つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
増田俊也『七帝柔道記』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中一部敬称略
 名大杯のあの日、私はみなと別れてから本屋へ行き、『北の海』を買った。
 そしてそのかなり分厚い文庫本を、地下鉄の中で読み、電車の中で読み、食事中も入浴中も読み、そのまま午前四時半までかけて読み切ってしまった。
(『七帝柔道記』p20)



『七帝柔道記』の冒頭には、井上靖の自伝的小説『北の海』に関するこんなエピソードがあるのですが、それがそのままこの本を買って読み出した自分の身にも起こるとは思いませんでした。

熱い!余りにも密度の高い青春の時間!

読み始めると止まらなくなり、そのまま寝技にひきこまれたようにひたすら読み続け、時に涙を流しながらも先へとページをめくり続け、そして朝の四時過ぎまでかかって読みきりました。

『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の著者、増田俊也氏の自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)は、2013年読んだ小説の中でベストワンと言える力作です。

七帝柔道とは何か?北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九州大の七つの旧帝大で行われている柔道のことです。この柔道には一般に行われている講道館柔道とは大きな違いがあります。講道館柔道では、寝技への移行は投げ技の後のみですが、七帝柔道ではいきなり立ち技から寝技への移行を認めています。この七帝柔道のルールは、かつての高専柔道の流れを引くものです。

それによって、柔道の試合そのものにも大きな違いが生じます。七帝柔道では、抜きの選手が一人いて、他が全員守りを固めたカメの状態で引き分けに持ち込むと勝てるのです。立ち技を使えなくても、守りきれば勝てる、そのためこの守りに習熟した人間は、たとえ大学で白帯から始めようと、戦力として試合に出ることも可能になるのです。しかし、戦力になるためには、攻めに耐え抜く技術と体力を身につけなくてはなりません。ものを言うのは、練習時間。強くなるには、ただ練習、練習あるのみです。

七帝柔道には、梶原一騎原作の『柔道一直線』に見られるような華麗な必殺技など出てきません。立ち技もあるけれど、たちまちのうちに寝技に移行し、守り引き分けに持ち込もうとする地味な展開が中心です。全国区ではなく、たった七つの大学の対抗戦にすぎないのに、なぜここまで必死になり、自らの青春を賭け、大学生活のほとんどすべてをつぎ込んで練習し続けるのか?それが、『七帝柔道記』のテーマです。
 
[あらすじ]
二年浪人ののちに、北大へと入学した「私」、増田は大学に柔道をやりにきたようなものだった。その柔道は、かつて名大との合同練習でなすすべもなく翻弄された七帝柔道であった。親元から離れたいという気持ちで名大はめざさず、とりあえず北大を観光気分で受験したが、札幌の雪景色や冷気に魅了され、北大のみを受験、三度目の何とか合格にこぎつけたのだった。普通に進級すると札幌にいる二年しか柔道ができない。初めから二年間留年して四年柔道を続けるつもりの確信犯だった。

しかし、竜澤沢田とともに入部した「私」を待っていたのは、来る日も来る日も、締め落とされるまで続く七帝柔道の寝技の洗礼だった。浪人生活による二年間のブランクは大きかった。練習中は容赦ない厳しさだったが、ひとたび練習を離れると先輩たちは優しく、あちこちの食べ物屋へと連れて行っては、たらふく飯を食わせてくれたりもした。

だが、新入生には有名なカンノウセイヨウと呼ばれる新入生歓迎の行事が、待ち構えていた。それはつわものぞろいのOBが大勢来る中、目隠しされて、罵声や暴力の洗礼を受けながら、ブリーフ姿で旧制高校の寮歌を歌うという得体の知れないものであった。部全体にひりひりとした緊張感が漂う。そして、学園祭では、これも伝統に従って、焼きそばの屋台を出し、深夜まで営業する。

しだいに、七帝柔道にも慣れ、引き分けに持ち込むことができるようになった「私」たちはついに七帝柔道の舞台へと足を踏み入れることになる。かつては、連覇を誇った北大柔道部だが、今は見る影もなく、最下位を低迷していた。強い北大柔道部の復活なるか?!

PS  この本を読むと、なぜか札幌の地を訪れ、その寒さを自分でも味わってみたくなります。『七帝柔道記』は熱い浅春群像劇ですが、思わぬもう一つの魅力は、実はグルメの世界。そのシーンが来るとほっとします。北大祭の焼きそばの作り方は、学生なら即座に応用が可能な優れた方法です。そして<鮨の正本>の梅ジャン。これは実在した店の、一個がおにぎりほどもあるジャンボ寿司の松竹梅の一番下のランクのことですが、今はもうないのが残念です。

  Kindle版


関連ページ:原田久仁信・増田俊也『KIMURA』0&1





書評 | 23:25 | comments(0) | - | - |
コメント
コメントする









 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.