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NewsPicks Magazine Autumn 2018 vol.2 [ニューエリートの必読書]

JUGEMテーマ:自分が読んだ本

 

 

幻冬舎より発行の『NewsPicks Magazine Autumn 2018 vol.2』は、「ニューエリートの必読書500」と題し、各界の著名人や専門家がセレクトした必読書の特集がメインとなっている。

 

創刊号のあまりの充実ぶりに、vol.2以降の息切れを心配したが、単に国内だけでなく、アメリカ圏を中心に世界をカバーする挑戦的なスタイルはいささかも失われていない。

 

NewsPicksというと、意識高い系のサロン的な世界で、自己啓発書が中心と思いがちである。基本的にノージャンルである前田裕二の項こそそうした読者へのサービス的な部分もあるが、『孫子』『韓非子』『論語』など中国の古典が並んでいるのが特に目を引く。

 

前田の性善説と性悪説の咀嚼の仕方が優れている。

 

―ー韓非子的ソリューションというのは、性悪説に基づいてルールを強化することですか。

 厳密に言うと、性悪説というよりは、性弱説ですね。

 性悪説を最初に唱えた荀子も、人間が本質的に悪なのではなくて、環境によって悪に善にも変わってしまう、つまり弱い生き物なんだと考えていたのだと思います。

 性善説は性悪説は両立し得ないのですが、僕は、性善説と性弱説は両立すると思っています。つまり、「人は善く弱い」と捉えているのです。p14

 

他の著者に関しては、ハイブロウな教養人対象のチョイスであり、特に文学の項を譚とした佐渡島庸平がNewsPicksの読者層に触れた部分が興味深い。

 

 NewsPicksの読者は、すぐわかるものを読みたがる。読むと仕事のやる気が出る本も好きですよね。でもそのやる気はたぶん一日で消えてしまう。要するにテンションを上げる本なんです。テンションを上げるだけなら音楽を聴いた方がいい。p85

 

そう述べた上で、語り得ぬものを物語の形式で語ろうとする小説の意義を伝えようとするのである。

 

テクノロジーの分野を落合陽一が、統計学の分野を『統計学は最強の学問である』の西内啓が、経営の分野を楠木健が、英語の分野を同時通訳として定評のある関谷英里子が、アートの分野を『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の山口周が、そしてSFの分野をHONZ代表の成毛眞が執筆し、それぞれの視点からなぜそれらの本が選ばれたかが語られる。

 

たとえば、近著『デジタル・ネイチャー』でも援用されるノーバ―ト・ウィーナーの『サイバネティックス』に関して、落合は

 

 なぜ現代においても、こんなに古い本を読む価値があるかというと、ウィーナーのように思考をまとめようとする哲学のスタイル自体が面白いからです。時代を超えた価値があるのです。p32

 

と語っている。

 

西内啓は、統計学の入門書として、アラン・ダブニーとグレディ・クラインの『この世で一番おもしろい統計学』をあげながら、

 

統計学の一番のキモは、目の前のデータを集計したり平均を取ったりすることではなく、データの背後に潜む仕組みや法則を推測すること。多くのビジネスパーソンがわかっていないこの点を、マンガ(日本人好みの絵柄ではないが)と図解を使ってわかりやすく解説する。p56

 

とその長所を強調する。

 

楠木健は、小倉昌男の『経営学』と馬場マコトと土屋洋の『江副浩正』を並べてあげながら、両者の比較の面白さに言及している。

 

何が面白いかというと、彼の人生は途中まで、ものすごく小倉さんと似ている。本当にロジカルに全体を俯瞰して、それまでの業界の思い込みにとらわれることなく、まったく新しいビジネスを組み立てた。

 ところが、ご存じのように江副さんは人生の後半でトチ狂ってしまう。リクルート事件はその氷山の一角で、本来のイノベーターとしての輝きを失い、割と筋が悪いことをどんどんやるようになるんです。p64

 

こうした江副の評価の仕方は信頼できるものであろう。

 

「日本経済史」担当の横山和輝は、伊藤修の『日本の経済』を簡潔にまとめながらこう評価している。

 

『日本の経済』は経済学の視点で20世紀から21世紀の日本経済を俯瞰した本です。マクロ経済学の枠組みを押さえたうえで、戦後の昭和を中心に、明治から平成に至る日本経済の歴史と現状の両方を一気に学べます。p70

 

