つぶやきコミューン

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石田衣良『七つの試練 池袋ウエストゲートパーク将検

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

石田衣良『七つの試練 池袋ウエストゲートパーク将検(文藝春秋)は池袋ウエストゲートパークシリーズの第十四作目にあたる。「泥だらけの星」「鏡のむこうのストラングラー」「幽霊ペントハウス」「七つの試練」の四つの作品が収録されている。

 

池袋西口公園は、再開発され、野外音楽堂が建設される。この「池袋ウエストゲートパーク」シリーズも、いよいよ終了かと思いきや、池袋一のトラブルシューター真島誠は相変わらずの平常運転だ。

 

 ウエストゲートパークでは円形の広場の改装工事が始まっていた。なんでも六重のリングを空に浮かべ、コンサートができるような野外のステージにするらしい。ガキのころから見慣れた噴水もとり壊すそうだ。

 ホームタウン育ちのおれにはちょっと残念だが、東京が変わるのはしかたなかった。明治元年から百五十年、この街が変わらない年などなかったのだから。(「鏡の向こうのストラングラー」p98)

 

「泥だらけの星」は、悪徳プロダクションの罠にかかって、女性スキャンダルをネタに強請られている若手俳優の話だ。だが、いったん相手の条件を呑むと、どんどんと要求はエスカレートして、骨までしゃぶられる。だから事務所の方針として相手の要求を呑むことはNG、そこでGボーイのキングこと安藤崇経由でマコトに依頼が舞い込んだわけだ。悪徳プロダクションの裏には、ヤクザの影がちらつき一筋縄ではいけない。誠はそれをどう解決するか。

 

「鏡のむこうのストラングラー」は出会いカフェに出没し、死なない程度に何度も女性の首を絞める犯人をあぶりだす仕事だ。

 

「幽霊ペントハウス」は、新婚夫婦のマンションで、夜な夜な定時になると鳴り響く奇妙な音の正体をつきとめることを依頼される。どうやらその敷地は神社で、祟りも噂される因縁の土地だった。マコトは畑違いのゴーストバスターの仕事を果たすことができるのか。

 

そして「七つの試練」は、ネットの掲示板で流行るデスゲームの被害者たちからの依頼だ。課題を実行し、それを自撮りしてアップしいいねの数を競い合う。最初はラーメン完食のような他愛のないものだが、しだいに万引きのような犯罪へとエスカレートし、最後に来るのは…その結果何人も負傷者出たわけだ。しかし首謀者である管理人の正体も、所在も、軍開発のソフトウェアに守られてわからない。マコトはどうするのか?

 

いずれも、一見解決不可能のように見える課題に対する解決策を、四苦八苦しながらもなんとか見つけ、タカシ配下のGボーイらの手助けを借りながら、警察権力とは別の決着をつけるところに、このシリーズの醍醐味がある。この14集では、ゼロワンなど懐かしいメンバーも登場する。

 

「池袋ウエストゲートパーク」シリーズは、その年代特有のトレンドを、事件として取り上げている。時代が変わるとすたれてしまうような現象や言葉を回避する賢明な作家もある一方で、石田衣良はあえてそのリスクを正面から引き受ける。そうすることで、このシリーズは、時代の空気をそのままストーリー化したクロニクルとなり、読者のさまざまな思い出と結びつく。それが「池袋ウエストゲートパーク」の大きな魅力ともなっているのである。

 

関連ページ:

 

小玉ユキ『青の花 器の森 1』

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『坂道のアポロン』が映画化された小玉ユキの最新長編コミック『青の花 器の森』は、同じ長崎県の波佐見町を舞台にしたラブストーリーだ。

 

佐世保市の隣町である波佐見町は人口1万四千人、長崎県では唯一海に面していない市町村で、棚田と波佐見焼で知られている。中尾山には多くの窯元が集まり、桜陶祭の開かれる四月には全国から来た大勢の人で賑わいを見せる。

 

次の波佐見町のビデオは、そのまま『青の花 器の森』の背景の解説になっている優れものだ。

 

 

