つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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つくしあきひと『メイドインアビス』1〜5

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

つくしあきひと『メイドインアビス』(現在5巻まで刊行、以下続刊)は、ファンタジー漫画。一見子供向けの夢と冒険の物語のように見えるが、その実は精緻な設定と傑出した画力に支えられた大家の作品だ。

 

物語は、巨大な竪穴であるアビスの淵にあるオースの街に住む少女チコが、偶然発見した少年の姿のロボットレグとともに、アビスという竪穴へと冒険にでかけることから始まる。その街では、アビスへの冒険が勇者の証明のように讃えられ、幼い少年少女までもが冒険に出かけていたが、無事に戻ってこられる人間はほとんどいなかった。というのも、アビスの階層を一段戻るたびに、人体に負荷がかかり、人間の形をとどめることが次第に困難になるからだ。しかし、チコの母親は伝説の探窟家であり、そしてチコ自身もアビスに生まれたと伝えられていた。そして、ある日監督の目を盗んで、アビスへの旅に出かけるのであった。

 

アビスは、地上では見たこともない巨大な生物が飛び交い、うごめく世界。そして、地下に眠る財宝を発見しようとする大人たちの欲望による危険に絶えずさらされる世界であった。

 

何とか語り合うことのできる同年代の友人を見つけたと思っても、大人たちはチコたちに対して非情の選択を迫る。あるいは行く手に立ちはだかり、その身体の一部を、あるいは命を奪おうとするのであった。

 

はたして、チコは母の残した言葉をたどって再会する日は来るのだろうか。そして、失われたレグの記憶を取り戻し、秘められた謎を解くことができるだろうか。

 

キャラクターは、にしのあきひろの『えんとつ町のプペル』同様、小学生や幼稚園児にも喜ばれそうなかわいい系(いわゆる萌え絵というよりマリオネット系)だが、舞台となるアビスの世界は、おおざっぱな描線ではなく絵画レベルで、はじめから最下層まで細かく作りこまれている。そこでは地上とは異なる独自の世界が支配し、人も長くとどまることで、異形の姿に変わることさえある。それぞれの階層に棲む動物や植物たちも細かいネーミングや生態が設定され、ときに『ダンジョン飯』よろしく、レシピとともに食事として提供されることもある。

 

ファンタジーを安易なものにしてしまう生き返りの設定に関して作者は抑制的であることで、物語にリアリティを与えようとしてる。いったん姿が変わってしまった人は元に戻すことができないし、主人公のチコも途中で左腕に大怪我を負い切断の危機に見舞われ、それを乗り越えるためには骨を刻むような手術が必要なのである。この身体性へのこだわりのおかげで、登場人物たちは単なる記号的なアバターに変わることがない。チコも、レグも、外見は小学校の低学年的な設定だが、レグのチンチンは、チコの裸を見るとかたくなったりするし、また何度も分解というよりも解剖の危機に見舞われる。レグはロボットというわりに、肉だけでなく、体液まで人に似せて作られているために、チコたちとの日常的な交流にも、敵との戦いにも常に、ほのかなエロスと生々しさが宿る。

 

一人の人間の力によって、人物だけでなく、RPGができるほどの細かい設定を、何十というキャラクターや生物に関して作り上げた上で、幼い子供のキャラクターを、生の身体性を失うことなく、自然淘汰の法則と大人の悪意の渦巻く残酷な世界へと投げ込みながら、人間性を失わないストーリーを維持し続ける。つくしあきひとは、まるで宮崎駿並のスケールの大きな逸材であると思う。

 

今のところまとまった漫画作品は『メイドインアビス』一作にすぎないが、つくしあきひとの第二、第三の作品が生み出されるとき、漫画界だけでなく、アニメ界にも大きな地殻変動が生まれることだろう。つくしあきひとは十年、いや二十年に一人の天才だと思う。

 

 

 

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