つぶやきコミューン

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鍋倉夫『リボーンの棋士』1〜4

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

鍋倉夫『リボーンの棋士』(1〜4、以下続刊)は、かつて棋士の登竜門である奨励会で三段まで昇級しながらも、年齢制限によって、プロ棋士への道を断たれた安住浩一を主人公とした将棋コミックである。26歳の誕生日までに、四段になれなければ、奨励会は自動的に退会となり、プロ棋士への道は閉ざされてしまうのである。

 

30歳になった安住は、今は将棋のことを完全に忘れ去り、カラオケ店のアルバイトとして働きながら、日々を明るく前向きに過ごしているかのように見えた。しかし、何をやっても燃えるものがなく、安住の心に疑問が浮かぶ。

 

俺は立ち直ったはずだ。仕事にもついた。

笑えるようにもなったし、あのプレッシャーに押し潰されそうな生活は、今はない。

今の生活に何も不満はないはずだ。

なのにーーーなぜ未来が見えない?

 

家に帰ると、B級並の難易度の将棋ソフト「棋匠」で勝利するまで対局を続けないではいられない安住だった。アルバイト仲間の女性に誘われて、将棋まつりに参加したことより、安住の運命が変わり始める。かつて安住が三段リーグで対局し敗れた中学生明星(あけぼし)は今はタイトルにも挑戦する六段のスター棋士となっていたが、彼との指導対局で再戦したことで、将棋への情熱に再び火がつき始める。

 

狭き門ながらも、アマチュアの大会で優勝し、プロとの対局でも勝利を重ねれば、プロへの道は再び開かれる。その一縷の可能性に賭けようと思ったのである。

 

とはいえ、将棋は一人で強くなるには限界がある。街中の将棋教室に顔を出し、さらにかつての顔なじみのプロ棋士の研究会にも参加する中で安住は力を磨いてゆく。

 

プロ棋士として再生を賭けるのは安住だけではなかった。奨励会で同期であった土屋や、アマのチャンピョンである片桐もその一人だった。さらに、コンピュータとの対局で実力を磨き、想定外の手を繰り出してくる天才中学生など、次々に立ちはだかる強敵相手に、どこまで安住は勝ち抜くことができるだろうか。

 

鍋倉夫は、安住を、さわやかなイケメンとして描いている。奨励会時代の安住は、茶髪で、人付き合いも悪く、肝心の勝負所で委縮して力を発揮できない暗い人間だったが、今は明るく前向きで笑顔を絶やさない。そして何よりも、将棋を指すことの楽しさを見出したがゆえに、自由で大胆な手を打つことが可能だ。成長した安住の強さに、同期の出世頭で今は竜皇となった加治も、目をみはるようになるのである。

 

将棋は、一つの勝負事にすぎないが、その勝負には、人生にたとえられる浮き沈みの世界がある。さらに、いったん競争より落伍した者の、再起、再生の道は、多くの人の共感を呼ばずにはおかない。誰もが齢をとり、人生の戦いにおいて、勝利者でい続けることなどできないからである。

 

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