主人公の馬場青子は31歳。波佐見で生まれ育ち、波佐見焼の窯元の一つで働いている。ふだんは髪を後ろに束ね、丸い眼鏡をかけて目立たなくしているが、かなりの美人で、スタイルもいい。細面なのに、アラレちゃんのような大きな黒目がチャームポイントだ。性格は天然で整理整頓は苦手、趣味は食べること、特に甘いものに目がない。

 

そこへやってきた一人の青年。真鍋龍生。長身でかなりの「イケメン」だが、表情は平坦で、感情に起伏がなく、人との間に壁をつくりがち。この窯に来て早々に一年で止めるつもりと、全く空気を読むそぶりも見せない。

 

だが、彼はただ者ではなかった。器をのせた長い板をバランスよく持ち、その器の出来も上々。青子は、その言動にはムカつきながらも、彼がつくる一輪挿しと手の仕草に魅せられ、思わずその器に絵付けをするイメージが浮かぶ不思議な体験をする。

 

だが、絵付したい由を伝えると、絵付しない方がいいに決まっていると、龍生に秒殺されてしまう。

 

そして、窯元でも意見が二分したため、二人の意見のどちらが正しいか、雌雄を決することになる。。

 

はたして勝敗のゆくえはいかに?

 

前作の『月影ベイベ』で富山県八尾市のおわら踊りの世界、そのしぐさの一つ一つに、複数の世代の恋の記憶を込めて描いた小玉ユキは、この『青の花 器の森』でも、ろくろによってつくりだされる波佐見焼のかたち、その上に描かれる絵付の模様、そしてそれをつくりだす男と女の手の動きに、繊細な感情の世界を凝縮的に表現しようと試みている。

 

言葉の上では対立し合う青子と龍生だが、しだいに焼き物を通じて、互いの存在を認め合うようになる。龍生が器に触れる時に、青子が感じる不思議なときめきは恋の一歩手前だ。

 

なんなの あの手

器触っているだけなのに

優しくて

色っぽくて

 

まるで

 

見ちゃいけないもの

見ちゃったみたいに

 

ドキドキする

 

だが、龍生にはいくつかの語られざる秘密があった。克服しきれていない火に対する恐怖心、海外に出たものの自分の器がつくれなくなって、一からやり直すために帰国したこと。そして…。ふれれば壊れそうな器のようなもろさを、龍生の過去ははらんでいるのではなかろうか。

 

『青の花 器の森』は、男女の繊細な感情のドラマを通じて、いつの間にか読者を波佐見の町と、焼き物の世界まで、好きにさせてしまうような不思議な力を持った美しい作品である。

 Kindle版

 

関連ページ:

小玉ユキ『坂道のアポロン』1〜10

堀江貴文『健康の結論』

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自殺、ガン、脳梗塞、心筋梗塞、毎年大勢の人が、若くして、命を落とす。メディアを賑わせる有名人の死は、氷山の一角にすぎない。その中には、実は避けることが可能であった死も少なくない。もっと早期に発見していれば、医師に相談していれば、定期的に健康診断を受けていれば、AEDが近くにあれば、防げた無数の死がある。

 

堀江貴文『健康の結論』(KADOKAWA)は、そうした防げる死を防ぐための、オールラウンドなガイドと言える一冊だ。

 

もちろん、いかに情報通であろうと、堀江貴文は医学の分野の専門家ではない。だから、各章ごとに各分野の専門医師のサポートを受けながら書かれており、聞きかじりの話を思い込みで発展させ、トンデモな情報が紛れ込むリスクもない。

 

防げる死の中で、最初に取り上げるのは自殺だ。日本での自殺者の数は、世界的にも高いレベルで、特に若者の自殺は深刻だ。

 

死にたいと訴える人は、実は辛さが和らげば実は生きたい人である。

 

 特に注目すべきなのは、15〜39歳の死因では「自殺」が事故やがんなどを上回り、15〜34歳の自殺率は事故による死亡率の2.6倍に上ることだ。先進7か国で「自殺」が「事故死」を上回るのは日本だけである。p56

 

どのような理由で人は自殺に至るのか、そのトリガーとなるものは何か、自殺する人の特徴はなどを明らかにしながら、そのリスクを減らす方法を考えてゆく。そこで突き当たるのは、自殺する人は、「辛いときに人の助けを求めない」という傾向だ。