これだけの位置づけをされた本が、ハンディな中公新書に含まれるとわかると思わず読んでみたくならないだろうか。

 

関谷英里子はNancy Duanteの『slide:ology』を

 

効果的なプレゼンとスライドの作り方を指南した本。「文字が多くて読み切れない」など陥りがちなミスを排し、世界標準のプレゼン技術を身につけたい人にお薦め。p73

 

としているが、日本中のビジネスパーソンに読ませたい本だとわかる。

 

そして、成毛眞はシリコンバレーの起業家たちが好んで読むSFを読むことの価値を次のようにまとめている。

 

 恋愛小説は半径50cmぐらいの日常を描いているけれど、SFは半径5万劼阿蕕い寮こΔ鯢舛い討い襦そういう宇宙規模の物語を読んでいると、大きく考える力が養われる。それは大人になってから、発想力の差として表れます。p89

 

成毛のSFの選択は、『幼年期の終わり』『アルジャーノンに花束を』のように、古典的なものが多いが、グレッグ・イーガンの『順列都市』とオースン・スコット・ガードの『エンダ―のゲーム』を挙げているのが興味深い。

 

海外に関しても、ビル・ゲイツの120冊すべてがリストアップされる他、マーク・ザッカ―バーグウォーレン・パフェットバラク・オバマラリー・ペイジティム・クックイーロン・マスクジェフ・ベゾスピーター・ティールスティーブ・ジョブズとスーパースター揃いである。


海外篇に関しては分野による縛りがない分、それぞれの個性が顕著に現れていて、隣り合った人物の選書の違いから、発想の違いそのものがくっきりと浮かび上がるのである。

 

マーク・ザッカ―バーグの選んだ本には、モイゼス・ナイム『権力の終焉』ダニン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか』があるのはいかにもリバタリアンだし、イーロン・マスクの選書にはトールキンの『指輪物語』や、アイザック・アシモフの『ファウンデーション――銀河帝国衰亡史』が含まれるのはいかにも夢見る少年である。

 

それに対して、ジェフ・ベスのリストに『ビジョナリーカンパニー』『イノベーションのジレンマ』『ブラック・スワン』『日の名残り』などオーソドックスなラインナップが並んでいる。

 

そしてビル・ゲイツの120冊に至っては、ジャンルや好みを超越したオールラウンダーのイメージがある。そのゲイツとバフェットが揃って絶賛している本と言われると、ジョン・ブルックスの『人と企業はどこで間違えるのか?成功と失敗の本質を探る「10の物語」』も思わず手に取ってみたくなる。

 

とは言え、500冊の読んでないものを片端から読もうとするのは賢明でないだろう。その半ばは洋書であるし、入手にとんでもないお金や時間がかかり、厚めの本が多いため相当のスペースを食い、相当な重さになる。

 

だから、解説を流し読みする中で、自分のアンテナにひっかかったものをピックアップしてゆくのが第一のやり方だ。

 

もう一つのやり方は今興味ある分野に重点を置いて、その中でも興味をひく二、三冊をピックアップして読んでゆくやり方だ。そこで興味が深まれば、その分野の他の本に手を伸ばしてもよいし、ここで触れられていない別の本に向かってもよい。

 

さらに、海外篇に限らず、英語の原書のブックガイドが充実しているのが、本書の特徴だ。

 

落合陽一が薦めるJohn Maedaの『THE LAW OF SINPLICITY』は読むと考えが整理され、アイデアが次々に浮かびそうだし、西内啓が薦めるKaren Glanz、Barbara K.RimerK.Viswanathの『Health Behavior』は「健康のために人々の生活習慣をいかに変えるかを科学的に論じた医療者向けの本」というだけに、役に立つ知識満載の観がある。Walter Isaacsonの『Leonardo da Vinci』なんていかにも、ヤマザキマリがそのうち漫画化しそうではないか?

