つぶやきコミューン

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荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』(集英社新書)は、『ジョジョの奇妙な冒険』で知られる人気漫画家の荒木飛呂彦のホラー映画論である。その中で、扱われるホラー映画の数は実に100作に上る。

この本は、かなりヤバイ本である。平易な語り口ながら、ビジュアルな喚起力豊かな著者の文章によって、タイトルだけは知っていたが見ないでスルーしていたあの映画、この映画が実に魅力的な作品であることを教えられる。そして、次から次にTSUTAYAへ行って気になる作品をレンタルしては、見ながらその世界に没入したくなる―そんな魔力を持った本なのである。

ホラー映画なんて、自分は興味ないし、関係ないと思っている人でも、『エクソシスト』や『ジョーズ』、『オーメン』、『キャリー』、『エイリアン』、『エレファント・マン』、『シャイニング』、『13日の金曜日』、『ミザリー』、『羊たちの沈黙』、『リング』、『シックス・センス』と言ったタイトルを挙げられるうちに、たちまちのうちに見たことのある作品は、十作、二十作となることだろう。それほど、著者が考えるホラー映画の世界は広い。

そもそも、ホラー映画とは何なのか。

  
 見る人が恐怖するしかないような状況を描く映画、それを目的として救いのない状況を突きつけてくるあらゆる映画が僕はホラー映画だと思いますし、そうした状況にフィクションとして正面から向かい合うことができるのがホラー映画なのだと断言してもいい。p11

ホラー映画は、恐怖を目的としたエンターテイメント映画である。恐怖が手段となるような、感動を呼ぶ名作は、描かれる世界がどんなに恐ろしいものであろうと、ホラー映画ではないのである。

 当たり前と思われるかもしれませんが、人間の在り方を問うための良心作だったり、深い感動へ誘うための感涙作だったりというのは、結果としてそれがどんな怖い映画であっても逆にホラー映画とは言えません。ひたすら「人を怖がらせる」ために作られていることがホラー映画の最低条件で、さらにはエンターテイメントでもあり、恐怖を通して人間の本質まで描かれているような作品であれば、紛れもなく傑作と言えるでしょう。p14

同様の理由で、戦争映画もホラー映画の中には含まれない。

 一方、戦争映画にも恐怖を感じさせる作品が多くありますが、それらの目的は戦争の悲惨さや社会的なテーマを描くことであって、恐怖そのものの追求ではありません。戦争映画にとっての恐怖というのは多くの場合、悲惨さを表現するための手段でしかないわけで、それではホラー映画とは呼べません。戦争映画とホラー映画とは、やはり別物です。p15

このように定義されたホラー映画を著者は10のカテゴリーに分け、それぞれの代表作の特徴や技法をホラー映画の中で位置づけながら、わかりやすく説明してゆくのが本書の構成となっている。
第一章 ゾンビ映画
ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』を嚆矢とするゾンビ映画のもたらした大きな変化は、それまでのモンスターの強い個性に対して、集団では恐ろしいが、一人一人は動きも鈍く、噛まれれば誰もがなってしまう没個性的なゾンビを登場させたことにある。ゾンビ映画では、本来我々が死者である先祖に対して持っている敬意や尊厳を根こそぎし、破壊することでしか生き延びる道がないという選択を迫るという価値観の転換さえ含んでいるのである。ゾンビ化する親族を救おうとする気持ちが仇となってしまうというシチュエーションの中に、それは端的に表現される。

以下簡略なジャンルの説明と代表作の列挙にとどめよう。

第二章 「田舎に行ったら襲われた」系ホラー
誰もが持ちうる見知らぬ土地でのコミュニケーションの断絶の恐怖を具体的な形にした作品。見知らぬ土地とは、逃げ場のない密室でもある。このような作品として『悪魔のいけにえ』、名作とされる『脱出』や『わらの犬』、『サランドラ』、『ホステル』などの作品が挙げられる。

第三章 ビザール殺人鬼映画
ビザール殺人鬼とは、猟奇殺人鬼が登場し、観客を恐怖のどん底に落とすホラー映画のことである。『ハロウィン』、『13日の金曜日』、『エルム街の悪夢』、『スクリーム』など。そこで、襲われやすい人物や、主人公となる強い女性の性格も分析される。

第四章 スティーブン・キング・オブ・ホラー
『キャリー』や『シャイニング』に代表されるスティーブン・キング原作のホラー映画では、単に人間の心の暗部を描くだけでなく、その土地の暗黒の歴史さえも物語の射程としている。『ミザリー』、『ペット・セメタリー』など。

第五章 SFホラー映画
リアルな生態系を持つ生命体を登場させた『エイリアン』は、その卓越したデザインによって、このジャンルに大きな変革をもたらした。『遊星からの物体X』、『プロプ 宇宙からの不明物体』など。

第六章 アニマルホラー
スピルバーグの『ジョーズ』は、サメの姿を見せることのなく恐怖を与える演出が際立っている。『オープン・ウォーター』、『ディープ・ブルー』、『リンク』、『アラクノフォビア』など。

第七章 構築系ホラー
便宜上、面白さ中心でパズルのように、ストーリーを組み立ててゆくホラー映画のことをこう呼ぶ。運命との戦いを描いた『ファイナル・デスティネーション』、無数の立方体の迷宮を舞台とした『キューブ』、『ソウ』など。

第八章 不条理ホラー
不条理ホラーとは「わけがわからない」ホラー。登場人物がひたすら蹂躙され救済が与えられない『ファニーゲーム』、『鳥』の子供版のような『ザ・チャイルド』、『フォーガットン』など。このジャンルはナイト・シャマランの『シックス・センス』にとどめを刺す。

第九章 悪魔・怨霊ホラー
ホラー映画でもこのジャンルは別格。うかつに作るべきではないのがこのジャンルの作品である。『エクソシスト』、『オーメン』、『ナインス・ゲート』、『パラノーマル・アクティビティ』、『リング』など。

第十章 ホラー・オン・ボーダー
ここで扱うのは、ホラー映画ともサイコサスペンスとも言えるような映画が中心。『羊たちの沈黙』、『セブン』、『ノーカントリー』、『エレファント・マン』など。

こうして十章の構成を見るだけでも、ホラー映画の世界の広さを確認すると同時に、様々な作品が脳の中にしっかり整理され、ホラー映画の世界全体を見事に見通せることに驚かずにはいられない。筆者の映画の隅々まで見通した観察の中から、多くの知らなかった作品の魅力や既知の作品の秘密を発見することだろう。

また、荒木飛呂彦ファンは、登場人物や舞台設定、ストーリーの大きな源泉としてのホラー映画を発見するはずである。実際、いくつかの箇所で筆者はそれを明らかにしている。

そして、ホラー映画ファンにとっては、この本は未踏の土地の格好のガイドブックとなることだろう。
 

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