つぶやきコミューン

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島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』上、下

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

2045年にシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えるとも言われるAI(人工知能)。その真偽はさておき、しだいに生活の中にも、さまざまな産業の中にも、AI、ロボットが入り込み、私たちの生活を大きく変えつつあることは確かである。

 

AIやロボットによって、いかに人類の文明が変わるのか、そしてAIとりわけ人型ロボットはこれからいかに進化してゆくのか、そんな未来図を描きだしたのが、島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』である。

 

『ロボ・サピエンス前史』が描く社会では、ロボットと人との結婚も認められている。他方、人類をはるかに凌駕する長寿命化を実現したロボットは人が耐えることができないような様々なミッション、長期にわたる宇宙旅行や、事故を起こした原子炉の管理、さらには時間旅行にさえも従事することになる。

 

最大のドラマは、ロボットを作ったり、使用したり、時に結婚しともに生活した人々との間の出会いと別れである。

 

トーンを使わず、描線と黒ベタによって淡々と描き出される近未来社会のイラストレーションには、大げさな台詞や表情、効果音の演出もない。多くのロボットたちの表情は屈託なく明るい。だが、全編に漂う諸行無常の響き。

 

サイモン・チャンという老人は、かつてのパートナーと死別し、その後彼女そっくりに作ったロボットを新たなパートナーとしていたが、いつか手放してしまったそのロボットを、再び探し出そうとする。

 

ロボットの伊藤サチオは、便利屋の仕事を行い、牛のお産に立ち会ったり、漁船に乗り込んだり、モデルやバーテンダーの仕事に従事している。かつて、人間の女性と結婚していたという彼に一体何があったのだろうか。

 

はるか彼方の宇宙へ送り出されたクロエトビーが、そのミッションを果たすことができなかったときに博士から与えられたもう一つのミッションとは?

 

廃炉となった巨大な原子炉の管理を任されたロボット恩田カロ子を、訪れる人は週に一度が、月に一度となり、年に一度となり、ついには訪れなくなる。その間に、人類に、そしてロボットにいったい何が起こったのか。そして、彼女のミッションに終わりは訪れるのか。

 

ミッションとともにアップデートされるロボットの名前は、ときに変わり、別のミッション、別の物語へと送り出される。バグが生じて、そのアイデンティティや性別もあいまいになることがある。そんなロボットに心はあるのだろうか。もしあるとして、彼らの内なる風景とはどのようなものだろうか。

 

それぞれの登場人物たちのエピソードは、中断され、別のエピソードの進行ののち、再び再開される。その間に、からみ合うロボットとロボット、そしてロボットと人との不思議な縁とは?

 

数十万年という壮大なスケールのもと、転生までも含めたロボットの生の不思議な曼荼羅は、そのまま人類を写す鑑となっている。『ロボ・サピエンス前史』によって、読者は人類の歴史や文明を、それまでとは違った目で見ることができるようになるだろう。そして、生活や社会にしだいに入り込むロボットに対して、より温い、愛情を持ったまなざしを向けることができるかもしれない。

 

今後人間やロボットがどのように変化しようと、この大きなスケールでの俯瞰の視点の有効性は変わることがないであろう。『ロボ・サピエンス前史』は、長く世に残したい傑作コミックである。

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