つぶやきコミューン

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三田紀房『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術 三田紀房流マンガ論』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称陸

 

 

『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術 三田紀房流マンガ論』(コルク)は、『ドラゴン桜』や『インベスターZ』『アルキメデスの大戦』などの作品で知られるマンガ家三田紀房のマンガ論である。現在のところKindle版のみで紙の本は出版されていない。

 

もともとストーリー漫画の中にビジネス書の内容を取り入れた作風ゆえに、これまでも三田紀房は、コミック以外にビジネス書をいくつか出版してきた。それらは、『ドラゴン桜』の主人公である桜木健二が書いたという体裁をとり、あくまでリサーチに基づいた一般論としてビジネスや受験の成功法を説くものであった。

 

この『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』は、三田紀房自身の25年にわたる漫画家人生の体験に基づいているため、主張自体は大きな差がないものの、これらのビジネス書とは一線を画するものだ。

 

まったくズブの素人でありながら、なぜ金のために漫画家になろうとしたのか。

いかにして、徹夜が常識であるマンガ業界で、その日のうちに作業が終わる方法に転じたのか。

マンガに必要なネタはどのようにして拾うのか。

競争の激しいマンガ界において、いかにして飽きられることなく、生き延びてきたのか。

 

そういったマンガ家としての成功のためのエッセンスが、この一冊にコンパクトにまとめられている。

 

三田紀房の成功法は、意識高い系の逆張りとは正反対のオーソドックスなものであったが、漫画家の場合も、天才肌の人間の超人的な努力やひらめき、独創性への試行錯誤には背を向け、誰でもが実行可能なベタな方法の徹底こそが、成功への近道という点で一貫している。

 

何よりも大事なことは、作品を作ること、作り続けることであり、それを妨げ、描かないことの口実になるようなこだわりの一切は不毛である。そうしたこだわりを捨て、ベタな作品を作ることで、マンガを描かない、作品を作らないという最大の障害がなくなるのである。

 

 読者のニーズとは関係ない「単なる自己満足」のために複雑な手法に手を出して、時間をかけるのはムダなことだ。自信を持てないことには、最初から手を出さない。迷う要因になりそうなことを排除する。

 

そしてマンガのように集団で作品を作る上で大事なのは、仕組みをつくることである。日本的な根性論では、環境を十二分に整えることで働くモチベーションをあげるアメリカ方式には勝てないのである。

 

「個人の頑張り」に成果をゆだねている限り、パフォーマンスは上がらない。組織のパフォーマンスを上げたいなら、やはり社員の行動を変える「仕組み化」が欠かせないのである。

 

分業を進め、もしも可能なら、作業は外注してしまっても構わない。

 

また他人のやり方の模倣さえも、どんどん取り入れてゆけばよいし、そのことを恥じる必要もない。自ら手法をパクった例として、天王寺大と郷力也の『ミナミの帝王』を挙げている。

 

 私は『ミナミの帝王』を読み込んで研究し、3つの手法を取り入れることにした。1つ目は登場人物の「デカイ顔」。そしてその横に書かれた「決めゼリフ」。『ドラゴン桜』でいえば「東大は簡単だ!」のような印象的な台詞を毎回1つ入れるように心掛けた。3つ目は、ベタな絵を使った「比喩」で状況を説明する手法だ。

 

ベタな表現はダサく見える。しかし、読者に与えるインパクトを大きくする方が、洗練された表現にこだわるよりも重要なのだ。

 

漫画家になる上で、重要なのは打席に立ちづづけること、自ら表現のハードルを上げることなく描き続けることである。この点において、三田の主張は、作中にもしばしば実名で登場する堀江貴文の『バカは最強の法則』と共通するものがある。

 

その次に大事なのは、最初の企画である。誰もが思いつくものではなく、もっと狭く針の穴のように絞りこむこと、世間の逆張りをすること、異質の二つのものを組み合わせること、といった手法が語られる。それさえあれば、自然にキャラクターが動いてゆく。

 

この本の中身は、十章に分かれているが、各章が短いので、全体を一時間とかからず読み終えることができるだろう。

 

『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術 三田紀房流マンガ論』は、漫画にかぎらず、音楽、小説、絵画など、クリエイティブな世界での成功を目指す人にとっての必読書とも言える。この本を読んだのちには、やるべきなのは、終わりのない頭の中のリハーサルや練習ではなく、作品をつくり発表することしか残らないはずだ。

 

PS1 『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』が量的に物足りない人には電子化された旧著の中でも『成功の五角形で勝利をつかめ!』が一番オリジナリティがあり、内容が充実している。ここには、なぜ学校の教科書が役に立つのか、五教科すべてが大事なのか、文系と理系の区別が意味がないのか、部活動は何の役に立つのかなど、十代の学生や、その保護者が必ず突き当たる問題へのクリアな解答が与えられているからである。

 

PS2  このレビューを書いて間もないうちに、三田紀房のアシスタントであったカクイシシュンスケより本書内容に関して実態とは異なるとのクレーム的な記事が発表された。労使なら当然言い分は異なるので、参考までにリンクを添えておく。

 

三田紀房先生に残業代を請求したことについて

 

さらに、漫画家の佐藤秀峰からは、この問題に関する第三者的な見解も発表された。現在自分のところでは、完全にホワイトになるよう労働環境の改善に努めているが、この業界全体ではそのような脱ブラック化は望むべくもないという悲観的展望も述べている。

 

「三田紀房先生に残業代を請求したことについて」というブログを読んで感じたこと

 

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