つぶやきコミューン

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佐々木俊尚『家めしこそ、最高のごちそうである。』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本
 
  
 モノは極限にまで減らし、生活をシンプルにしていく中で、でも「私たちはどうやって生活を楽しんでいくのか」というライフスタイルについてだけは、ちゃんと構築していくべきだと思うんですよ。
 不確実な時代だからこそ、生活だけでも構築的に。
 不確実な時代に、不確実な生活を送っていたら、私たちな何も依拠できるものがなくなってしまいます。せめてライフスタイルや、「誰とつながるのか」という人間関係ぐらいは、ちゃんと構築して良く生きていこうというのが、この本のわたしのメッセージなんです。

(『家めしこそ、最高のごちそうである。』p65)



一般にはIT系のライター・ジャーナリストとして知られる佐々木俊尚氏の簡単、なのに美味い!家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)は、佐々木氏のこれまで出した本の中で、最もチャーミングな一冊。家庭料理に関するエッセイにして、レシピの本です。

この本を開いて読んでいるだけで、何だか幸せな気分になります。それは、日々の生活の中で、無数の新しい選択肢が浮かび上がってきて、しかもいつでも実行できると思えるからではないでしょうか。

速水建朗氏の『フード左翼とフード右翼』の中でも要約されたように、今は食の嗜好が二極化する時代です。

一方においては、コンビニ弁当やファーストフードに代表されるフード右翼のトレンドがあり、他方では有機野菜や地産地消のように究極の健康食を目指すフード左翼の流れがあります。

カロリー過多や様々な添加物、強い味つけのフード右翼のトレンドが決して健康的でないのは言うまでもないことですが、食材にこだわり抜いたフード左翼の流れも、お金と手間をかけ過剰に安全性を追求した割には、そのへんのスーパーや小売店で調達した食材の何倍もおいしいというわけではありません。

こと安全性に関して言えば、何かと美化されがちな昭和三十年代の食事は、今よりもはるかに多い人工着色料や添加物でいっぱいだったわけです。同時に、そのころの洋食もまがいものが多く、フランス料理も発展途上でメニューも少なく、大しておいしいわけではなく、貧困なメニューのものをみんなで有難がって食べていたものでした。

それに比べると、今はスーパーでも多種多様な食材が手に入り、世界中のおいしい料理のレシピが知られ、インターネットでも簡単に調べられる時代です。

そこそこと言っても、かつてよりもずっと安全なはずの食材と豊富な料理に関する情報を活用しながら、安くて、手軽につくれて、しかも健康的な食生活を、ふだんの食事の中で確立しようというのが、この『家めしこそ、最高のごちそうである。』の基本コンセプトです。
 
  珍しくて、高い食材を使い、お金がかかり、ブランド志向な「美食」ではなく。
 お金はかからないけど、不健康で太ってしまうスーパーの総菜や半調理品、コンビニ食のような「ファスト食」ではなく。
 さらにいえば、健康的かもしれないけど、意外とお金はかかるし、つくるのに手間がかかって面倒そうな「自然食」でもなく。
 そうじゃない中間のあたりに、もっと健康的でもっと美味しくて、お金もかからず、そしてかんたんで「シンプル食」があるということを提案したいのです。
p75

ややフード左翼よりとは言え、極端な原理主義には走らず、そこそこのところで、ハードルの低い落とし所を見つける、いわばフード中間派、あるいはフードちょいリベラル。それが『家めしこそ、最高のごちそうである。』の基本の立ち位置と言えるでしょう。

佐々木氏が健康的な食生活に目覚めるようになったきっかけは、夜回りの続く新聞記者生活の中で大病を患い、その後も色々な後遺症を抱えるようになったことでした。突発性難聴を皮切りに、腫瘍性大腸炎、心臓周辺の水泡、腸閉塞…。先輩記者が社会部の記者の平均寿命を計算してみたら何と63歳だったとか。そんなこともあって、IT系のフリーランスライターへと転じ、断食道場に通う中で、当たり前の日本食の魅力、素材の味の豊穣さに目覚めたわけです。
 

