JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
■物語のメタモルフォーゼ
『チーム・オルタナティブの冒険』(ホーム社) は評論家宇野常寛による初の長編小説である。
立ち上がりは、ほろ苦い青春小説のように、主人公森本理生のモノローグで始まる。トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』小松左京『果しなき流れの果て』カート・ヴォネガット『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』光瀬龍『百億の昼と千億の夜』…登場する小説名も、多分に中二病的である。豚肉の串焼きが焼き鳥と呼ばれる片田舎の高校生森本理生は、本の貸し借りで親しくなった国語教師葉山千加子の死を機に、生活が一変する。それまで理生や親友藤川を中心に、好き勝手できるたまり場となっていた写真部の部室に、理生と同じ図書委員の板倉由紀子を連れ、白衣を着た国語教師、カバパンこと樺山優児が顧問として入りびたり始めたのである。さらにオートバイを操るイケメンの若者ヒデさんこと豊崎秀郷を使い、日替わりでフードのデリバリーを利用できるようにし、由希子を含む三名の女子が出入りし始めたことで、完全に部室の主導権を奪われてしまう。
葉山先生の存在をはじめ、たくさんのものを僕は失くしてしまっていた。しかしその代わりにいくつかの豊かなものと僕は出会い始めているように思えた。
カバパンや由紀子のノリには違和感を感じたものの、ヒデさんと意気投合し、女子の一人バイク好きの井上綾乃とも親しくなり、やがて夜から朝方までカブトムシやクワガタを観察するなど環境調査のアルバイトを請け負うにおよんで、著者の『ひとりあそびの教科書』を現代の高校生に投影したノベライゼーションなのかと考えそうになる。『夏への扉』『幼年期の終わり』『ストーカー』などのSF小説が話題に加わり、『アラビアのロレンス』『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『惑星ソラリス』などの映画も登場する。だが、ある不安とともに、しだいに雰囲気は単なるジュブナイルな小説ならぬものの影がさす。周囲に、ある視線を感じ始めるのである。これはホラー小説なのだろうか。それともSFなのだろうか。
そして「Team Alternative」(チーム・オルタナティブ)の名称。それはヒデさんのオートバイのステッカーに貼られたものだが、尋ねても「人類の自由を守る正義の秘密結社」と意味不明の答えが返ってくるばかり。そして親友藤川の失踪がトリガーとなり事態は急変、いつしか三人の謎を追うミステリ的展開に。鍵は、虫の眼にあった。
「(…)コツは一つ。虫の眼で世界を見ることだ。虫のように音を聞き、臭いをかぐことだ。そして虫の羽と足でこの世界を動き回ることだ。(…)」
なぜ、葉山先生は死ななければならなかったのか。なぜ藤川は失踪したのか。なぜカバパンや、ヒデさんだけでなく、由紀子まで、ケガが絶えないのか。すべての謎が解き明かされたとき、物語はその真の姿を現し、怒涛のクライマックスに向け加速する。
そう、『チーム・オルタナティブの冒険』は、『ひとりあそびの教科書』の単なるノベライズではなく、そこに含まれるコンテンツの物語として実装なのである。なんという爽快感!だが、こんなことが許されてよいのか?!禁断のキーワードを知るためには、書店で本書を手に取り、パラパラと、ページを最後まで早送りするだけでよいのである。
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