つぶやきコミューン

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茂木健一郎『飛鳥日記』


飛行機ではわずかな時間で済んでしまう距離を、

船でゆっくりと行くからこそ、

見えてくる景色がある。


(茂木健一郎『飛鳥日記』p94)



脳科学者、茂木健一郎さんの『飛鳥日記』(2/1〜2/5)は、旅を終えてわずか数日のうちに公開された長文の旅行記だ。

30枚のカラー写真まで挿入され、文字と画像の両方から、密度の高いタイムカプセルのような時間を読者に届ける労作、いたるところに人生と宇宙についての深い洞察が散りばめられた名紀行である。

飛鳥日記(ベータ):

PDF版: http://www.qualia-manifesto.com/asukadiarymogi.pdf

Facebook版(画像なし): http://www.facebook.com/ken.mogi.1/posts/291337747659556


世界の海をまたにかける豪華客船、飛鳥。正確には二代目なので飛鳥

船の旅は、かつては海外旅行では当たり前であったが、今は時間とお金の余裕のある人にとっての贅沢になってしまった。

飛鳥の船上で二回の講演を行うため乗り込む茂木さん。

旅は、その準備から始まる。

この旅は、何よりもまずドレスコードとの戦いであった。フォーマルなシーンでは、タキシードを着なくてはいけない。ふだんトレーナーやTシャツにジャケットというラフなスタイルで通す茂木さんだが、ここは傾向と対策ばっちりで臨んだはずだったが…

外洋を航海する客船上では、地上で得られる電波サービスが届かない。

  「あっ、圏外になっている!」その表示を見て、私はようやく心が満ち足りたような気がした。p21

リアルタイムで世界の情報が得られるインターネットと切断された時間。

その時、初めて隠れていた別の時間が動き出す。

そして著者は、その変化のいちいちに、少年のような好奇心いっぱいの眼差し―レイチェル・カーソンはそれをセンス・オブ・ワンダーと呼んだ―で感じ取り、できうる限り記録に残そうとするのである。

豪華な客船の内部は、そして船の外で出会う風景、そして船の上で出会う様々な人との出会い、語らいがある。

アホウドリの群生する鳥島、まるでルネ・マルグリットの絵から抜け出したような「ソウブイワ」。

クジラが見たい!と心の叫びをあげる茂木さんの前に、鯨は姿を現すだろうか?

そして北硫黄島、そして日米の熾烈な戦の場であった硫黄島と旅は進む。

その中で、しだいに本質を明らかにする非日常的な時間。旅のクオリアだ。

どこかが特にというわけでなく、些細な変化の積み重ねの描写が、緩慢な時間のうねりとなって、私たち読者の中にも浸透してゆくのである。

その中でも、特権的な時間となっているのが飛鳥のプロムナードデッキの散歩の時間である。

陸の上でも、船の上でも茂木さんは歩く人である。

様々な時間の色の中、さまざまな人の人生とすれ違いながら、一周440メートルのデッキを、茂木さんは歩き続けるのである。

 この、プロムナードデッキは、今や、私にとって、海や空といった大世界に向き合うための、「安全基地」なのだ。p67

そして、サイパンが近づく。

でも、船から全く下りないで過ごす船客も多いという。

  考えてみれば、人生とは、自分の身体という船を一度も下船しない船旅のようなものである。目的地があるかどうかもわからないが、プロセス自体を楽しまなかったら、人生の甲斐はないと思う。p80


下船して見たサイパンの日没は素晴らしいものであった。それに触発された茂木さんの筆致も冴えわたる。

  つぼみでも、濃いでも、移り変わりの時はなぜこんなに美しいのだろう。昼間が夜へと移る夕暮れ時も、一分一秒が切なく、かけがえがない。こんな時は、そのあいだずっと、波打ち際にいたい。推移において、人は発見する。出会う。存在を揺さぶられる。、移ろうことこそが生きることである。だとすれば、私たちが、夕暮れ時に波うち際にいたがるのは、当然だろう。それは一つの、生命の祝祭なのだ。p87

そして、次に茂木さんが見たものは?

まるでそこで初めから旅の目的であったかのようにあるものが姿を現し、多くの読者は涙を抑えることができなくなるであろう。

Webから | 17:39 | comments(0) | - | - |

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