つぶやきコミューン

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中田考『13歳からの世界征服』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

『13歳からの世界征服』(百万年書房)は、イスラーム法学者で、日本におけるイスラーム研究の第一人者中田考の人生相談のQ&Aをまとめたものだ。

 

多くの若者は、さまざまな「ねばならない」という外なる声、内なる声に縛られ、身動きできなくなっている。その多くは、日本という社会の特異性から来たものであり、本当にやらなければならないことはごくわずかである。イスラームの論理という別の視点を持ち込むことで、目の前の壁、既成概念の数々が相対化され、さまざまな縛りの糸が一刀両断され、読者はより大きな精神の自由を得ることができるだろう。

 

 

たとえば、人を殺してはいけないのですか?という質問に対して、中田考は「人を殺していけない理由なんて、どこにもありません」と、一刀両断にする。それは何も、この質問に限ったことではない。

 

 「人を殺してはいけない」も含めて、人間が「〜をやってはいけない」と言う場合、それを言う人の「これをやって欲しい」「これは嫌だ」という個人的な好き嫌い・趣味以外の根拠はありません。p18

 

その背後には、当然イスラーム法学者としての識見がある。『13歳からの世界征服』は、実はムスリムの視点から、ムスリムでない人のために書かれた本である。『みんなちがって、みんなダメ』同様、悪人正機の本なのだ。もしも、読者が一神教を信じるムスリムでもキリスト教徒でもないとしたら、生きているのはニーチェの「神の死」の時代、ドストエフスキーの「大審問官」の時代であり、強い戒律に縛られることなく、すべてに自由が与えられている時代であるはずだ。

 

 もし「やってはいけないこと」を決められないものがあるとすれば、それはイスラームのような、この宇宙を超えた一神教の神だけです。時代や場所によって左右されてしまう人間には「人を殺すのは悪である」ということを論理的に説明できません。それを決められるのは神だけなんです。

 逆に言えば、神を信じていなければ「やってはいけないこと」などありません。「神がいなければすべてが許される」とは、ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』の有名な言葉です。神を信じていない最大のメリットは「何をやってもいい」ということです。せっかくイスラーム教徒ではないのだから、好きなことをすればいい。あなたはすべて自由です。自由なんだけれども、自由に行ったことの結果はすべて自分に還ってくる。そのすべての責任は自分でとりなさい、ということです。pp18-19

 

こんなことを言ってしまうと、どんどん人を殺す人がでてくるのではないか。だが、そうならない理由も中田考は解説する。

 

 それでも、もしも「人を殺すなんてできない」と思うのであれば、「なぜそう思のか?」を考えてみましょう。何をしてもいいはずなのに、どうしても人を殺せない、できないと思うことがあるのはなぜか?それは明確に意識していなくても、あなたが何かを信じているからです。その信じているものが、あなたの従っている神に他なりません。p20

 

他人が自分の好き嫌いで押し付けてくる価値観に惑わされるのではなく、自分は自分に内在する理由によって、物事の是非、行動の是非は判断すべきということである。

 

こうした思考方法をマスターすれば、他のさまざまな悩みについても同じようにクールな判断ができるはずである。

 

友達や親とのコミュニケーションがうまくとれません。どうしたらいいでしょう。

 

 コミュニケーションなんて、無理してとる必要ありません。p84

ー勉強しろと言われますが、なんで勉強しているのか、いくら考えてもわかりません。

 

 わからなくて当然です。人に言われて勉強させられているだけですから。中学生や高校生なら、勉強=受験勉強ですよね。つまり、なんで勉強しているかと言えば、「いい大学へ入るため」。それ以外、何もありません。p116

ーなんのために働くのかわかりません。

 

 お金を得るためです。それ以外に理由はありません。p182

 

もちろん、それだけで終わらずリアルな抜け道をフォローしたりと、そこで終わらないのが中田考であるが、すべては同じようにドドストエフスキーの「神がいなければすべては許される」から導かれる。後の説明は、社会から植え付けられた思い込み、心にがんじがらめにからまった固定観念を外すためである。とことん思い込みから解放されれば、いくらでも解決策が、時には正面からでない抜け道があるのである。

 

『13歳からの世界征服』には、たとえば可愛さのすすめなど、時には冗談を言ってるのか、本気で言ってるのか理解に苦しむような文章もでてくる。もちろん、中田考は、本気で語っている。冗談だと思う人は、生真面目の精神に憑りつかれているのである。生真面目の精神とは、「ねばならない」という社会の固定概念に縛られた貧しい心の産物であり、真剣さとは別の何かである。要するに、頭が固いのだ。

 

ー生きてゆく上で一番大切なものは何でしょう?