 

周辺のサポートが何よりも大事だが、それでも一人で抱え込むのは禁物。共倒れの可能性もあり、必ず専門家の意見を仰ぐのがよい。

 

□死にたいと言われたら、ワンオペではなく、チームで支えよう。p74

 

続く第3章で扱うのは、心筋梗塞や脳震盪などの「心臓突然死」である。心臓突然死は、早期の適切な措置があれば、蘇生できる可能性がきわめて高いとされている。

 

119番通報で救急車を呼んで救命措置を行っても、9、2%の人間しか助からないが、心臓マッサージを行えば16.1%に、AEDを使えばなんと54.0%の人を救うことができるのだ。

 

どれだけ社会にAEDとその使い方を浸透させるかで、心臓突然死の数は目に見えて減らすことができるということである。

 

しかし、AEDは一台30万円とまだ高価である。大容量のバッテリが値段を引き上げているが、ほんの数回使える簡易的な仕様にすればもっと値段を引き下げることができれば、もっと多くの人が助かるだろう。クラウドファンディングで安価なモデルの量産をめざすなら、解決はすぐ目の前にある。

 

そして、次の第四章は、昨年一年間で37万8千人が亡くなったガンがテーマだ。すべてのガンに対策が可能なわけではないが、胃がんの多くはピロリ菌が原因であり、肝細胞がんの多くは肝炎ウイルスの感染による。また、比較的治癒しやすい大腸がんはポリプの発見によって、早期発見・治癒につながる。

 

  大阪国際がんセンターの調査によると、ポリープを2個以上持つ人は、持っていない人に比べて7倍も大腸がんになりやすく、摘除しても他の場所に再発するリスクが多いそうだ。

  たとえポリープが見つかったとしても、実際にがん化するには数年かかる。そのため最低でも2年に1度、できれば毎日、便潜血検査を受けておけば手遅れになるようなことはまずないと言ってもいい。p108

 

さらに第5章では「脳卒中」(「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の総称)をいかに減らすかがテーマ。脳卒中の場合には、早期の適切な措置が必須で、そのためにも初期症状を見逃さないことが重要となる。この分野では、生活習慣の改善がダイレクトにリスク軽減につながる。

 

第6章は、日本が特に対策が遅れている子宮頸がんなどの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)を扱うほか、望まない妊娠を予防する「アフターピル(緊急避妊薬)」も紹介する。

 

第7章は、単に入れ歯になるだけでなく、脳卒中や心疾患にもつながる歯周病の予防がテーマ。いったんかかってしまうと、歯磨きや、歯科医の治療でも完全な除菌は困難と言われる。脳卒中や心疾患だけでなく、糖尿病や肺炎、早流産にもつながりかねず、そのリスクはいくら強調しすぎてもしすぎることはない。

 

第8章の「ホリエモンの予防医療サロン」では、1日3〜4時間の短い睡眠時間で日本でも最も働きすぎと言われる落合陽一の健康診断を例に、働き盛りの人間の健康管理を考える企画だ。危ないんじゃないという堀江のツッコミに、落合は健診データや医者の談話を盾に切り返すやりとりが面白い。

 

堀江 大丈夫? このままいくと死ぬよ?

落合 そう、だから、ちゃんと定期健診は受けてるんですよ(笑)。

p206

 

このようにして、日本人の主要な死因につながることで、防げる死を格段に減らすことを目的にしているのが『健康の結論』である。個別にがんだけ、歯だけ、心臓疾患だけを扱った本は多いが、自殺まで含めて、専門医のアドバイスを一冊にまとめた本は類がないし、各章ごとのまとめもチャート式の受験参考書のようにわかりやすく、ときどき見返すのにもちょうどよい。HPVなど社会的な議論の詰めが残っているものもあるが、大半の結論はあまりに正しすぎて異議を唱えることが困難だろう。本書が多くの読者を獲得し、その提案の一つ一つが社会的に浸透することは、間違いなく、未来豊かな若者や、働き盛りの人の死を、減らすことに直結することだろう。

 

 Kindle版

 

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