つぶやきコミューン

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長谷川英祐『働かないアリに意義がある』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略   Ver.1.01


                              Kindle版

生物学では、ハチやアリのように、単に群れをなすだけでなく、分業化され、階層化された集団を持つ生物を、真社会性生物と呼んで、他の生物と区別している。このような真社会性生物の知られざる生態に迫った長谷川英祐『働かないアリに意義がある』(メディアファクトリー新書)は、200ページに満たない新書サイズの本であるけれど、その内容は単に昆虫のみならず、人間の社会の本質に関しても多くの示唆を与えてくれる一冊である。

ハチやアリの社会で、全体を見通して状況判断を行うような司令塔は存在しない。にもかかわらず、集団の中で、分業が進み、必要な労働が分担されているのは一体どのような仕組みに基づくものなのか。本書は、このような真社会性生物における組織維持のメカニズムを、気の遠くなるような観察と研究に基づき明らかにするのである。

たとえば、どのようにしてセミの死骸をアリたちは巣へと運ぶのか。情報伝達には、まず接触刺激が考えられるが、それでは二、三匹が限界である。より効率的な方法として、最初に見つけたアリが巣に帰る時にフェロモンという化学物質を地面につけ、他のアリがセミまでたどりつくという動員方法が考えられる。この方法で、アリは必要な仕事が生じた時に、必要なだけの個体数を動員することができるのである。

こうした場合、すべてのアリが同じ行動を行うのでは、同じルートをアリの集団がたどることになるが、一匹のバカなアリがそれ以外のルートをたどることで、近道の発見の可能性が出てくる。不規則な行動を取るアリが存在した方が、アリの社会にとって効率アップにつながる結果となるのである。

働かないアリに意義があるのも、同様の理由によって説明される。それは同一の刺激に対して、異なる反応を行うことによって、集団内の多様性が維持され、何かの変化が起こった場合に、対応できる可能性が高まり、ひいては組織自体の寿命を長くする結果につながるのである。

この行動の多様性は、個体間の「反応閾値」の違いによって説明される。反応閾値とは、わかりやすく言うと、「仕事に対する腰の軽さの個体差」のことである。ちょうど人間にも、きれい好きな人とそうでない人がいて、片付けにとりかかるまでの部屋の散らかり具合が人によって異なるのと同じである。集団は、その内部において反応閾値のバラツキがあることで、必要な時に必要な量の労働力を確保できるのである。この「反応閾値モデル」によってアリやハチなどの真社会性生物の行動は、命令系統なしに全体としてうまくコントロールされているのである。

 このシステムであれば、必要な個体数を仕事量に応じて動員できるだけでなく、同時に生じる複数の仕事にも即座に対応できます。しかも、それぞれの個体は上司から指令を受ける必要はなく、目の前にある、自分の反応閾値より大きな刺激値を出す仕事だけを処理していれば、コロニーが必要とする全部の仕事処理が自動的に進んでいきます。高度な知能をもたない昆虫たちでも、刺激に応じた単純な反応がプログラムされていれば、コロニー全体としてはまるで司令塔がいるかのように複雑で高度な処理が可能になるわけです。p58

働くアリのみ取り出してコロニーを作っても、働くアリと働かないアリに分かれてしまう。有名な2:8のパレートの法則は、アリの社会にそのまま当てはまるのである。

以上は本書の1、2章の内容をダイジェストで紹介したものにすぎないが、アリの社会の観察は、人間社会への洞察にもつながる。人間社会に関しては、様々な倫理的・法律的な障害もあり、ニュートラルな実験や観察は難しいが、昆虫の世界を通して、社会のメカニズムを研究してゆくと、本当の意味での効率的な組織のあり方さえ見えてくることであろう。

他にもミツバチの社会に「過労死」が存在するなど、驚くような内容が本書には存在する。

 少し前までは野菜のハウス栽培で、花を受粉させ結実させて結実させるのにミツバチが使われていました。ところが、そうやってハウスに放たれたミツバチはなぜかすぐに数が減り、コロニーが壊滅してしまうのです。ハウスではいつも狭い範囲にたくさんの花があるため、ミツバチたちは広い野外であちこちに散らばる花から散発的に蜜を集めるときよりも多くの時間働かなければならず、厳しい労働環境に置かれているようです。この過剰労働がワーカーの寿命を縮めるらしく、幼虫の成長によるワーカーの補充が間に合わなくなって、コロニーが壊滅するようです。p71

人が自然界に介入すると、ミツバチの世界にさえ、ブラック企業が出現してしまうのである。

このように、本書は、アリやミツバチなどの真社会性生物の深い研究を通じ、人間社会と個人、労働のあり方、さらにはグローバリゼーション(それは狭い範囲でのコロニー間のルールが覆ることを意味する)の問題に至るまで、光を投げかけてくれる。来るべき社会や労働環境さえ発見するヒントを与えてくれる名著なのである。
 
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