 

それに加えて、全米トップ10大学の課題図書ベスト10は、プラトンの『国家』、アリストテレスの『倫理学』、『政治学』、ホッブスの『リヴァイアサン』、マキャベリの『君主論』などきわめてオーソドックスな古典が並び、こうした本も捨てたものでないなと思い直す。

 

その他の特集記事「ニューエリートの思考法」は基本的に仕事法の紹介、「ニューエリートの習慣」は学習法の紹介で、本文の内容とも関連しているものが多い。たとえば千葉雅也「社会人が変身する勉強術」は、そのままこの雑誌で紹介された本の消化の仕方に応用できるものだろう。

 

  学問を学ぶときは、まずその分野の良質な入門書を見つけて読み、次はその入門書で紹介されている、より本格的な本を読んでいくのが正攻法です。

  その専門領域で、信頼されている本を読むことが大事です。いうなれば、「ソフトな権威主義」ですね(笑)。

  翻って、突然成功したような、よくわからない人の体験談などは、勉強になりません。ぽっと出の人に限って、自分の体験に頼り切って「これが絶対法則だ」とか言いきったりします。とても信頼できるものではない。p170

 

『News Picks Magazine Autumn 2018 vol.2』は、見直すたびに新しい発見があり、次の読書行動に駆り立て、個人の読書の境界線を大きく変えてしまう可能性を持つ最強の読書雑誌である。

 

  Kindle版

 

関連ページ:

NewsPicks Magazine Summer 2018 vol.1

NewsPicks Magazine Summer 2018 vol.1 [落合陽一「日本文化復興戦略]

文中敬称略

 

  Kindle版

 

現在Amazonでは紙版は品切れ中

 

幻冬舎より『News Picks Magazine』が創刊された。質量ともに大変充実した内容で、今後もこの内容を維持できるのか、心配になるほどの充実ぶりだ。

 

創刊号にあたる『News Picks Magazine Summer 2018 vol.1』は、表紙を飾る落合陽一のロングインタビュー「日本文化再興戦略」「ニューエリート50」「ポスト2020の世界と日本」の三本柱で構成されている。以下、落合のインタビューと雑誌全般の評価について簡略にまとめたい。

 

落合陽一「日本文化再興戦略」

 

落合陽一が取り上げるのは、明治時代に『武士道』を書いた新渡戸稲造や、『茶の本』の岡倉天心らのはたした役割だ。正しい紹介というよりもその時代に合った紹介の重要性。

 

 こうした仕事を、新渡戸や岡倉が明治時代で行ったおかげで、過去100年以上にわたり、「日本には独自の美的感覚とプレゼンスがあると思われてきました。それこそが、今我々が持っている文化の多くを占めていると思います。p8

 

さらに、鈴木大拙、吉田松陰、福沢諭吉らの名を挙げた後、現在の日本のグローバルとローカルの和解、デジタルのプロセスとアナログのプロセスの和解と位置づけ、一種の撤退戦を強いられるこの時期、明治時代と類似したアプローチが必要とする。

 

今の日本は、時代にコアがない時代、だから何でもいいので、とりあえずの叩き台を提示することが必要と落合は言う。

 

 別にたたき台が正解でなくてもいいのです。外れてもいいので、まずは問題提起しないといけません。それなのに、真に賢い人は問題提起をせずにササッといなくなってしまうんですよね。p9

 

日本人がわびさびを忘れたことは、経年劣化したマンションがヨーロッパとは逆に値段が安くなることにも表れている。服も同様だが、メルカリはものをあまり捨てなかった江戸時代への回帰の萌芽かもしれない。

 

そして新しく思想を作る上でのヒントとして、モノを作りながら語ることという自説を展開する。

 

  語るだけでなく、語りながらものをつくれるか。自分で語れる歴史をちゃんとつくれるか。全員にとって正しい歴史でなくてもいいので、自分の観点で語れる自分史をどれだけ持てるかーーー自分のコンテキストが問われているのです。p9

 

重要なのは、茶道でも、華道でも、野球でも、アートでも何でもいいので、各人が自分自身の道(way of life)を持つこと。そのために必要なのは何だろう。

 

 深い集中とアウトプット量。その中で感性を自分なりに磨いていくことです。p12

 

さらに鑑賞の必要性や、ビジネス=アートと見る考え方などが展開されるだろう。

 

ニューエリート50人

 

50人の日本の、そして世界のキーパーソンの紹介だが、政治、ビジネス、テクノロジー、アート、スポーツなど多岐にわたる。ただ、情報の質や量はバラつきがある。以下、50人の名前を列挙するが、ページ数は( )内の数字で示す。また、記事の末尾ではバーコードからNewsPicks本体の記事に飛ぶことができるが、インタビューや本人の執筆記事があるものは〇、記者による取材記事があるものは●印を付しておく。