 

 繰り返します。可愛さです。勉強も部活も学校でしか使えません。もっと汎用的に、いつでもどこでも役に立つ能力を身につけるべきです。p39

 

そして初心者は猫の真似からはいるのがよいというのである。猫といっしょの写真をアップし、アイコンを猫にし、猫キャラクターのTシャツを着たり、猫耳をつけたりするのもいい。そうしたからといって、刑務所に入れられることもない。

 

 他にも言葉遣いを変えましょう。とりあえず何かにつけて「ニャー」と鳴いてみる。

「宿題忘れたニャー、困ったニャー」pp32-33

 

実例が足りないとわからない人は、西尾維新の『猫物語』の羽川翼を見るとよいだろう。猫に変身すると彼女は語尾に「にゃ」をつけるが、キャラクターの人気はツンデレの戦場ヶ原ひたぎと人気を二分する。ジャーナリストの江川紹子は、Twitter上で実演し、週刊誌でも取り上げられる話題になった。実際に、やってみればわかることだが、猫のアイコンを使い、猫語を使うだけで、猫族の仲間がどんどん増えてゆくのである。そして、この可愛さ最強説は、普遍的な価値がある。誰に対してもは難しいが、場のキーパーソンから見て可愛くあることは、実は最強のサバイバル戦略である。

 

 可愛い人間は戦場においてすら生き残れる確率が高くなります。仲間から「こいつ可愛い」と思われると、最前線に送られたりしませんから。もちろん爆弾が落ちてきたら関係ありませんが。

 可愛いを目指すには、逆に何をすると可愛がられないか考えるといいでしょう。能力はかえって邪魔になる場合が多いです。能力があって威張っている人間より、能力がない人間の方が可愛がられます。

 なので、基本的には周りの人間に「自分の方が優位に立っている」と思わせられるかどうかがポイントです。可愛い人間は、優位に立ったり、能力を誇示したりしません。pp39-40

 

冗談で言っているのか本気なのか、よくわからないの究極は、本書のタイトル『13歳からの世界征服』である。もちろん、中田考は本気で言っている。「世界征服」とは理想の世界をつくること。そのサンプルは、漫画やアニメを見ればいくらでも見つかる。特に、お勧めは『キングダム』と『コードギアス』だ。但し、「正義の味方」を目指すのはよくない。なぜか。

 

 昔も今も、世界征服はアニメや漫画の大きなテーマです。今人気の『秘密結社鷹の爪』や『キングダム』のテーマも、世界征服です。

 けれども、正義のヒーローが出てくる話だと、世界征服をもくろむ悪いやつだという設定のものが多いんです。『科学忍者隊ガッチャマン』のギャラクターとか、『仮面ライダー』のショッカーとか。古過ぎてわかりませんか?でも、実はヒーローの方が権力に縛られているんです。正義の味方は、たいてい、いま利益を得ている側について既得権を守ろうとする。正義の味方はたいてい権力の犬です。本当に現状を改革しようとする正義の味方は、めったにいません。

 ですから、正義の味方を目指すのではなく、世界征服を遠い目標に置く。漠然としたイメージでもかまいません。そして「世界征服」のために自分に何ができるのかと考えてみましょう。pp136-137

 

「世界征服」は、実現可能かどうかわからない大きな目標を持って、自分の周辺を変えてゆくことから始まる。

 

 では、次のステップは何か。それは身の回りにあるものを利用することです。世界征服の仕方は誰も教えてくれませんから、まずは周りを見回して使えそうなものを探す。言い換えれば、身の回りのすべてが世界征服の手段となります。私の場合、その第1ステップは高校の生徒会長に立候補したことです。それが私の世界征服(のちのカリフ制再興)への第一歩のつもりでした。(…)大事なことは、自分の人生を物語にしてしまうことです。それも「お金持ちになる」とか、そういうつまらない物語ではなくて、「世界征服」という壮大な物語の中に自分を位置づけるんです。視野を広く持てば、小さな悩みはどうでもよくなります。pp138-139

 

大事なのは、人の与えた言葉ではなく、自分の内なる言葉で考えること、そして人が与えた地図ではなく、自分で描いた地図の上を行動してゆくことだ。手元に地球儀を置いて、それ全体を手中に収めるというのは古い「世界征服」のイメージである。

 

 だいたいTwitterとかで「天下を取る」と言っている人はたくさんいますけれど、誰も実際に天下なんか取っていないですからね。各自が自分のイメージの中で「天下を取った」と思っているだけだし、それでいいんです。

 なぜなら自分が「世界」だと思っているものだけが「世界」なんですから。p152

 

『13歳からの世界征服』は、出来合いの言葉、社会地図から、私たちを解放し、別の言葉で考え、別の地図の上で主人公となって行動することへと勇気づけてくれる本である。世の中がダメだと言う場所の多くは奈落の底ではなく、そこにもしっかりとした地面があり、ちゃんと生きているひとが大勢いることを教えてくれる人生ハックの本なのである。

 

関連ページ:

中田考『イスラーム入門 文明の共存を考えるための99の扉』
中田考、島田裕巳『世界はこのままイスラーム化するのか』
中田考、内田樹『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』

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