詰まっ仕事のスケジュールをどうしたらいいのか、意を決して帰郷の途に向かった彼女を待っていたものは…

父との別れ〜パパとママのこと〜に至るまで、堰を切ったように、文章がよどみなく流れ続ける。そして、ある場面で読者は涙を流すことになるだろう。それは悲しみと同時に、歓喜の涙でもある。一体、何が起こったのか。

今ほとんどのタレント本は、聞き書きによるゴーストライティングであると言われるが、この本の情報密度の高い情報を考えると、本人が書いたのではないかと七割方思う。当たり障りのないよもやま話なら、他人任せでも大丈夫だが、微妙な対人関係のデリケートな表現に関して細心の注意を払って書かれた痕跡が認められる。他人に丸投げすると、ちょっとしたニュアンスの違いで、炎上したり、訴訟になったりする部分が含まれるからだ。

本書を読むことで、読者は声優水樹奈々の原点と、この世界では抜群のの歌唱力の秘密を知ることになるだろう。

声優を目指す人にとって大事なことは、6の心と声〜わたしの仕事〜中心にまとめられている。

 声優の専門学校や養成所でも「声を作ってはいけない」と指導される。
なぜなら、アニメーションの主役は声優ではなく、あくまでもキャラクターだから。
例えば、喉をしぼってハイトーンで声を作り、自分の声はコレと決めてしまうと、その声にキャラを無理にあてはめることになりかねない。それでは本末転倒だ。フラットな気持ちで作品と向き合い、演技をする中でキャラクターに自然にマッチする声を出していくというのが、私がこれまでの現場で学んできたことでもあり、声優としてもっとも大切にしていることでもある。
p186

 「水樹さんはいったい何種類の声が出せるんですか?」
デビュー以来、取材などでよく聞かれることだが、私はその答えを持ちあわせていない。私にできるのはキャラクターを生かすこと。新しい作品に出会うたび、私の演じるキャラクターに似合う声がどんなものなのか、じっくり向き合い考えていく。そのキャラクターと自分の共通点を探し出して、気持ちを重ねていく。常にそれを心がけている。
 「出会ったキャラクターの数だけ、声を出せます」
いつもそう答えている。
pp110-111

Youtube:水樹奈々『深愛』



書評 | 23:56 | comments(0) | - | - |
コメント
コメントする









 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.