すべての人物に関して、一次情報が得られているわけではないが、一つの雑誌のコンテンツとしては非常に奮闘している様が伝わってくるはずである。

 

1.小泉進次郎(4) 衆議院議員

2. 本田圭祐(4) プロサッカー選手 ●

3. 前澤友作(2) スタートトゥデイ代表 〇

4. 渡辺直美(1) お笑いタレント

5. 森岡毅 (1) 刀CEO 〇

6. 山田進太郎(2)  メルカリ会長 〇

7. 大谷翔平(4) プロ野球選手

8. 伊達美和子(1) 森トラスト社長

9. 出木場久征(1) Indeed CEO 〇

10.川村元気(2) 映画プロデューサー、小説家

11.岡野原大輔(1) プリフォード・ネットワークス副社長 〇

12.光本勇介(1) バンク社長 〇

13.ONE OK ROCK(4) ロックミュージシャン

14.大迫傑(1) 陸上競技選手

15.大坂なおみ(1) プロテニスプレーヤー

16.石川康晴(4) ストライプインターナショナル社長 〇

17.慎康俊(1) 五常・アンド・カンパニー代表 〇

18.隈研吾(1) 建築家 〇

19.前田裕二(1+1/2) SHOWROOM社長 〇

20. 武部貴則(1/2) 横浜市立大学先端医科学センター教授

21.濱口秀司(2) ビジネスデザイナー〇

22.三木谷浩史(1/2) 楽天会長兼社長

23.藤田晋(1/2) サイバーエージェント社長

24.孫正義(1) ソフトバンクグループ会長 ●

25.豊田章男(1+1/2) トヨタ自動車社長

26.ギル・プラット(1/2) トヨタ・リサーチ・インスティテュート CEO

27.イーロン・マスク(1) テスラ、スペースX CEO

28.ジェームズ・ダイソン(1) ダイソン創業者 〇

29.ヴィタリック・ブテリン (2) イーサリアム考案者 〇

30.ジハン・ウー(1) ビットメイン共同創業者(1)

31.ジーン・リウ(1) DiDi総裁

32, ダラ・コスロシャヒ(2) Uber CEO 〇

33. デミス・ハサビス(1) DeepMind ●

34. ブライアン・チェスキー、ジョー・ゲビア、ネイサン・ブレチャージク(1) Airbnb共同創業者●

35. アダム・ニューマン、ミゲル・マッケルビー(2) WeWork 共同創業者 ●

36.シェリル・サンドバーグ(1) Facebook CEO

37.ロバート・アイガー(1) ウォルト・ディズニー・カンパニーCEO

38.テッド・サランドス(1) Netfix CEO

39.ピーター・ティール(1) PayPal共同創業者

40.ダニエル・エク(2) Spotify CEO 〇

41.ジェフ・ベゾス(1/4) Amazon.com CEO

42.ラリー・ペイジ(1/4) Google 共同出資者

43.マーク・ザッカ―バーグ(1/4) Facebook CEO

44.ティム・クック(1/4) Apple CEO

45.ジャック・マー(1/4) アリババ会長

46.ポニー・マー(1/4) テンセントCEO

47.サティア・ナディラ(1/4) マイクロソフトCEO

48.ロビン・リー(1/4) バイドゥCEO

49.習近平(1) 中国国家主席 ●

50. ウラジミール・プーチン(1) ロシア大統領 ●

中でもひときわ目を引くのは、そうそうたるグローバル企業のTOPに直接コンタクトを取っている点だ。特に、UberやSpotify、イーサリアムなどクラウド時代の申し子のような伝説のビッグネームへの直撃インタビューはとても魅力的だ(ただし、ヴィタリック・ブテリンの記事は写真ばかり大きくて短すぎる)。

 

ポスト2020の世界と日本

 

さらに充実しているのは23人からなる「ポスト2020の世界と日本」。『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリを筆頭に、すべて直接のインタビューまたは対談記事である。つまり、一次情報オンリーで情報価値が高い。こちらも同じやり方で枚挙してみる。

 

