つぶやきコミューン

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東野圭吾『沈黙のパレード』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

『沈黙のパレード』は、科学者湯川学が探偵役をつとめるガリレオシリーズ6年ぶりの新作である。ガリレオシリーズは、これまで『探偵ガリレオ』(1998)『予知夢』(2000)『容疑者Xの献身』(2005)『ガリレオの苦悩』(2008)『聖女の救済』(2008)『真夏の方程式』(2011)『虚構の道化師 ガリレオ7』(2012)『禁断の魔術 ガリレオ8』(2012)と単行本が出版されており、この『沈黙のパレード』が第9冊目にあたる。

 

町のアイドルで歌手志望の並木佐織が失踪し、数年後その遺体がゴミ屋敷で発見される。容疑者は、二十年ほど前少女殺しの容疑者で逮捕されながら、証拠不十分で起訴できなかった男、蓮沼寛一。今回もいったん逮捕されたものの、なぜか検察は起訴を見送ることに。犯人の尻尾をつかめず困り果てた警視庁捜査一課の草薙俊平は、旧友のガリレオこと物理学者の湯川学に助けを求める。容疑者の蓮沼が菊野の町の人びとの前に姿を現したのも、ちょうどそのころだった。


湯川は、被害者並木佐織の実家である定食屋『なみきや』に足繁く通い始める。

蓮沼に対して、強い怒りを覚えていたのは、佐織の両親、並木祐太郎真智子の夫婦だけではなかった。

佐織の恋人だった高垣智也

祐太郎の友人で食品加工業を営む戸島修作

沙織の才能に惚れ込み、彼女をプロの歌手として育てようとした新倉直紀とその妻留美。 

みな善良な普通の人のように見えた。

 

湯川が店の常連として町の人びとになじむころ、菊野の祭りの仮装パレードが行われる。佐織の妹並木夏美に案内されて、湯川がパレードを見物している最中に、さらなる事件が起こる。それは…

 

通常事件が起こり、その後に草薙より依頼を受け、調査を開始するこれまでのガリレオシリーズのパターンとは異なり、湯川が立ち会うその周辺、顔見知りとなった人々の間で、事件が起きるという異色の展開。つまり、読者もあらかじめ同じだけの情報が与えられているわけだ。

 

読者は、容易にその事件のあらましやトリックを推測できてしまうのだが、実はそこには大きな落とし穴がある。

 

オセロゲームのように、白は黒となり、黒は白となり、最後にガリレオ湯川がたどりついた結論とは?

 

アメリカ帰りで、今や教授となった湯川学は、単なる変わり者の科学者から、人情の機微さえ解する円熟味を備えた探偵として成長している。最後の颯爽たるシーンに、衒いを捨て、湯川を探偵らしい探偵として描くことを選んだ作者の決意が感じられる。

 

『沈黙のパレード』は、探偵ガリレオの新たな魅力をアピールしながら、謎解きに隙なく、最後まで読者を飽きさせない安定の傑作である。

 

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