断食は、実は味覚を極めつけぐらい鋭敏にしてくれる貴重な体験なのです。p55


自宅中心での執筆生活の間に、自分で考えた料理を日々作り、それを写真に撮った奥さんでイラストレーターである松尾たいこ氏がフェイスブックに日々アップしたものが、この本の祖型となりました。

佐々木家の家めしの基本コンセプトは、はじめにメニューではなく、食材ありきです。なぜなら外での仕事の後では、どんな時間に帰宅するかもわからず、出先で手に入った食材と家の冷蔵庫に残ったもので何とかするしかないからです。おおまかな留意点としては、外食では肉中心になる傾向があるので、バランスをとる意味で、家庭では野菜中心を心がけるくらいです。

調理道具もこだわる必要はありません。山岳キャンプの料理のように、ありあわせの食器でも最高においしいものが可能である、そんな登山の経験から調理道具も最小限度にとどめます。
 
 なるべくややこしい機具や道具は使わないというのが、私が料理をするときの基本的な考え方の一つです。ニンニクを潰すためだけの道具やアボガドの果実をくりぬくためだけの道具、柑橘を搾るためだけの道具……専門道具をそろえはじめるときりがありません。モノがどんどん増えていって置き場所にも困ります。
 それがイヤなので私はなるべく包丁とまな板だけでやれることをこなし、道具はなるべく少なくする。家めしも凝ったものはつくらない。でもコンビニや半調理品などの「ファスト食」には頼らない。なるべく何もかも少なくし、シンプルにし、ミニマルな生活を送る、そういう志向で暮らしています。

pp90-91

ありあわせの食材を、調理する上で大事なのが味付けです。同じような甘い味つけが集中すると飽きが来るもの、虹のような七つの味、すなわち甘い、醤油味、塩味、カレー味、酸っぱい、クリーム味、味噌味の中から大体3つくらいを選んで料理するのが、佐々木氏のふだんの献立てです。

さらに調理法もなるべくバラエティに富むように、炒める、蒸す、煮る、焼く、ゆでる、揚げる、あえるの中から選びます。

そんな日ごろの生活の中から生まれたレシピの数々は、誰もが手軽に家庭で作れ、安くて健康的なものばかり。そして、そこには経験の中で蓄積された独自のノウハウが盛り込まれています。

たとえば、スーパーで普通に手に入る焼きそばをどうすればもっとおいしくいただくことができるのか。佐々木氏は、水を足さないことが鍵であると言います。

豚肉や牛肉は安いものでもそれなりに美味しく食べられるけれど、鶏肉は値段をかけないと臭みがある、だからそこそこの牛肉よりも高めの鶏肉を。

炒飯をおいしく作るコツは、「冷やご飯を使うこと」、「徹底的に火を入れること」、「味つけは最後に」の三点を守ることである。

あるいは天ぷらを、素人でもパリっとあげる方法、それは衣に焼酎、揚げ油に・・・

こんな風に『家めしこそ、最高のごちそうである。』は、新しい生活の基軸として、家庭料理の見直しを説く思想書にして、実践の書でもあります。

さらに「第4章 手順も大事。さらにおいしく食べるための実践ポイント」では、
 

第一に、「料理は見た目が九割」と覚えよ。
第二に、食感に驚きのアクセントを。
第三に、タイムラインを意識し、手際よく。
第四に、酒に合う料理こそが、センスの良い料理である。

p164


この四つの重要ポイントについて細かく解説しています。半ばは常識でありながら、詰めの甘かったこれらのポイントを手順の中に意識的にもり込むことで、ふだんルーティンワーク化してしまっている家庭料理を、高級レストランにまさるとも劣らないごちそうに変えるーそんな魔法の書が『家めしこそ、最高のごちそうである。』なのです。

 Kindle版


関連ページ:佐々木俊尚『レイヤー化する世界』

PS 上記のおいしい焼きそばの作り方を含め、『家めしこそ、最高のごちそうである。』の内容の多くが、書評サイトHONZの特設ページでも紹介されています。あわせてご参照ください。


書評 | 22:59 | comments(0) | - | - |
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