1. ユヴァル・ノア・ハラリ(6) 歴史家、ジャーナリスト 〇

2. ルトガー・ブレグマン(4) 歴史家、ジャーナリスト 〇

3. イアン・ブレマー(4) ユーラシア・グループ社長

4. 堀江貴文(2) SNS media&consulting ファウンダー〇

5. 佐藤航陽(8) メタップス社長

6. 伊藤穣一(4) MITメディアラボ社長 〇

7. マックス・テグマーク(4) MIT教授 〇

8. 吉野彰(2) 旭化成名誉フェロー、名城大学大学院理工学研究家教授

9. 前田裕二(4) SHOWROOM社長 ●

10.ドミニク・チェン(2) 情報学研究者、起業家。

11.山本豊津 (3) 東京画廊社長

12.山口周(3) コーン・フェリー・ヘイグループ シニアクライアントパートナー

13.御立尚資(ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)シニアアドバイザー×石川善樹(予防医学研究者、医学博士)(4)

14.佐渡島庸平(2) コルク代表

15.明石ガクト(2) ONE MEDIA代表

16.松岡正剛(2) 編集者、著述家、日本文化研究家

17.富山和彦(4) 経営共創基盤CEO 〇

18.入山章栄(4) 早稲田大学ビジネススクール准教授

19.岡島悦子(2) プロノバ社長

20.峰岸真澄(4) リクルートホールディングス社長

21.新浪剛史(2) サントリーホールディングス社長

22.ポール・ポールマン(2) ユニリーバCEO

23.リンダ・グラットン(4) ロンドン・ビジネススクール教授 〇

 

個人的に特に印象に残ったのは伊藤穣一、マックス・テグマーク、前田裕二の記事。

 

伊藤穣一は仮想通貨やICOのメリットもデメリットもよく見えているという感じで、言葉に重みがある。

 

 自分の会社だったら、今絶対にICOはしません。もうちょっと買う人の知識レベルが上がってからやらないといけないと思います。自分のファンドのお金を集めるときの、中身をわかっていない人には、株のシェアは売らないようにしています。p120

 

マックス・テグマークの最近作のコンセプトは、「ライフ3.0」。このコンセプトは、落合陽一の「デジタルネイチャー」に近いものがある(但し、落合の方がより包括的で徹底している)。

 

 Life 1.0は、ハードウエアとソフトウエアの両方が、DNAによって規定される生物です。p122

 これに対して、Life 2.0は、ハードウェアはDNAによって規定されているものの、ソフトウエアは後天的に設計できる生物のことです。我々人間は、Life 2.0である。同上

 Life 2.0である人間は、ハードウエアの限界によって行動が制限されています。何百年も生きることはできないし、今までに発表されている論文をすべて覚えることはできません。

 一方でLife 3.0は、そうしたハードウエアの限界から解放され、ソフトウエアと同じハードウエアも自分自身で設計できる生命のことを指します。p123

 

『Life 3.0 Being Human in the Age of Artifcial Inteligence(AI時代に人間であること)の邦訳は7月に発売予定という。この本の存在を知っただけでも、980円の元はとれたと思う。翻訳書のベストセラーになるかもしれない。

 

前田裕二は『人生の勝算』を読んだ時点では、あまりに平易な語り口で、その凄みを感じなかったのだが、このインタビューを読むときわめて知的な頭脳の持ち主で、先の先まで見通すビジョンと文脈を整理するロジックが傑出している。5G時代の動画のリッチ化をテレプレゼンスバーチャル化と予測している。そして、エンタメの課金の進化をパッケージ世代体験価値を消費する世代直接支援世代の三世代にわけながら分析、今後のトレンドを次のように予測する。

 

 日本の未来を予想すると、いろいろなコミュニティが自律分散的にたくさん出てきて、それぞれのコミュニティに同時並行、同時多発的に所属できるという状態になると思います。p131

 

また御立尚資石川善樹の対談では、縄文的原型と弥生的原型という日本文化全体を概観する一つの視点を得ることができる。

 

 片や、強さ、過剰さを感じさせる「縄文土器ー狩野永徳ー東照宮ー明治工芸」という縄文ライン。岩佐又兵衛や伊藤若冲、葛飾北斎、岡本太郎、草間彌生がこれに当てはまります。

 片や、すっきりシンプルな「弥生土器ー千利休ー桂離宮ー柳光悦」の弥生ラインです。美術ライターの橋本麻理さんは弥生ラインの延長に無印良品’(良品計画)があると指摘します。p143

 

また、次のような突き刺さる言葉もあった。

 

ルトガー・ブレグマン

 

 日本における問題点は、本当は働かなくてもいいのに、働いているかのように振る舞わなくてはいけないところです。これは社会的に強いられている文化です。頑張っているように見せるために、オフィスにいなければなりません。p88

