JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
Kindle版
新川直司『さよなら私のクラマー』は、埼玉県の高校を舞台とした女子サッカー漫画。中学時代の恩田希(のぞみ)を主人公にした新川の前作『さよならフットボール』の後日談にあたる。
中学時代女子サッカーでライバル関係にあった周防(すおう)すみれと曽志崎緑。突出した才能が周囲の力不足で埋もれるのを見た緑はいつかすみれと同じチームでプレイしたいと思っていた。二人で見に行った蕨青南と浦和邦成の試合で、孤軍奮闘している蕨青南の田勢を見て、緑に「あの人あんたに似てるわ」と言われたすみれはその言葉がきっかけで蕨青南に、そして緑も浦和邦成への誘いを振りきり蕨青南に進学したのだった。
すみれがいる以外外れくじかと思われた蕨青南には、一年生ながらシザースなど高度なテクニックを実戦で使いこなす恩田希がいた。中学時代、男子に交じって練習していたため、女子サッカーの世界では恩田は無名だったのだ。
さらにコーチとして、蕨青南の卒業生で、日本女子サッカー界のレジェンドとされる能見奈緒子が加わることで、弱小チームにすぎなかった蕨青南は大きく変貌をとげてゆくのだった。
その能見が最初の練習相手に選んだのはなんと高校女子サッカー日本一の久乃木学園だった。はたして、緑、すみれ、希のプレイは彼らに通じるのか?
弱小チームが二三人のスタープレイヤーが加わることによりケミストリーが生じ、次第に強豪校へと変わってゆくというスポ根ものの鉄板の設定に加え、それまでのチームメイトが敵味方に分かれたり、逆にライバルがチームメイトとしてプレイするという女同士の仁義なき戦いは、読者の心を思わずかきたてずにはおかない。
第1巻が新チームの結成と久乃木学園との練習試合までを描き、第二巻ではユニフォームの自腹で新調するため、フットサルの試合に賞金稼ぎに出たり、男子との合同練習を実現をはかろうとする。人数不足を補うために、久乃木学園のエースプレーヤー佃真央や井藤春名と合流し、ゴールデンチームを結成するという萌え萌え展開のおまけつきだ。そして第三巻では、埼玉県での予選での蕨青南の奮戦ぶりを描く。はたして蕨青南は、昨年の優勝チーム、浦和邦成との対戦にまでこぎつけることができるのか。浦和邦成には、緑の先輩で中学時代のチームメイト、チカこと桐島千花がいるのだった。
前作の『さよならフットボール』と比べると、女子選手の数が少なく目立つ『さよならフットボール』の方が、女子選手を、ユニフォーム姿、制服姿とも格好良く理想化して描いてあり、江口寿史を思わせる見事なカットも多かった。多くの女子が登場する『さよならクラマー』は、女子選手を格好よく描くより、より生活に密着してそれぞれの個性を描き分けようとしている。羽海野チカ風に、シリアスなタッチとギャグタッチを交互に使い分けるのは新川の最近の作風だが、ギャグタッチの絵の混入率も、若干アップしている感じで、中学時代の恩田希の方が凛としてスタイリッシュだった点はちょっと残念な部分だ。
2巻ものの『さよならフットボール』は、フィジカル面で成長著しい男子の中に一人女子が混じってプレイするというハンディ克服ドラマゆえの密度の高さがあったが、『さよなら私のクラマー』はトーナメントを勝ち上がる長丁場の長編もののせいか、比較的ゆったりとした展開で、ボルテージが上がるのはこれからだ。どこまで、これからテンションが高まるのか、対浦和邦成戦の火蓋が切って落とされる第4巻が楽しみだ。
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