 

イアン・ブレマー

 

 先日全米の高校生たちがアメリカの首都ワシントンや各地で集まり、銃規制の必要性を訴えるために、アメリカ史上最大規模のデモが行われるというニュースがありました。銃をめぐる政策を、本当に動かしつつあるものでしった。

 ところがその翌日、大統領選前にトランプと不倫したと主張するポルノ女優のインタビューが流れると、メディアはそちらの方にばかり目を向けました。本来はどうでもいいことにみんな流れていったのです。p105

 

結論

 

NewS Picks Magazine は、一部効果を狙って色数を抑えたページもあるが、オールカラーで紙質もよく、それでいて広告のきわめて少ない、コスパの高い雑誌である。インタビューベースであるため、高度に専門的な内容までは立ち入れないが、グローバルな間口を持ち、幅広い分野をカバーする上質の教養・ビジネス誌である。、

 

次号以降も、同レベルのクオリティを維持しながら、長く続くことを望みたい。

pen 2018 3/1号 No.446 [生誕90周年 マンガの神様 手塚治虫の仕事。]

  文中敬称略

 

 

雑誌『pen 2018年 3/1号 No.446』では、[生誕90周年 マンガの神様 手塚治虫の仕事(クリエイション]と題し、24pから121pまで約100ページにわたる大特集、手塚治虫ファンだけでなく、マンガやアニメのディープなファンには垂涎の内容となっている。

 

 

基本的に手塚治虫のマンガの収録や、古い白黒写真を除いてすべてカラーなのである。

 

 

手塚作品の原点となった戦争とアメリカのアニメから始めて、手塚マンガの基本的な手法、漫画家や編集者の目から見た手塚作品の真骨頂、そして多くの作品の解説が次から次へと続く、

 

さらにいくつかの作品を取り上げ、SF作品、社会問題や不条理もの、変身ものといったテーマを掘り下げてゆく。

 

手塚治虫の場合には、コミックにとどまらずアニメの世界も、1960年の「西遊記」から始めて1987年の「森の伝説」に至るまで一つの歴史をなす。

 

さらに同業者や編集者、アニメーターなどの人間関係の紹介が行われる。

 

手塚の原点となっているのは、単に戦争やディズニーのアニメーションだけではない。藤子不二雄石ノ森章太郎らが集まったトキワ荘、幼い頃から歌劇に入り浸る一方で、昆虫の宝庫でもあった宝塚、人生の選択に迷った医学部など、手塚作品に不可欠な作品の源泉もクローズアップされるのだ。

 

51年には卒業を迎え、インターンを経て医師国家試験に合格。試験の前日ギリギリまでマンガを描いて、その晩から一夜漬けせ勉強して合格したという逸話もある。p62

 

100pの特集の中でも大きな地位を占めているのが、自伝的マンガの「がちゃぽい一代記」(pp65-108)。終戦直後の闇市の時代から、売れっ子漫画としての活躍、アニメの作成、渡米に至るまで、1970年に至るまで手塚の足跡がコンパクトにまとめた名作だ。

 

Kindle版の『紙の砦』にも収録されていてKindleの月替わりセールの対象になったこともあるので読んだ人も多いと思うが、雑誌と同じ大きさで読む「がちゃぽい一代記」はまったく別の味わいがある。別冊付録ということで、一応取り外しも可能になっている。

 

特に、都会の通りをキャラクターたちとともに歩く手塚の後姿は、いつまでも心に残る名シーンである。

 

そして、最後をしめくくるのが、長男の手塚眞や長女手塚るみ子ら手塚家のメンバーによる対談、横尾忠則など親しい人々の証言、そして新座に今も残る手塚治虫最後の仕事場の篠山紀信による撮り下ろし写真である。

 

中でも手塚眞の次の言葉は印象的だ。

 

最近まで早く亡くなったのは無茶をしすぎたせいなんだとずっと思っていた。でも、いま改めて思い返してみると、よくぞ60歳まで頑張ったなあって、……。あれだけの仕事をしていたら40歳で倒れてもおかしくはない。倒れないだけのエネルギーがあったんです。p113

 

改めて、作品の一つ一つを読んでゆけば、同じ気持ちにならずにはいられないのだ。

 

余りに広大な広がりを持った多作家であるために見失いがちな巨匠の輪郭を直感できるベストの一冊なのである。

 

 

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